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12.ほころびの壁

「ノワ!

女神の壁が、再び……!」

「ああ、俺も気づいた。

魔国から流れ込む魔力が、どうも一気に減ったからな」


 きらびやかな王宮を取り囲む、高い城壁。


トスッ


 その上に静かに降り立ったノワは、遠くを見つめしばし考え込む。


「何を呑気なことを!このままでは、魔国へ戻れません……!

勇者への対処を、アリス達に任せることになってしまう!」

「何か、問題でもあるのか?」

「当然でしょう!

大英雄たった一人に、我ら魔王軍が壊滅させられたあの出来事。まさか忘れたとは――」

「安心しろ、忘れてはおらぬ。

……だが――」


 ちらり、と王宮を見下ろす。


「今代の勇者ならば、あやつらで十分対処出来るであろう」

「なぜです!?勇者の実力も、未だ分かってはいないのに!」

「ブラン。なぜ俺達は負けた?」

「……は?

決まっているでしょう、かの大英雄が女神の力――光の精霊術を」


 と、そこまで言ってハクは止まる。


「……まさかノワ、今代の勇者は。

光の精霊術が、使えないのですか?」

「流石だな、その通りだ。

……とは言っても金髪、精霊の好物に代わりはない」

(強力な精霊術を扱うのは、間違いないだろうな)


 目線の先には、王宮の中心にある巨大な教会。


「先程、勇者の契約の儀式を見てきた。

女神なんぞ、影も形も見えなかったな」

「しかし、かの大英雄は女神と契約していました。

なぜ、今代の勇者だけ――」

「さてな、だが。

……面白いものを見た」


 目線をハクの方へと戻し、薄く笑う。


「――『聖女』だ。

どうやら、勇者召喚と同時に見つかったらしい」


 その言葉を聞き、顔をこわばらせるハク。


「……そんな馬鹿な。

ありえません、早すぎます」


(先代の聖女は、お嬢様の母君――たった、10年前です。

次の聖女が現れるには、あまりにも)


 考え込むハクに、ノワは肩をすくめて言う。


「金髪で、魂も魔族のものではなかった。

聖女と言うほかあるまいよ」

「聖女と……実際に会ったのですか!?

無茶をなさる、見つかったらどうするつもりだったのです」

「硬いことを言うな、それはその時だ。

……さて」


パチンッ!


 小気味よい音。そして――


バサバサバサッ!


 元気の良い羽音とともに、遠くから飛んでくる一羽の鳩。


「クルック!」

「うわぁ……クルクル助」

「なんだその名は、鳩が可哀想だろう」

「私ではありませんよ、カルロスです」

「……そうか。あやつなら、やりかねんな」


 微妙な顔をしながらも、ノワは紙切れに何かを書きつけ――


ゴクンッ!


 鳩に、それを飲ませる。


「ノワ、それは?」

「壁の復活やら、勇者やら。アリスたちに伝えることが山程あるからな」

魔鳩コロンバを飛ばすおつもりですか?

無駄でしょう。壁がある以上、一切の『魔』は行き来ができないはず――」

「そこをなんとかするのが、お前の役目だろう」


 ほれ、と言って鳩を渡すノワ。


「なんとか、ね……相変わらず無茶振りを。

主命とあらば仕方ありませんが」


 ため息をついて、ハクは目を閉じる。


「『その跡を辿り、残せ――』」


グワンッ!!


 放たれるのは、音のように広がる微細な魔力。


 繊細な指使いでそれらを操りながら、静かに呟く。


「……やはり、壁が魔力を弾いている。

前触れもなく――どうしてまた現れたのでしょう」

「それを言うのなら、突然に崩壊した理由も聞かせてほしいところだな」

「その『聖女』とやらに、直接尋ねてみてはいかがです?

……おや」


 ふと、ハクの指先が震える。


「……ふふっ」


――見つけた

 

 目を開ける。その瞳の中に映るものは、彼にしか捉えられないであろう――


「――『穴』ですか。

ノワ、魔力が跳ね返らなかった場所が一箇所だけ」

「ほう?やはり壁は、まだ不完全ということか」

「ええ。数十年前のものと比べ、段違いに薄い。

そして、穴も――非常に小さなものではありますが」


 鳩を見下ろし、微笑んで。


「このくらいの大きさであれば、通ることはできましょう」

「……良くやった。

塞がる前に、さっさと飛ばすぞ」

「お待ちを。

この状況は、反魔王派にとっては絶好の機会です」


――敵は、勇者だけではない


「先日の『月桂冠ローリエト』の動きも未だに掴めていませんし、何より――」


 脳裏によぎるのは、寸前でミザールを逃したあの瞬間。


――まるで、時が止まったかのようで


 覚えのある感覚。嗤う少年の顔が、ハクの記憶に浮かび上がる。


「――ネロ様。

そして、その配下の魔族だって見つかっていない」


 顔を背け、ハクは呟く。


「……そう気を落とすな。

あやつらを逃したのは、俺の責任でもあるのだ」

「クルルッ」

「まずは、壁の破壊の方法を探るとしよう。

……お前の知恵が、必要だ」


――頼む


 それを聞いたハクは、一瞬虚を付かれたように固まって。


「っふふ、そう言われては断れませんね。

……まっすぐに飛んでいきなさい。魔国の命運は、あなたにかかっていますよ」

「クルッ!」


 ハクの腕の上で、一度嘴を高く上げてから――


バサバサッ!!


 遠ざかる翼を、微笑んで見つめる。


「ノワ、あなたが私に『頼む』とはね。

明日は雪でもふるのでしょうか、それとも――お嬢様にお相手でも出来たのですか?」


 冗談めかして言うハクに、しかしノワは真剣味を帯びた表情で呟く。


「……あながち、間違っていないやもしれん」

「は?誰です?氷漬けにして指の一本一本割っていって死にかけたところで治療してまた――」

「待て、確証がないのだ。

……大体、なぜこんなところに」


 しばし考えた後に、ノワはため息をついて歩き出す。


「わからないことが多すぎる、まずは情報を集めるべきだろう」


 そのまま城壁の端まで行って――


バサッ!!


「待ちなさいノワ、ここで飛んでは正体が露見します!

もう少し警戒心を持って――」

「はは、大丈夫だろう。見ているやつなど誰も――」

「リ、リアムさん!!空から、空から人が落ちてくる!!」


 下から聞こえてくるのは、びっくりしたような少年の叫び声。


「……ノワ」

「……俺は知らん」


 落下しながらふいと顔を背けるノワ、ため息をつくハク。


「どうする、このまま落ちて死んだふりでもするか?」

「黒髪に、白髮の落下死体。

見つけた者は、さぞかし騒ぐことでしょうね」

「……だろうな。

仕方ない」


 一瞬の浮遊。


トスッ


 軽い動きで、二人は地面へと着地する。


「っえ、え……!?

いま浮いて!ってか、あの高さから、ぶ、無事……!?」

「……チッ。

なんでオレは、こんなについてねえんだ……!」


 混乱する少年と、帽子を被った頭を抱える赤髪の青年。


「……さて。

お前たちに用意された道は、二つだ」


カツッ


 笑顔の魔王。しかしそれを見た二人は、その場に縫い止められたように動けなくなる。


「1つ目。

ここで会ったも何かの縁。俺に協力し、情報を提供するか」


カツッ


「2つ目。この場で――」


 ほんの一瞬、沈黙。


「いますぐに」


 血のように真っ赤な双眸が、二人を貫いて――


「火あぶりになるか、だ」

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