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41.戦士と呼ばれた日

「そいつの相手をしておけ、フェリス」


 私の前に立ちはだかり、出口を塞ぐフェリス。


「……」


 ぞんざいな口調で命じられた彼女は、しかしその場から動こうとはしない。


「フェリス、なんで……!」

(友達だと――仲間だと、思っていたのに)


 私の悲痛な叫びにも、彼女は答えない。


「おい、聞こえなかったか?そいつの相手をしておけと言ってるだろ」


 柔らかな物腰からは考えられないほど、荒々しいレオの口調。


「どうした?また――

お仕置き、されたいのか?」

「……っ!」

 

 レオの言葉に、フェリスが小さく動いて。


「……リーナさん」


 長い袖を、たくし上げた。


(来るっ――)

「――え?」


 その下から出てきたのは――痛々しい、青い傷跡。


(まるで誰かに強く殴られた、みたいな……)


 そこまで思ってから、ハッとする。


「『お仕置き』って。フェリス、それ。

まさかレオに――」

「ごめんなさい、ですわ」


ドンッ!!!


 その言葉と共に、私の目の前に斧が振り下ろされた。


「っ……」

(戦うしか、ないか!!)


 何がなんだかわからないが、とにかく今のフェリスは――敵、なのだろう。


「……フェリス、何やってるんだ!!

そいつを――半魔を、なんで攻撃してる!?」


 観客席から聞こえるのは、カイルの叫び声。


「皆逃げちまったし、俺様も……っいや。

ああーーーもう、クソが!」


ダンッ!


 大きな音とともに降りるのは、新たな影。


「カ、カイル!?なんでここに!?

逃げたほうが……」

「ほら、お前その腕!!

見せてみろ!!」


 突然観客席から飛び降りてきたカイルは、矢の刺さった私の右腕に向けて――


「『治癒の祈り(サニターテム)!!』」


 途端に私の腕を、美しい光が包み込む。


「痛みが、引いていく……!」

「ふんっ、この俺様の魔法だからな。

って、うおああ!!」


 そんなカイルにも、容赦なくフェリスの斧は襲いかかる。


「やっぱりあんたかっこいいよ、カイルーー!!

うぎゃ危なっ!」

「今そんなこというなよ、とにかく逃げ――うおおお!!」


 二人で闘技場を走り回りながら、ふと違和感を抱く。


ブオン!!


 斧は、激しく空を切るも――


(攻撃が、全然当たってない。

……やっぱり)

「手加減してるでしょ、フェリス」


 その言葉に、俯いたままにフェリスは答える。


「何を、言いますの?」

「本気のフェリスなら、私達もう死んでるもん」


 迷宮での出来事を、思い出す。


(肉弾戦で、フェリスに勝てる人なんて――

私は、知らない)


 その攻撃が当たらないことなど、私が見た限りでは一度たりともなかった。


 そんな彼女が、逃げる私達をとらえられないはずがない。


「……何いってんだ半魔、死にたいのか?

っちょ、やめてくれ俺様は戦闘は専門外だ!!斧向けてくんなお前うわああ!!」

「いや、死にたくはないよ!?絶対に嫌だよ!?

あ、だから本気出すとか本当にやめてね!?やめてね!?」


 ぎゃあああ、とか言いながら全力疾走。


「本当に、あなたは変な方ですわ。

……リーナ」


 斧を振り回しながら、突然ぽつりと呟く。


「魔王の後継者。これまで何度も、殺そうとしましたのに。

……結局、できなかった」


 その言葉に、私は思い出す。


(迷宮で、私をあの部屋――獅子のところに連れ込んだのは)


 魔物を狩る、と言って――迷いなく、突き進んでいったのは。


「フェリス、最初から私達を誘導してた……ってこと?」 

「そうですわ。全て、私が……

お兄様に、指示されてしたことですの」


 俯いて、そう告げる。


(お兄、様?)

「おい、フェリス!!

お前の、家名って――!」


 カイルが叫ぶ。


(まさか、フェリスって――)


 初めて会った時に、彼女はこう言っていた。


『初めましてリーナ様、わたくしは――』

「……わたくしは、フェリス=ローレル。

ローレル公爵家、第二の後継者であり……レオ=ローレルの、妹ですのよ」


 『妹』というその言葉に、本来あるはずの温かみは。


 一切、感じられなかった。


(やっぱり、そうだったのか)

「……フェリス」

「失望したですの?これまで、わたくしはずっとあなたを騙して参りましたの。

……だからそれでも、仕方ない――」

「優しいね」

「……え?」


(本当に、優しい)


 斧の動きが、ふと止まる。


「フェリス、結局迷宮でだって私を助けてくれた。

……それに、最初から」


 彼女との、最初の出会いを思い出す。


(いきなり勝負ふっかけられて、驚いたけど)

『リーナ様。あなたに、退学!していただきますわ』


 何が何でも退学にこだわる、彼女の必死の思い。


(ああ、きっとあれは)


 今なら、わかる。


「私を退学させて、レオから守ろうとしてくれてたんだよね」

「……っ!」


 否定の言葉を探すように、小さく開かれる口。


 しかしそこからは――どんな言葉も、出てきはしない。


「……きっと、その傷だって」


 フェリスの腕に刻まれた、無数の青痣を見る。


(なんて、ひどいことを)


 幼い頃の傷なのだろうか、何度も何度も重ねられたようなものも見える。


「私を、結局殺せなかったから。

だから、レオにやられたんでしょ」

「フェリス、お前っ……!」


 絶句したように、カイルもその傷を見る。


「……どうでも、いいですの。

もう――全部、どうでもいいですわ!!」


 けれど、拒絶するようにフェリスは、再び斧を振りかざして――


「……おいフェリス、さっさとそいつを――魔王の後継者を殺せ。

僕はその手柄で幹部になって、この国をあるべき形に戻すんだ!!!」


 背後で激しく戦うレオが、不機嫌そうに叫ぶ。


「……何してる?これだから、お前らは。

魔法も使えない、剣を振るうしか脳のない奴らめ」


――使えない道具だな、本当に


 吐き捨てるように、そう呟くレオ。


「おにい、さま」

「ねえ。あのさ、レオ」


(なんか今、すっごいイラッとしたな)


 怒りのままに、ずんずんレオの方へと突き進む。


「私はさ、魔法すらろくに使えないよ?当然剣とかからっきしダメだし」

「おい半魔、何してんだお前!!戻れ、戻れったら!!」

「……でも、フェリスは違う」


 自信を持って言える。


「フェリスは、守ってくれた。

誰よりも前に立って、誰よりも敵をぶっ飛ばして」


『――狩り尽くしますのよ!』


 脳筋お嬢様。そんなワードに、ふと笑ってしまう。


『知っていますの?

挑まれた勝負は受ける。それこそが――』


(フェリス、あなたは。

誰よりも強くて、誰よりも――)


「戦士、だよ」


 レオの前で、そう言い切る。


「少なくとも人任せにちょびちょび動くしか出来ないあんたよりよっぽど、ね」

「おい半魔、お前なんで毎回一言余計なんだよ!!煽ってどーすんだ!!」


 焦ったようにカイルが叫ぶ。


(あ、つい癖で……)


 ハクの教育の成果だろうか、ついつい敵さんに本音を言ってしまう。


「おまえ……!!!僕のことを、バカにしたな!?」


 案の定、怒り出すレオ。


「言ったじゃねえか、ほら!!人の火に油注ぎまくってどうすんだよおい!!」

(あー……やっちまった)


 迷宮にて、メラクを化け物呼ばわりした時の既視感。


 何してるのよリーナちゃん、とかいう呆れた声が聞こえてきそうである。


「さっさと片付けろ、フェリス!!そうじゃなけりゃ、後でむち打ち100回だ!!」

「っ!」

「何してる!?200に増やすぞ!?」

「……せん、し」


 ゆらり、と。フェリスの影が揺れる。


「……な、なんだ?」


 空気が、重く沈む。


 呼吸が、うまくできない。


「フェ、リス……?」


 斧を握る手が、ぎし、と音を立てる。


 次の瞬間――


ブワッ!!


 周囲が燃えているかのように、猛烈な殺気が湧き上がった。


 その白髪には、赤く光る竜のような二本の――


「つ、角!?なんで!?」

「そんな、滅びたと聞いていたが……フェリス、まさかお前!

竜の一族(ドラムス)か!?」


 驚いたように、カイルがその名を叫ぶ。


「……チッ!

よりにもよって、今覚醒するか!」


 舌打ちをしたレオは、しかしにやりと嗤う。


「ちょうどいい、フェリス!

その力で、そいつらを――」

「レオ=ローレル」


ザッ!!


 大地の力を受けるかのように、その両足が力強く地を踏んで。


「な、なんだ……?

僕のほうじゃない、そいつらを!!」

「里のみんなを。

かあさまを……!!」


 赤く光る2つの目が、まっすぐにレオを見据える。


「――返せっ!!!」

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