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46.継がれる白、呼ばれた名前

「アリス、あなたを。

私の――後継者としましょう」


 ハクの指先からアリスの額へと繋がる、銀色の光の筋。


 それはまるで彼らの新たなつながりを示すように、美しく輝いていた。


「ブラン、様。

そ、それはつまり――」


 すっかり傷も癒えたアリスが、声を震わせて問いかける。


「……ええ。

あなたはこれから、白の当主の後継者として――」

「リーナと、あなた様のお側にずっといられると……!

そういうこと、ですか!?」

「いやアリス、そっちかよ!!」

(普通、当主の後継者になった方に驚くんじゃないのか……?)


 目をキラキラさせて溢れんばかりの喜びを示すアリスに、思わず突っ込んでしまう。


「っふふ、流石は私の後継者ですね。

執事たるもの、お嬢様に尽くすことこそを至上の喜びとするのですよ!」

「は、はい!これからも私アリスは、リーナのために力を尽くすことを誓い――」

「おい。一応、お前達の主は俺なんだが」


 早速始まる後継者――いや、執事教育。ふてくされるノワを横目に、私は感動一杯のアリスに問いかける。


「アリスとハクって、知り合いなの?」

「ええと……知り合いというか、私がずっと探していた恩人なのです。

この前お話したように、私と私の大切な人たちを助けてくださったのですよ」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ……」

「はい、あれは確か――」


 アリスの口から、二人の出会いが語られる。


 雪の日の選択、そして――彼女を救った、美しき(ブラン)


「ブラン様。

あの時からずっと、お探し申し上げておりました」


 最後に、胸に手を当て雪兎は――いやアリスは、そう締めくくった。


「……私の認識としては、死にかけの魔物を気まぐれに助けただけなのですが。

全く、随分と魔力を吸われたと思ったらまさか魔族に進化しているとは」


 ため息をつくハクの横で、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる元・雪兎さん。


「なんか……不思議だね」

(本来なら、きっと再び交わることは無かった二人なのに)


 それが、ここで再び出会い――『契り』を交わすほどになるだなんて。


「リーナの、おかげですよ。

……また一つ、返さなくてはならない恩が増えてしまいました」


 私の手をそっと握って、アリスはしみじみとそう呟く。


「恩だなんて、そんな」

「……リーナ、ごめんなさい。

アドルフ先生も、アイン先生も。そして、マオ先生――いえ、陛下まで」


――私は、その命を奪おうとした。


「……アリス」

「それが、全てあなたを貶めるためのレオの策略だとも知らずに。

……愚か、でした」


 アリスは、頭を下げる。


 深く、本当に深く。その光景は、まるで――


(……初めて会った時のこと、思い出すな)


 手を取って、顔を上げさせた私に戸惑ったようなを向けて。


 そんなアリスに、私はこう言ったんだ。


『だって私達、これから同級生……ううん』

「友達、でしょ」


 アリスが小さく、息を飲む。


「守ろうと、してくれてたんでしょ。

それなら――謝ることなんてないよ」


(……むしろ)


 出会ってからこれまで、ずっと私を助けてくれたアリス。


 誰よりずっと、側にいてくれて。


「アリス」


 呼びかければ、アリスは顔を上げる。


「……っ」


 声もなく、ただ幾筋もの涙が流れ落ちてゆく。 


「――ありがとう」

(そして)


 白の後継者に。私のライバルであり、最高の友人に向けて。


「……これからも、よろしくね」

「リーナ……!

っお願い、します……!」


 泣いてるけれど、花が咲くように綺麗な笑顔。


「もう、なんで泣くのさ」

「だってだって、リーナが……!!」


 うおーん、と声を上げて泣き始めるアリス。


(やれやれ、感情豊かな執事さんが育ちそうだ) 


 彼女の涙を、そっと手で拭おうとすると――


「びゃああああ!!」

「……え、何?魔獣の咆哮?」

「うぐっ、うっ……!ふたり、とも……良かった、ですわ……!」


 感動したようにはらはら涙をこぼすフェリスの、その隣には。


「びゃああああ!!お゙ま゙え゙ら゙あ゙ーーー!!」

「あ、魔獣じゃなかった。カイルだわ」


 誰よりも号泣し、その場を水浸しにしているカイルの姿が。


「……おい。これだけの水を出せて、なぜこいつは魔法が使えんのだ?」

「びゃあ゙あ゙あ゙!!!」


 その惨状たるや、ノワですら引くレベルである。


「……カイル。やっぱりいいヤツだよ、あんた。口は悪いけど」

「びゃあ゙あ゙!び、びどごどよげい゙……びゃあ゙あ゙あ゙!!」

「……お嬢様、一旦落ち着くまで待ちましょう。今のこの者は魔獣と大差ないかと」

「そ、そうだね……」

「ぶ、ぶらんさま゙までーーー!!」


 全員で少し距離を取って様子を見ていると、徐々にカイルの様子も収まってきたらしい。


「っう、ぐすっ……!

い、言っておくけど感動して泣いてたとかじゃねえからな!」

「いや、無理あるって」

「流石に諦めるのですわ、カイル……」

「おい、なんか俺様に対する当たりが強くねえか!?」


 全員からの総攻撃を喰らい、再びうるうるし始めるカイル。


「カイルとやら。

礼を言うぞ」


 そんな彼に呼びかけるのは、少し屈んで目線を合わせたノワ。


「ま、マオせんせ……じゃなくて陛下!!

お、恐れ多いことです……俺様、いや俺なんかが!」


 ビビり散らかすカイルに少し驚いていると、こっそりとハクが耳打ちしてくる。


「お嬢様、あまりカイルを責めてやりませぬよう。

――あれが、ノワに対する大半の魔族の反応ですから」

「……まあ、俺はあまり表に出ないからな。

悪名だけが独り歩きしていることもあるのだろう」


 特に気にする素振りもなくそう言ってから、再びノワはカイルの方を向く。


「……カイル」

「ひ、ひゃい!」

「お前の治癒魔法がなければ、アリスはブランの到着まで持たなかっただろう。

……見事な魔法であった。良くやったな、カイル」

「っ、へ……へいか」


 涙でぐちゃぐちゃになった顔が、再びぐにゃりと歪む。


「もし、お前が良ければなのだが。

今、魔王軍では人手が足りなくてな」

「足りたことなどありませんけどね、何しろ王が怖すぎて誰も志願してこないのです」

「……おいブラン、余計なことは言わなくて良い。

とにかく」


 ふう、とため息をついて――いたずらっぽく、魔王は笑う。


「俺達の、治癒師になってはくれまいか」

「っお、俺様が……!?」

「お前以外に雇い入れるつもりもない、腕が確かな治癒師など今では殆どおらんからな」


 カイルの瞳が、どんどんと潤んでいき――


ガバッ!


「カイル=アラール!ここに、魔王様の治癒師としてお仕えすることを……誓います!」

「……ああ。よろしく頼む」


 平伏して宣言するカイルに、ノワは満足そうに笑う。


(……あんな風に、ノワが笑うところなんて)


 少し前――私と出会ったばかりでは、考えられなかった。


「……ねえ、ノワ」

「リーナ、どうかしたか?」

「……ふふっ。

なんでも、ないや」


(この言葉は――今度、しっかり伝えよう)


 笑ってはぐらかす私に、ノワは少し拗ねてしまったらしい。


「……おいリーナ、『お兄ちゃん』だったか?

もう一回、言ってみろ」

「えっつあえ?あそれはあれは流れで!!」


(迷宮で勢いで言っちゃったやつか……!)


 焦る私に、してやったりといった顔でノワは更に言い募る。


「流れで?なんだ、今も良い流れだと思うが?」

「ノワ、お嬢様をいじめてはいけませんよ。魔王城直しませんからね」

「んなっ、お前……!まだ修理していなかったのか!?」

「仕方がないでしょう、どこかの誰かがすぐに仕事を押し付けてきたものですから」


 ああだ、いやこうだと言い争う二人。


「リーナ、陛下とブラン様はいつもあんな感じなのですか?」


 こっそり尋ねるアリスに、苦笑いして答える。


「そう、だけど。

……でもあの二人、仲良いとおも――」

「ありえません!!」

「ないな、絶対に!」


 勢い良くこちらを振り向く二人。


(髪色も、性格だってぜんぜん違うけど――)

「ほらね、仲良いでしょ」


 ウインクしてアリスに告げると、彼女はぷっと吹き出して言う。


「……ええ、そうみたいですね。

フェリスも――って、どうしたのですか?」


 視線の先には、斧を持って立つフェリスの姿が。


 戦いが終わったからなのか、先程までの赤い角はなくなり普段通りの姿……なのだが。


「……ん、フェリス?」


 その彼女が呆然として見つめるのは、遠くから迫る粉塵――


「おーい、ブラン様ー!!」


 いや、その中を一直線に駈ける――巨大な人影。


「おいフェリス、まさかまた敵が来たんじゃ――」

「よっと。

ひでえよブラン様、流石の俺でもこの長距離は疲れるってもんよ」


ドシン、ドシン


 重い音を立てながらも、猛スピードで近づいてくるのは。


「……カ、カルロス!?」

「お、お嬢ちゃん無事だったか!」

「ええ、皆無事ですよ。ご苦労さまです、カルロス」

「そりゃ良かった……んだけども、俺が来た意味って何なんだ?」


 まさか無駄骨ってえやつか?なんて悲しそうに言いながら私達の前で止まる彼。


「……お?そいつらは、お嬢ちゃんの戦友か?」

「俺はカイルだ、戦友……とは、認めてねえからな!」

「ア、アリスと申します!

その、ブラン様の後継者にしていただいた者です。よろしくお願いします!」

「つ、ついに()()ブラン様まで後継者を……!?」

「カルロス?」

「す、すまんブラン様。ついつい……。

んで、そっちは――」


 カルロスの視線が、一人で止まる。


 白髪に、綺麗な縦ロール。その手にあるのは、大きな斧。


「お前、いや……まさか、そんな」


 よろよろと、その姿に向かって手を伸ばす。


「カルロス……?」

「……お前」


その名を、信じられないものを見るように。


「ま、さか。


……フェリス、なのか?」

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