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15.黒き塔と白き雷

「リ、リアムさん、人がいっぱい……!!」

「しっ、静かにしとけ。少しでも怪しまれたら終わりだぜ」


 王城をぐるっと取り囲む、高い城壁。


 その途中途中に位置するのは、これまた豪奢に飾り付けのされた門である。


「次。

……伯爵様でしたか、本日はどのようなご用向きで?」

「陛下に謁見だ。ほれ、これが書状ぞ」

「では、失礼して。


……


ありがとうございます。確認できましたので、お通りください」


 巨大な門の両脇には兵が控えており、通行しようとするものを厳重に監視している。


「な、なんか僕達浮いてない……?

みんな、すっごい豪華な服装着てるし――」


 おどおどと周囲を見渡しながら、不安そうに呟くソータ。


「そりゃ、お貴族様ばっかだからな。

他には……名の知れた大商人やら、あとは兵くらいか」


 声を潜め、小声で答えるリアム。


「王宮に出入りできるのは、特別に許可された奴らだけだ。

オレ等みたいな平民が、そう簡単に入れるもんでもねえんだよ」

「じ、じゃあ一体どうやって――」

「……次の者!」

「ほら、オレらの番だぞ」


 手に槍を構えた兵の前へと、ゆっくりと進んでいく二人。


「ん?お前らのような平民が、一体何の用――」

「いつもお勤めご苦労さまでさぁ、兵隊さんよ。

……これを」


 リアムが握った手を前に出し、そっと開いたその中には――


「リアムさん、それ……お金?」


 それを一瞥した兵は、馬鹿にするように一度笑って。


「……ふざけているのか?

こんなもので、我らが――」


パシッ!


 差し出された金貨を、片手で軽くはたき落としたその途端。


「――っ」


ドクンッ!


 兵士の表情が、一気にこわばる。


「あ……あ……」

「兵隊さんよぉ、誰が平民だって?」

「……あ」

「さてと」


 ぐい、と顔を近づけるリアム。


 彼の耳につけられた黒い耳飾りが、きらりと揺れた。


「……通して、くれるよな?」

「……あ、っ。

し、失礼しました!!」


ガバッ!!


 手に持った槍を投げ出し、その場に平伏する。


「どうぞ、お通りください……!」

「え、えっ?」

「ほらソータ、突っ立ってねえでさっさと行くぞ」

「で、でも」

「……バレねえうちに、早く」


 小声でそう告げたリアムは、ソータの手を引き足早に門の中へ。


「な、なんで通れて――

って、わぁ……!!!」


 戸惑うような表情のソータは、しかし顔を上げた途端に目を輝かせる。


「す、すっごく大きい!!しかもピカピカしてる……!!」

「まあ、王城――それも南の大国、フォルテ王国のだからな。

大きくもなるだろうよ」

「あ、あれは……!?」


 興奮したように、ソータが指差す先には――


「……ああ。

大英雄の像だ、フォルテ王家の開祖でもあるからな」


 王城の正面、門から入ってすぐに見えるのは――巨大な金の像。


 剣を高く掲げ、上を向くその頭には立派な兜が。


「お、重そうだなぁ……」

「ちなみに、生涯兜を外さなかったらしいぜ」

「す、すごいね」

「……禿げ隠しって噂もある」

「台無しだよ!?」


 のけぞるソータ、笑うリアム。


「んじゃ、作戦会議といくか」


 近くの木陰に身を潜めつつ、懐から小さな地図を取り出す。


「さ、最深部の『禁書庫』――だっけ。

ど、どうやっていくの?」

「んー、普通は王城の中を突っ切って行くしかねえんだが……

まあ、お前がいるから無理だな」

「な、なんかごめん……」

「気にすんな、そのためのこれだろ」


 ひらひら、ハクからもらった地図を掲げるリアム。


「しかし、さっすがブラン様だな。

……オレでも、これは知らなかったぜ」

「ち、ちょっと待っ――」


 周囲を気にしつつも、リアムはずんずんと歩みを進めていく。


「そ、そっち王城の方角じゃないよー!!」

「……流石に、それはわかる。

じゃなくて、この地図によると――あるんだよ」

「あ、ある?」

「ほら、あれだ」


「ほら、あれだ」


 軽く指差す先を見た瞬間。


「……え」


 ソータの足が、思わず止まる。


 金や銀、様々な色の宝石で飾り付けがされた王宮。


(な、なんで)


 そんな中、その塔だけが――闇のように、真っ黒だった。




◇◇




「……懐かしいな。

リーナと出会ったのは、ここだったか」


 目深に被ったフードの中で、ノワは呟く。


「ああ、思い出すだけでも腹立たしいですね。

出会ったばかりのお嬢様に――『妹になれ』とは」

「ははっ、だが俺がいなければあのまま処刑されていたであろう?」

「勘違いしないでください。

私一人でも、お嬢様を助け出すことは出来ました」


 ため息をついて、ハクは続ける。


「ただ、そうしようとしたところで。

お嬢様は……私を、拒んだことでしょう」

「なぜだ?リーナはお前を慕っていると思うのだが」

「執事として、です。

……あの場所には、お嬢様の――『家族』が、いたのですから」


 遠ざかる王城を、小さく目を細めて見やる。


「いくら虐げられようと、どれだけ忌み嫌われようと。

……お嬢様は、ずっと信じていらした」


 少しでも愛されているのだと、自分を――『家族』と、思っているのだと。


(……いえ。

願っていた、と言ったほうが正しいかもしれませんね)


 何度拒絶されても。


 どれほど傷つけられても。


(……それでも、お嬢様は『家族』を見ていた)


 あれほど壊され、何もかもを奪われて。


 それでも、幼い主は信じ続けていた。


「私には……理解、できません」


 それは、彼が魔族だからなのか。


(それとも。

他に、何かあるのでしょうか)


 小さく息を吐く。


(……考えても、仕方のないことですね)


 首を振って、ノワに向き直る。


「信じていたものから、拒絶されて。

……無理やり助け出したとて、私では――その心を、救えなかったでしょう」


 それは、彼が執事だから。


 仕えることでしか、誰かの側にいられないから。


「……けれどノワ、あなたになら出来る。

お嬢様の望むものになれると――そう、思ったのです」

「ほう?珍しいな、根拠もなしにそんなことを言うとは」

「根拠なら、ありますよ」


 小さく微笑んで、その目を見つめる。


「認めたくはありませんが。


……あなた達は、よく似ている」


――そして。


(あの方と――フォンセ様と、彼らも)


 扉から出てきた、小さな少女。


 戸惑うように、けれど嬉しそうに彼を見上げる目。


『……懐かしい』


 初めて出会うはずなのに――どうしてか、そんなことを思ってしまった。


「似ている、か。

お前がそう言うのなら、そうなのだろうが……俺から見れば」


――あやつに、良く似ている。


 不意に、脳裏をよぎる笑顔。


 幼き日の記憶。振り返れば、いつもその光は燦めいていた。


「……セレネ」


 呟くノワに、ハクが不思議そうに声をかける。


「……ノワ?

何か、言いましたか?」

「いや、なんでもない。

生き残った白髪が、リスタの他にもいないのか――引き続き、調べるぞ」


 一歩、踏み出そうとして。


ドンッ!!!


 地面が、揺れた。


バチッ


 空気が、焦げる。


 髪が逆立つような圧。


「……なんだ?」


 振り向いたノワは、その姿を見て――


「……ほう、わざわざ出てきてくれたのか?

すまないな、あいにく探しているのは()()()白髪だ」


――魔族おまえでは、ない


 それを聞いた彼女は、悲しそうに呟く。


「あら、それは残念ね。

でも大丈夫よ、探していたのはこちらだから」


ビリッ!!


 彼女の周囲に、雷のような電流が走る。


 少しずつノワの方へ歩み寄るその左右で、ふわふわと白髪が揺れた。 


「こんにちは、魔王ノワさん。そして白の当主、ブランシェ様。

この前は、夫と息子がお世話になったわね」

「……何者です。

なぜフォルテに、魔族が――」

「大変だったのよ?

カルロスとかいうあばれんぼさん、私の領地にまではるばるやってくるんだもの」

「……カルロス、とな。

さてはお前――ローレル家の」


 目を細めるノワ。


 レオとフェリスの一件を受け、北のローレル領に赴いたノワとカルロス。


 暴かれていく悪事、ローレル家の者の捕縛。


 順調に進んでいく中で唯一、最後まで行方がわからなかったのが――


「まさか、フォルテ王国にまで逃げていたとはな。

――ローレル公爵夫人」

「いやね、今回は私が追う側よ?魔王さん」


ピカッ!!


 眩しい光とともに、彼女の手に生成されるのは――雷で作られた、巨大な矢。


 上品な仕草でそれを構え、微笑んで彼女は告げる。


「『月桂冠ローリエト』幹部、『七星アステリズム』第七席。

『雷電』フェクダ=ローレル」


 その手の中には、三本の光る矢。


 薄く葉の刺繍が施されたドレスの裾が、ひらりと揺れて――


「黒など、必要ない。


――仇討ちを、始めましょう」


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