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2.蘇る惨劇の予兆

「白髪の、者が……全滅、しましたっ……!」


 途切れ途切れの息。彼女自身の白髪も、また血で真っ赤に染まっていて――


(白髪が、いや白髪だけが。

全滅……って)


 それも、突然に――何の前触れも、理由もなく。


「……ありえない。そんな、こと」

(自然の摂理に、反してる)


 あってはならないこと。それは――


(正さなくては、ならな――)

「かはっ……!」

「――っ!

リスタさん、しっかりして!」


 赤の混じる彼女の咳に、はっと私の意識は引き戻される。


(今、私――何を考えて)


 どうして突然に、()()()()()を思った?


(っいや、今はそんなことより)


ビリッ!!


 真っ白な寝台のシーツを引き裂き、彼女の傷へと巻き付ける。


「っ止まらない……!!」

(どうなってるの、全身が傷だらけで――

こんなの、人に出来ることじゃ……ない!)

「っう……」

「ダメ、リスタさん!!

……っ誰か!!」

 

 そんな私の思いが、通じたかのように。


バタンッ!!


「リーナ、連れてきましたわ!」

「おい半魔、怪我人って一体どういう――

なっ……!」


 駆け込んできたカイルは、その惨状を見て立ち尽くす。


「お願い、カイル……!」

「っやってみるが……

俺様の魔力じゃ、足りるかわかんねえぞ!?」

「それでも、この人――リスタさんは、私にとって大切な人なの!」


 必死に叫ぶ。あの時の、彼女と出会った時の思いを乗せて。


『……そうだ、リーナちゃん。

あなたの髪、とっても綺麗な色だと思うわ。

誰がなんと言おうと――』


――私は、好きよ。


 そう微笑んで、愛する人――魔人となってしまった彼へと向かった彼女。


(リスタさん)


 思い返せば、あの時。


 彼女との出会いをきっかけに、私は変わったのだ。


(……まさか、生きててくれたなんて)


 だが、そんな彼女は今。


「な、なんでだ……魔力を使っても使っても、吸い取られていく!?

っおいフェリス、ブラン様は!?」

「わかりませんわ!

隣の執務室に、誰もいませんの……!」


 焦ったようなフェリスの叫び声。どうやら、ノワやハクが見つからないようだ。


「リスタさんっ、なんで……!!」


 どうして彼女が魔王城にいるのか、どうしてこんなにもぼろぼろなのか。


(わからないけど、それでも)


「っ返さなきゃ、いけない言葉があるのに……!」 


 無我夢中でカイルの手に自分の手を重ね――


「っリスタさん!!

――『生きて』」


 その瞬間。


パアァァッ!!!


「っおい、なんだ……!?

魔力が、流れ込んでくる!」


 カイルの治癒の光が、突然輝きを増す。


「だが、これなら治療が……!

って、うわぁぁぁ……!!?」

「ど、どうしたのカイル!?」

「なんなんだこの魔力、なんか……

すっごく、濃いんだが!?」


 そう言ってくるくる目を回しながらも、必死に彼は魔法をかけ続ける。


「っあ……!!

見てカイル、傷が……塞がっていく!!」


(すごい、あれだけ深かったのに……!)


 あれほど彼女の全身を覆い尽くしていた赤黒い血も、やがて綺麗に浄化されていき。


「リスタ、さんっ……!」


 彼女の顔に浮かんでいた苦悶も、安らかな寝息へと変わった。


「カイル、ありが――」

「……ひゃわぁぁぁ、あぁぁぁ」


ドサッ!


「ちょ、カイル……!?」

「な……!しっかりするのですわ!!」


 目を回して倒れ込んだカイルに、急いでフェリスが駆け寄る。


「……大丈夫ですわ、寝てるだけですの。

たぶん、魔力を使い切って疲れたのですわ」

「っわ、良かったあ……」


 安堵から、私もへにゃりと崩れ落ちる。


「……リーナ、さっきこの方が仰っていたこと。

フォルテの国の白髪が、全滅したというのは――」

「ああ。残念ながら、本当のようだな。

……全く、また魔力を吸われたと思ったら。今度は治癒とはな」


コツ、コツ


 冷静な足音。静かにリスタさんに歩み寄り、そっと布団をかけてやるのは――


「ノワ……!

どこ行ってたの、今この人が――リスタさんが!」

「安心しろ、リスタのことは知っている。

……すまない。俺の方にも、急を要する報告が上がってな」

「ノワ、いきなり飛んでいったと思ったら……まさか魔王城に戻っていたとは。

一体、何があったのですか」


 遅れて窓から入ってくるのは、ハクとアリス。


「リーナ!!会いたかったです、本当に寂しかったんですよ……!」

「いや、ついさっき会ったばっかりな気がするんだけどな……?

……で、急を要する報告って」

(たぶん、リスタさんの言っていたこととも関係があるんだろうけど)


 促すも、なぜか三人は一様に話そうとしない。


「……ちょっと、わたくしたちだけ仲間外れですの!?」


 苛立ったようなフェリス。するとようやく、アリスが口火を切った。


「……陛下、ブラン様。

これはフォルテ――リーナに、関係のあることです」


 ご許可を、と呟くと、ノワはため息をついて語りだした。


「……フォルテにて迫害を受けていた、白髪の――何万という民が。

三日前に、全員消息を絶った」

「やっぱり、ノワのところにも報告が……!」

「……いや、消息を絶ったという言い方は適切ではない。

正しく言うのなら――」


――何者かに、一瞬にして殺された。


 息を飲む音。それは私のものだったか、それともフェリスのものだったか。


「一瞬に、って。

何万もの……国中の白髪がでしょ!?そんなバカな」

「……リーナ。確かに信じられないことでは、あるのですが」

「いや、違う。()()()()()()のではない」


 ノワが低く言う。


()()()()()()、だけだ」

「……ええ。

フォルテに派遣していた幹部の報告です。……間違い、ないでしょう」

「そんな……!」

「それも、単に殺されたのではない。……『虐殺』と言って良いだろう。

ある者は肉が裂け、またある者は頭から弾けたと聞いている」


 綺麗に整えられた部屋、それなのに。


「っひ……!」

(血の、匂い)

 

 命を落とした彼らの、怨詛のように。


「……現状確認できている生存者は、ただ一人のみ」


 そっとハクの目線が向く先は――穏やかな顔をして眠る、リスタさん。


「……なんで、リスタさんだけ?

フォルテの民だし白髪だし、違いはないように思えるけど……」

「その者は、魔人との接触の際に『混ざった』のだ。

人でありながら僅かに魔力を持ち、その感知に優れている」


――だからこそ、もしかしたら。


「……その魔人の力が。

愛する者が――彼女を、守ったのかもしれませんね」


 ふと、彼女の首元の色褪せたペンダントが目に入る。


 不完全な三日月のような、半円のようなその形。


(あの時リスタさんは、魔人と接触した。

……どっちも、持っているはずなのに)


 合わせることも、完成させることも――出来たはずだ。


 それでもそうしなかった彼女は、まだきっと――


『どんな時も、たとえ最期の時であっても一緒にいよう』


「待って、いるのかな」

(っいけないいけない、涙が。

……ほんっと年取ると、脆くなっちゃって困るな)


 彼女の温もりが残るペンダントを、そっと戻す。


「……お嬢様。

私とノワはこれより、フォルテに調査に向かいます」

「城を空けることになる、すまないな。

アリスやフェリス、カイルは残すゆえ、心配あるまいとは思うが……何かあったら鳩を――」

「ノワ、私達も連れて行って」


(フォルテで、何が起こっているのか。

……私にも、見届ける義務がある)


 強い眼差しでノワを見つめると、彼は困ったように少し眉をひそめ――


「……リーナ。

宿題は?」

「……あ」


(そ、そうだったーー!!)


 嫌なことを思い出し、梅干しのように一気にしわっしわになる私の顔。


「武闘大会での事があって、緊急で一ヶ月の間休校となってはいますが。

一応、宿題は出ているのでしょう?」

「ええ、出てますとも!

特に魔法実技科のどっかのマオ先生とやらが、それはもー鬼のように宿題をくださいまして!」

「はは、愛だな。じっくり噛み締めておけ」


 いい笑顔のどっかのマオ先生。恨みを込めて睨んでいると――


「……でも、陛下。フォルテに派遣していらっしゃる幹部の皆さんも無事ですし、何も直々にお二方が出向かれることもないのでは?」

「そうだよアリス、もっと言ってやって!!」

「……そう、したいところではあるのだが」


 やはりいいづらそうに顔を背けるノワ。ハクもまた、苦々しい記憶を思い出すかのような顔をして――


「あまりにも、似すぎているのですよ」


――()()()の、流れに。


「……半魔王派の台頭、フォルテへの魔物の侵入、そして――」


――突然の、大虐殺。


「このまま行けば、また同じことに……っ!」

「落ち着け、ブラン。

そうならぬために、俺がいるのだ」


 珍しく焦りをあらわにするハクと、深刻な面持ちのノワ。


(流れ……似て、る?)


 何のことか分からずに、立ち尽くしていると。


「……忘れもしない、あの時に。


数百年前――大英雄の、その伝説にな」

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