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16.底に待つもの

「ま、真っ黒……」


 そびえ立つ塔を前に、ソータは呆然と立ち尽くす。


 眩しく光り輝く王宮で、唯一。


「――『黒い塔』っていわれてる。

作られたのは、確か大英雄時代だったか」


 静かに佇むその塔だけが、異質だった。


「な、なんでこんなものを?

しかも、王宮のすっごい端っこだし」

「さてな。

黒なんて、見たくなかったのかもしれねえが」


 ちらり、王城の方を見るリアム。


「……さてソータ、じゃあ入るぞ」


 ごくり、と唾を飲み込んで――


キイッ


「お、お邪魔します……?」


 真っ暗な部屋。その中に向けて、リアムは小さく唱える。


――『ファイア


ボウッ


「す、すごい……!

それが精霊術、なの!?」

「まあ、そんなとこだ。

ほら、これで足元くらいは見えるだろ」


 指先の炎が、二人の前を軽く照らす。


 促されたソータが、一歩を踏み出すと――


ブワッ


「っけほっ、ほ、埃……!?」

「1年くらいは使われてねえからな、そうもなるだろ」

「い、一年!?

で、でも逆に一年前には人がいたの!?」

「っしまった……!」


 不思議そうなソータの目線を受け、急に慌てるリアム。


 誤魔化すかのように部屋の窓を開け、明るくなった室内を見て一言。


「……何も、ねえな」


 傾きかけた柱、剥げた塗装、大きな木片でなんとか覆い隠された穴。


 最低限の家具に、最低限の物。


「なんか……

すごい、暇そうだね」

「ああ、こんなとこに長くいたら……」


(誰とも話さず、ずっと一人)


「……俺なら、気が狂っちまうぜ」


 ブルッ。想像しただけでも、リアムの身体に小さく悪寒が走る。


「で、でもここ――王城からは、結構離れてるよ?

『禁書庫』には行けないんじゃ」

「……ここらへん、か」


 呟いたリアムは、次の瞬間――


ドカッ!!


 硬い地面を、勢い良く足で踏み抜いた。


「っげほげほっ、り、リアムさん何してるの!?」


 立ち上る粉塵に、口を手で覆いながら叫ぶソータ。


「よし、地図のとおりだな」


 満足そうなリアムの声とともに、徐々に視界が晴れていく。


「な、何……

って、うわっ!?」


 驚くソータ。その目線の先には、リアムの足元にある――


「あ、穴……!?」

「ちげえよ、よく見てみろ。

――通路だ」


 言われるままに覗き込めば、その中には地下へと続く階段が。


「ほら、行くぞソータ」

「だ、だから待ってって――」


 ためらいもせず、リアムはその中へと進んでいく。


「『ファイア』。

暗いな、足元気をつけろよ」

「う、うん」


 階段を降りた先には、またもや通路が。


 先の見えないそこを慎重に進みながら、ソータはためらいがちに尋ねる。


「ね、ねえリアムさん」

「ん、どした?」

「そ、その。この国の人達って、髪色で精霊と契約できるか決まるんだよね?」

「ああ、そうだな。

だから、それができねえ白や黒は長く虐げられてきたわけだ」

「じ、じゃあ――」


 聞いて良いのかためらう、と言った様子のソータ。


 リアムに促され、やっとその口を開く。


「……どうして、白とかの人は。

髪色、染めなかったの?」

「なんだ、そんなことか。

まず第一に、それが出来るようになったのはごく最近だからだ」

「最近?」

「んーまあ、百年くらい前だな」

「そ、それ最近なの……!?」


 前を向いたまま、リアムは続ける。

 

「第二に、基本的に染料は宝石から取る。だから高すぎるんだ」

「そっか、白とかの人は生活が苦しいから……」

「そ、買えねえんだよ。

そして最後に――以前、ある裕福な商人が髪を金髪に染めたんだが」

 

 そこで少し、言い淀む。


「染めた当時は良かった。王家レベルの大精霊と、確かに契約出来たんだ。

……いや、出来ちまった」

「す、すごい……!

じゃあ、お金ある人は皆染めちゃえば――」

「……だけど、いつまでも持つわけじゃねえんだよ。

一度でも身を清めれば、すぐに落ちる。問題はその後だ」


 リアムの脳裏に浮かぶのは、累々と積み重なる死体。


「染めた商人――もともとそいつは、茶髪だったんだ。

本来は、最低級の精霊と契約できるかどうかくらいだな」


 それが、髪色を染めたことで――いきなり、最上級に近い精霊と契約した。


「も、もしかして。

良く思わない王様とかが、罰したとか……?」

「それもあるが。

本当の理由は――」


――色が落ちた後の、惨劇だ。


 歩みを止めないまま、リアムは続ける。


 薄暗い壁に、彼の炎だけが不気味に揺れていた。


「その夕方、商人はいつものように水で身体を清めた」


 きっと彼は、得意になっていたことだろう。


 その偽りの力で、王家に匹敵するほどの力を得て。


 世界が、輝いて見えたことだろう。


「……だけど。

偽りの力ってのは、必ずどっかでその代償を払うもんだ」


 髪を洗い、自ら出て。


――騙したな


 突然、そんな言葉が聞こえてきた。


 その意味を理解するより前に、次の瞬間には――


ザシュッ!!


「死んだ。……いや、殺されたんだよ。

全員が、一瞬でな」


 一人残された彼は、狂ったように叫んだという。


――これは、これは……


「――精霊の、祟りだ。

ってな」


 リアムが訪れたとき、そこは異様なほどの静けさに包まれていた。


 ある者は肉が裂け、またある者は頭から弾けて。


 唯一生き残ったはずの、商人さえも。


――首をくくって、死んでいた。


 炎に照らされた横顔が、わずかに歪む。


「最悪だったぜ。もう二度と、見たくねえ」


 けれど、と同時に思う。


(……いつも、そうだった)


 人は、ずっと――今も昔も、争って。


 何度も何度も、見てきた。


 それが、自分に残された――使命だったから。


「……まあ、そんなわけで危険すぎるんだよ。

誰も彼も、染めようとはしねえさ」


 肩をすくめ、そう締めくくるリアム。


カツッ


 ふいに、その歩みが止まる。


「……今の、『壁』か?」

「……?

リアムさん、どうしたの?」

「……いや。

そうか、だからブラン様は入れなかったのか」


 頭を振って、リアムは前を見据える。


「ほら、ついたみたいだぞ」

「……こ、これ」


 炎に、ぼんやりとその姿が映し出される。


 古い扉。周りが石造りの中、それだけが木で作られていて。


(……なんだ、これは)


 扉の前だけ、空気が違った。


 長い年月、誰にも触れられていないはずなのに。


――誰かに、見られているような。


 ごくり、と唾を飲み込んで。


「……いいか、注意して進むぞ」


 リアムが、その取っ手に手をかけた途端。


ヒュンッ!!


「――っ!」


カキンッ!


 リアムの頬をかすめ、それは壁に跳ね返される。


「……チッ、危ねえな」

「わ、罠……!?」


 自分の足元に落ちてきたそれを拾い上げ、炎にかざして。


「……っえ!?」


 ソータが、驚いたように声を上げる。


「なんだ?

……ん、変な形だな」


 見たことねえ武器だ、と言うリアムの横で――


「こ、これって……


しゅ……手裏剣!?」


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