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14.白き翼の来訪者

「アリス様!南の村が一つ、勇者によって焼かれたと――」

「勇者の手のものが、略奪を――」

「フェリス様、どうかご支援を!

勇者が南の魔王軍と衝突!未だ戦況は――」

「っんわぁーーもう!!

勇者勇者って、やってること単なる侵略者じゃないですの!」


 魔王城、その執務室にて頭を抱えるアリスとフェリス。


「このまま行けば、次はこの街が襲われます……!

東の丘の上に兵を配置、遠距離系の魔法で引き付けている間に横から――」

「アリス、わたくしは何をすれば!?」

「至急、カルロスさんに魔鳩コロンバをお願いします!

ここに書いた作戦通りに。兵の配置に関しては任せる、と!」

「わかったですの!」


ピュイッ!


 窓に向けて、フェリスが力強く口笛を吹く。


 すると――


バサバサバサッ!!


「クルッ!!」

「く……クルクル助!?

あなた、無事だったのですか!?」

「クールルッ!!」


 驚くアリス。その腕に止まるのは、ノワからの書簡を届けたあの鳩。


(信じられません……!

あれほどひどく、負傷していたというのに)


 そんな彼が、今では元気に羽ばたきを繰り返していた。


ガチャッ


 タイミングを見計らったように、彼女の背後で扉が開き――


「俺様が治療したんだ、感謝しろ。

魔王軍に入って、まさか鳩に治癒魔法をかける日が来るなんて思ってなかったぞ」


 そうぼやきながら、近くの椅子にどすっと倒れ込む。


「カイル、戻っていたのですね……!

っそれで、勇者の襲撃は――南の街は、今――」

「……壊滅だ。

わずかな生存者を治療して、話を聞いたが」


 苦々しい表情で、彼らの言葉を伝える。


「……勇者は、フォルテ王国の精鋭ほぼ全員を従えている。

行く先々で略奪を繰り返し、こっちは削られるばっかりだ」


 カイルの脳裏に浮かぶのは、酒と女に溺れる金髪の彼の姿。


 その背後では、焼ける街と――苦しむ民の姿。


(……何が、勇者だ)


 服の下で、固く拳を握りしめる。


「で、ですがこちらも軍を派遣しているはずです!

戦況はどうなっているのですか!?」

「……それが。

こっちが反撃に出ようとするたびに、『壁』の向こう側に後退するらしい」

「な……!

卑怯、ですのよ!」


――魔法の一つすら、魔力の一片すら。


 壁は、その全ての――『魔』を拒んでいた。


「壁すれすれには、あっちの治癒の精霊術師が待機しているようだ。

少しでも傷ついたら、壁の中に戻って。また回復したら、攻めて来て」

「……っこれでは、徐々にこちらが削られていくだけです」


 絞り出されたアリスの声には、ありありと焦燥が浮かんでいて。


「……なあ、今回の『壁』って。

なんか、おかしくねえか?」

「っカイル!!

今は、そんなことどうでも良い――」

「アリス、落ち着くですわ!

……勇者が来てから、少し変ですのよ」


 アリスを気遣うような二人の目線。


 それでも何かを言おうと口を開くも、言葉は出ない。


(陛下なら、どうしていたの?)


――私では、代わりにはなれない


 背けた顔。ひっそりと唇を噛んで。


「……っごめん、なさい。

少し、頭を冷やしてきます」


ガタッ


 重い椅子が動き、アリスはふらふらと扉から出ていく。


 引き止めるように伸ばしたカイルの手は、空を掴んだまま


「……カイル、分かってあげてほしいですの。

心の支えのリーナもいない、今は陛下もブラン様も不在で――」

「分かってるよ。

……あいつは、背負い過ぎなんだ」


 執務室に、重たい沈黙が落ちる。


 誰も、次の言葉を見つけられなかった。


 気まずい空気に耐えかね、カイルが口を開きかけたところで――


コンコンッ


 窓を叩く、軽い音。


「……?なんですの?」


 不審に思いつつも、フェリスはその窓の前まで歩いていき――


「――っ!カイル、逃げっ――」


ピキッ、ピキピキッ……


ガシャンッ!!!!


 閃光とともに、一気に砕け散る。


 咄嗟にカイルを庇ったフェリスの背中に、割れたガラスの破片が突き刺さり――


「っう」

「フェリス、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……ですの」


ザッ!


 素早い動きで後退し、フェリスは斧を構える。


 鼓膜を震わすのは、のんびりとした声。


「わ〜!ホントだ、良かったぁ!」


 粉塵の中に、ゆらりと現れる影。


パチパチパチ


 砕け散った窓を見回しながら、彼は嬉しそうに拍手する。


「魔王の結界、ぜーんぶ無くなってる!」


 鼻歌交じりの、上機嫌な声。


「だ、誰だお前……!」

「他の幹部と、連絡取りづらいは不便だけど〜。

やっぱりいいねー、あの『女神の壁』って〜」


 徐々に、その全身があらわになる。


 白く揺れる長い髪に、柔らかな曲線を描いた目元。


 その口元には、薄く微笑みすらたたえられていて――


(殺気も、何も感じねえ。

っなのに)


――動けない!


ポタリ


 冷や汗が、カイルの頬を伝って静かに落ちる。


「ふぁぁ……

あんまり僕、働きたくないんだけどな〜」


 そう言いながら、よいしょ、と割れた窓をまたぎ室内へ。


「……っ!」


 途端、フェリスが息を呑む。


「ブラン様と……同じ、ですの」


 侵入者の背にあるのは、まるで天使のように輝く――


「――翼」

「んー?」


 眠たげに目をこすりながら、彼はゆっくりとフェリスの方を向く。


「同じって、

……ああ、そゆことかぁ」


フワッ


 自分の背にある翼を、愛おしげに撫でる。


「兄貴とね、一緒なんだー」


 うっとりとした目。


「むふふー、きれいでしょ〜?」


 真っ白なそれには、一片の乱れも――汚れすら見えない。


 それでもフェリスは、斧を固く握りしめたままに吐き捨てる。


「……なにが、綺麗ですの?」


――その翼からは。


「……いえ、あなたからは。

血の匂いしか、しませんわ!」 


 その言葉を聞いた途端、すっと彼の目が細められる。


「血?

ボクは兄貴みたいに、白く美しき道を歩んできたのに?」

「……美しく?

笑わせてくれますわ、あなたの道は屍で作られていますの?」

「っこの――」


 怒りに任せ、背後の翼が激しく動こうとして――


「んあ、ダメだ〜。

兄貴なら、こんなことしないもの!」


 ふわり、笑顔が戻る。


(なんなんだ、こいつは……!)


 見ているしか無いカイル。一方で、相対するフェリスも――


「……っ!」


 斧を持つ手が、確かに小さく震えていた。


「えーと……

こういう時、兄貴ならどうするんだっけ」


 首を捻って、うんうん唸ってから。


「……そうだ!

まずはご挨拶、だったね!」


 にっこり笑顔で、ぎこちなく胸に片手を当て。


「『月桂冠ローリエト』幹部、『七星アステリズム』。

……えっと確か、4席だったっけな〜?」


 不自然なほどに、身体を深く折り曲げる。


――沈黙。


「……あ、そうそうー。

名前、言わなきゃ〜!」


ガバッ!


 数秒が経ち、歪な動きで勢い良く顔を上げたときに。


 そこでようやく、それが「お辞儀」であったことに気づくのだ。


「はじめまして〜!ボクは大英雄の時代から生きる、古き魔族の一人。

そして兄貴の――」


 そこでふと、何かを思い出したように言葉が途切れる。


「えと、なんて呼ばれてるんだっけ。

えーと、えーと……」


 うろうろ、室内をせわしなく動き回る彼。


「……あ!思い出した〜!」


バサッ!


 背後の翼が、勢い良く開かれた。


 満面の笑みのまま、彼は二人に嬉しそうに告げる。


「ボクはね、『風浪』ドゥーベ。


兄貴――『白の氷王』ブランシェの、忠実な下僕おとうと……だよ」

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