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1.呼びかける声、消された色

「リ……ナ!!」

「おじょ……さま、し……かり!!」

「う〜ん、う〜ん」


 うなる私。必死に私を呼ぶ声が聞こえるような気もするが、目を開ける気力すら湧かない。


「う〜ん……」

(風邪、引いたのかな……)


 耳鳴りが、頭の奥で爆ぜる。次の瞬間――


ピカッ!

「――うわまぶしっ!」


 どうやら私の意識は、どこかおかしなところにぶっ飛んでしまったらしい。


「……え、ここどこ?」


 真っ白な光に包まれた、だだっぴろい謎の空間。


(以前にも、見たような)


 思い出そうにも、ずきりと頭が痛む。


「あー!!」


 試しに叫んでみると、ぐわん、と反響する声。


 どこかの巨大なホールにでも迷い込んだかのようだ。


「……あのー、誰かいませんかー?

……って、夢だろうしいるわけ――」

「ふふっ。

おひさ、ってやつかしら?」

「っわ!!」


 突然真横で聞こえた声。反射的にその方向を向くと――


「……妖精さん?」

「あら、分かってくれて嬉しいわ。流石は私のリーナちゃんね、うふふっ」


 ふわふわと揺れる長い髪に、非常に良く整った造形シルエット


 くすり、と笑っているようにも見える――のだが。


「っうわまぶしっ!!!」

「もう、リーナちゃんったら。

それさっきも聞いたわよっ」


 なぜか拗ねたように言う彼女。


(しょうがないじゃん、本当に眩しいんだもん……)


 目を凝らして彼女の姿を見ようとすればするほど、その全身から放たれる凄まじい光に目が焼かれそうになる。


(顔も姿も、なんにも見えない。

……それなのに)

「やっぱり。

きれい、だね」


 思わず呟くと、驚いたように光が一瞬強まってから。


フワッ


 妖精さんが、こちらに向けて歩み寄る。


 優しい風が、私の長い髪を揺らし――


「――ってえ!?

……な、なんか私、金髪なんですけど……!?」

「あら、気づくの遅いわね。

そういう鈍感なところ、あの人によく似てるわ」

「ど、鈍感て……!相変わらず失礼な妖精だなおいっ!」


(でも、どうしていきなり……)


 真っ黒なはずの、私の髪。


 今はまるで満月のように、光を受けて眩しく金に輝く。 


(……私の姿、じゃない)


 そのはずなのに。


(どうして、こんなにも。

――違和感が、ないんだろう)


 全てから解き放たれたような、不思議な気持ち。


 夢とも現実とも思えない、美しい空間。


「……もしかして、ここ。

天国?」


 そう言うと、妖精さんはまたくすりと笑って。


「まあ、間違ってはいないわね」

「えっ」

(そこは間違っていて欲しかった!死にたくない!風邪ごときで死にたくない!)


 内心焦りまくる私の様子をまるで微笑ましく見守るような、そんな彼女の思いが伝わってくる。


(……あ、そういえば心が読めるんだっけ)

「声に出しても出さなくても同じか……」

「うふふ、そのとおり!……でも大丈夫よ。死んではいないわ。

ただ少し、『こちら側』に――近づいてしまっただけ」


(こちら、側?)


 そういう彼女の姿も、感情も何も見えなくて。


 戸惑っていると、妖精さんは小さく呟いた。 


「……呼ばれたから、よ。

役目は、果たさなくてはならない」


 そう言って、私から遠ざかっていく彼女。


「っちょ、待ってよ……!

呼ばれたからって、なんで」

「……ああ、そうだわ。

参考までに、聞いておきたいのだけれど」


 ふわりふわり、飛ぶように後ろへ下がる妖精さん。


「リーナちゃん。

家柄がエリートで、実力もあって、何より見た目がイケメンだけど性格がゴミカスな子と」

「……え?」

「何もない、平凡だけど……性格が良くて、優しい子。

どっちがいいかしら」


 冗談を言ってる様子もなく、妖精さんは私に向けてそう尋ねる。


「……は?」

(いや、本気で何言ってるの?)


 遠ざかる光に向けて、全力で懐疑の眼差しを向けると――


「……うーん。まあ、選べないわよね」

「いやちょっと――」

「よし、分かったわ!どっちも連れてくるわね!」


 頑張っちゃうわ!みたいな声音の彼女。いや、考えさせる時間というものがあるのではなかろうか。


「……そろそろ時間ね、後のことは私が――」

「ま、待って!!」


フワッ!


(うわっ!)


 妖精さんの方に駆け寄ろうとすると、私も浮遊感に襲われる。


 バランスを崩しつつも彼女の方へ向かいながら、必死に私は叫んだ。


「――約束!」

「……約束?」

「だから!

あなたは一体――誰なの!」


(教えてくれるって、前に!)


 次に会ったら、と言っていた気がするのだが。


「……残念、教える『かも』よ」

(ちょっ……やっぱり教える気ないやん!)


 少し怒りつつ妖精さんに手を伸ばしても、なぜかどうしても届かなくて。


(なに、これ。

見えない『壁』が、あるみたい)

 

 そのまま彼女は、またも遠ざかっていってしまう。


「なんで、待ってよ」

「――セレネ」


 ふと、思い出したように告げられる名前。


「……え?」

「そう、呼んでちょうだい。

……せめてあなた達の前では、その姿で居たいの」


(あなた達、って。

その姿、って……?)


 わからない。私はこの人――いや、この存在について何一つ知らない。


(でも)

「……セレネ」

「ふふっ。

……ああ、懐かしいわね」


 光が、消え始める。


 空間の輪郭も、ぼんやりしていき――まるでうたかたの夢が、崩れるかのよう。


「リーナちゃん」


 最後に呼ばれた名前。


 ほんの一瞬だけ光が途切れ、見えたのは。


サラッ……


 美しい花の香とともに、長い金の髪がなびいて――


「……気を付けて」

(待っ――)


 その言葉とともに、私の意識は途切れた。


「……ろ!!起きろってば!

おい――半魔!!」

「っわ!!もしかして性格悪いやつってあんた!?」

「……なんでこんなときでも一言余計なんだよ。

おい、お前ら。起きたぞ」


(……ん?ここ。

魔王城、か)


 ふらふらする頭をベッドから起こし、ゆっくりと目を開けると――


「っ良かった――リーナ、心配したんですよ!!」

「全く、世話が焼けるですわ!

もう少しで、我が竜の里秘伝の治療法――棍棒でぶん殴るところでしたわ!」

「お嬢様……!お目覚めになったのですね。

――本当に、良かった」


(……みんな)


 小さな私の寝台を取り囲むのは、ホッとしたような皆の表情。


「俺の責任だ、無理をさせてしまったな。

すまない、リーナ」

「……ノワ」


 そっと私の額に手を当てるノワの表情もまた、安心したように少し柔らかい。


「熱は、下がったか。

にしてもリーナ、ブランの慌てようが凄まじくてな。見せてやりたかった」

「仕方がないでしょう。

お嬢様がこのようにいきなりお倒れになることなんて、これまでありませんでしたから」

「丈夫なんですね、リーナって……」

「ふんっ!バカは風邪引かない、ってやつだろ!」


(うわあ、騒がしい……)


 病み上がりの頭にはかなりこたえるが、それでもなんだか――


「……あったかい」


 悪い気は、しなかった。


「さてノワ、さっそく溜まった政務を片付けにいきますよ」

「なっ……!

俺はもう少し、リーナの側にいる。政務の方はお前とアリスが――」

「あなたがお嬢様の側につきっきりだったせいで、もう見るのも恐ろしい量になっているのですよ!」


 ほら、行きますよ!と言ってノワはハクに引きずられていく。


「あはは……今夜は徹夜でしょうか。

リーナ、また後で……」

「ア、アリス。大丈夫……?」


 魂の抜けたような笑みを浮かべながら、アリスはその二人の後についていく。


「ほら、いいからお前は寝てろ」

「……っわつめたっ!」


 いきなり額に水気を含んだ何かが押し当てられる感覚。


 手を伸ばし触れてみると、どうやらそれはおしぼりのようで――


「……もしかしてカイル、私のこと治療してくれた?」

「っんな、別にお前のためじゃ――」

「ずーっとぶっ通しで治癒魔法をかけ続けてましたわ。

陛下も、その成長っぷりに驚いてましたの」

「お前、余計なことを――!」


 顔を赤くして照れるカイルに、少し意地悪そうな表情のフェリス。


(……そっか、カイルのお陰で私は)

「ありがとう。

流石、魔王軍の治癒師だね」

「おい、お前まで……!

俺様は、まだまだ未熟だ。だからその――礼はいらん!」


ドスドスッ!


 怒ったように、カイルも扉から出ていってしまう。


「まったく、素直じゃありませんわ!

さっきだって、リーナを殴ろうとしたら止めてきて――」

「そ、それは普通にカイルありがとうだわ!殴るのやめて!?本当にやめて!?」

「だから、これは我が里伝統の――」


 と、そこでフェリスは一点を見つめて固まる。


「……フェリス?どうし――」

「何者ですの!?

答えなければ――」


ブオンッ!!


「叩き切りますわ!」


 斧が、彼女の手の中で旋回する。


「だ、誰かいるの……!?」

「っ」


ガタッ

「ひっ……!」

(お、お化け!?)


 突然、窓が開き――


「っう」

ドサッ


 重い音。


 這うように、転がり込むように中に入ってきたのは――


「リ……

リスタさんっ!?」


 随分久しぶりの、白髪の彼女の姿が。


「知り合い、ですの?

……けれど、どうしてこんなに」


 絶句するフェリス。そう、苦しげにうずくまるリスタは――


(な、何があったの……?)


 血まみれ。服もボロボロで、ここまでたどり着けたことすら信じられないほどに弱りきった姿。


「っすぐに、カイル呼んで!!ノワも!!」

「ま、……て」


 血に濡れた口元が、かすかに動く。


「だめ、喋ったら――」

「もうし、あげます」


 開かないまぶた。力なくひゅーひゅーとなる喉。


 限界だ。それでも彼女は、必死に口を動かして――


「フォルテ王国、にて」


 けほっ、と血が溢れる。


「白髪の、ものが――


突如として――全滅、しました」


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