表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/96

30.壊れかけた光

「ぐらぁァ゙……メ、らく……」


カサカサカサ。


「……え、化け物やん」

『……ええ、化け物ね』


 そこにいたのは、触手の手足を地面につけた……蜘蛛のようなメラク。


カサカサカサ。


 ……が、9体ほど。


「「「「「「「「「「お、マエ……

また、言ったナ!!」」」」」」」」」」


 私の再度の「化け物」発言に怒ったのか、さらにどす黒いものがそこから噴射される。


(……まずい、地雷踏み抜いたっぽいな)

『も〜なにやってんのよリーナちゃん!』

(いや、あんたも言ってたよな!?)


 そ、そうかしら〜なんてとぼける妖精さん。ってか魔王城の守り神じゃなかったのかこの人。


(……職務怠慢妖精)

『なっ……ひどいわ!リーナちゃんなんかもう知らない!』

「あ、いやごめんて!!待ってくださいごめんなさいって!」


(この人に去られると、精霊術が使えなくなる……っ!)


 大慌てで謝罪すると――


『むぅー。

その心の声だって、聞こえてるんだからねっ!』


(あっ、そっか……)


 この人相手に、隠しごとやら建前やらは通用しないらしい。


『まあ、今回は許してあげるけど……』


 しぶしぶ、といった感じで妖精さんの声が近づく。


「よ、よかった……」

『ほら、上と右と左!!』

「え?


……っひぃぃぃ!!!」


 メラクが9倍。当然ながら、攻撃の回数も9倍。


「ど、どうしよう……!」


ピキッ、ピキピキッ


 この分では、光の壁もかなり早く破壊されることだろう。


「っ……あと、少しだ!」


 背後から、カイルの声。


(う……)


ガキッ、ガキッ!!


 ぶつかっては、跳ね返っていく触手達。


「……あれ?」


 さっきまでよりも、攻撃が――


(軽い……?)


 もう一撃。


(いや、違う


――小さいんだ)


 そこで、ある可能性に思い至る。


「まさか。


……分裂、してるの?」

「「「「「「「「「こわス、こわスコワす……

キレい、すル……!!!」」」」」」」」」

『うっわー……聞き取りづらいわね』


 ブツブツ文句をいう妖精さんに、ある提案をする。


「……妖精さん!」

『何かしら、リーナちゃん!』

「あれって、増えてるんじゃなくて――」


 9体の蜘蛛型のメラク。その大きさは……元より、圧倒的に小さい。


「分裂、してるんじゃ!」


 だからこそ、一つ一つの攻撃は弱く――軽くなる。


『……なるほど?』


 だからどうした、とでも言いたげなのんびりな声。


ガキッ、ガキンッ……!


 徐々に、ヒビは広がっていく。


「時間がない……!

妖精さん、さっきの壁みたいな精霊術って使える!?」

『ん?ええ、使えるけれど……』


 うーん、と考え込む声。


『今のリーナちゃんだと、この規模が限界くらいね』

「この、って……今、展開してるくらい!?」

『ええ、そうよ。

これが壊れても、また同規模のものを一度だけなら展開できるわ』


 でも、と妖精さんは訝しげに続ける。


『でも、どうするの?

別に分裂したからと言って、毒が弱まったわけではないのよ』


(……そう、そこがこいつの厄介なところ)


 毒を駆使して戦うメラクは、分裂してたとえ本体の力が弱まったところで。


(毒の範囲と、打ち込むスピードが……広まっただけ!)


 要するに、デメリットがない。なんて便利なやつだ。


(……いや、でも)


 一つ一つの攻撃は、軽くなっている。


 ならば――この壁は、一体のメラク相手ならば。


「……さっき、規模はこれくらいが限界って言ったよね!?」

『え、ええ……』


ガキッ、ガキッ!!


パリンッ!


「――っ!」


 遂に、小さな穴が空いた。


「キャ……キャキャっ!


今、キレイ……なる!」


 ポタ、ポタと垂れてくる毒液。


ジュッ


 そこに触れた地面が、黒く焦げ付く。


「……なら、個数については!!

展開する数についての、制限は!?」


ビタン!!


 小さな穴に、無数の触手が群がり――


ギギ、ギ……


 徐々に、穴が広がっていく。


『……個数、には。

おそらく制限はないわ』


 ――ただ、と迷うように続く声。


「な、なんかあるの……!?」

『同時に何個も展開すれば、リーナちゃんの負担が。


……限界を、超えてしまうかもしれない』


 そうすれば、あなたは――


(……なんだ)

「そんなことか。


――良かった」


 アリスやフェリスに、影響があるわけでないなら……正直、何でも構わない。


(私なんかより。


あの子達のほうが、ずっと辛いはず)


 ギギ……


「そんなふうにさせたお前を……


私は、絶対に許さない!!」


 メリメリメリっ


 ついに、穴が開がった。


「キャ……っ!」

「キャキャっ、あいタあイタっ……!!」

「おまエ、その力……

よこ、セ!!!」

「「「よこセよこセ!!!!」」」


 ガシャンッ!!


 実体を持たない壁は、そのまま一斉に崩れ落ちる。


(チャンスは、あと一回だけ――)


ビュンッ――


 7つのメラクから、触手が伸びてくる。


(守りきれないなら――)


「いくよ、妖精さん!」


(――閉じ込めてやる!!)


 避ける。


 弾く。


 走る。


「まずは……


お前だ!!」

「キャッキャ……!!

そっちから、キレイ、なりきてクれた……!!」


 一匹のメラクから伸びる無数の触手。


ガチッ!


「っふぅ……やっぱり!!」


 その殆どを、光で覆った手で鷲掴みにする。


(……さっきは、一本でも限界だったけど)


「この触手なら


――軽い!!」

「ナっ……なニを!」


 身動きが取れずに一瞬怯んだメラクに向けて、私は叫ぶ。


「『光の関門(ムールス・ルーキス)』!!」


カッ!!!


 光に包まれ、その中に閉じ込められる一体のメラク。


「だセ、ダセ!!」


ガキッ、ガキッ!!


 何度も叩くも――壁は、びくともしない。


(……思ったとおりだ。


この壁、分裂した状態のメラクなら……閉じ込められる!!)


「次は、お前――」


 そう言って二体目を振り向いた私。しかし――


(っ――


(頭が……!!)


 ガンガンと鳴り響き、割れるように痛む。


『……ほら。

だから、言ったでしょ』


 感情の読めない、妖精さんの声。


(……っダメ!!)


 それでも、私は前を向く。


「……『光の関門(ムールス・ルーキス)』……っ!」

「ぎィあ!!!」


 二体目。


「……けほっ」

『リーナちゃ――』

「……ぅ『光の(ムールス)――』」


 三体目。


 封じた数が増えるほど、私の意識も薄れていく。


「オマえ、オマえそのチから……!!

めらクの、もの……!!!!」


 触手が、膨らむ。


(く、る――!)


ビュンッ!


 避ける。


――はずだった。


ザッ!


「っ……!」


 服の袖が、ほんの僅かに裂ける。


ビリビリッ!!


 毒に染まるその部分を、必死に破り捨てる。


「あぶな、かった……!

光の(ムールス)――』!!」


 四体目。


――あと、三体。


「妖精、さん……」

『あと二体が、限界よ』

「で、でももう三体っ――」

『……って、言っても。

どうにかしろって、いうのでしょう?』


 わかってるわよ、とでも言いたげな声。


ビタンッ!!


 目の前に、触手が叩きつけられる。


『……なんとかするわ、だから。

――行ってらっしゃい、リーナちゃん』

「……うん」


 ありがとう、と言ってふらふらの足を動かす。


「おまエ、さっきからダれとハナして……!!」

「……うーん」


 誰なんだろう、そういえば。


(魔王城の守り神、って言ってたけどなあ……)


 ここ、魔王城じゃないし。


 ぼんやりとした意識の中で、だいぶテキトーに答える。


「なんか金色に光ってて、すっごく胡散臭いけど」

『っちょっと!?』

「……でも、大事なときにはちゃんと来てくれる」


 多分、私のことも本心から心配してくれていて。


――『愛してる』


(……ふふっ。


今世でも前世でも、会ったこと無いから……よくわからないけど)

「お母さん。


……みたいな?」

『っ――!』


 私の中で、何かが弾けた。


 悲鳴をあげる身体の奥から、声を張り上げる。


「『光の関門(ムールス・ルーキス)』!!」


 一気に、三つの光の壁が展開され――


「くァ……なゼ、なぜおマエなんかガ……」

「えらばレ、た……!?」


 閉じ込められる、最後の三体。そして――


 バキンッ!!


 何か、硬いものが砕けるような音。


 見ると――


『お疲れ様。

……また、お別れね』


 奥の、美しい石像が――内側から、破裂した。


「……ねえ」


 力尽き、今にも倒れそうになりながら呟く。


『なあに?』

「妖精さんて……」


 誰なの、と聞こうとして。


『……しっ』


 ふわり、と微笑む感覚。


『また、会えたなら――』


 その時に。話す……


『かも?』


ガラガラガラッ!!


 像は、完全に崩壊して。


「もう。

結局、教えてくれないやつだよね……それ」


 ――彼女の声は、聞こえない。


「……最後まで、テキトーすぎるって」


 なんだかちょっと、親近感を覚えるけど。


 すると、光の壁を必死に叩くメラクが叫ぶのが聞こえてきた。


「めらク、めらクは……!!


 あなたニ、あいさレたかっ――」


グサッ!


 刺さる短剣。


(……あれは、私の)

「あ……ア……」

「……この、気持ちが悪いやつは。


殺しても、いいですの?」


 嫌悪感に満ちた表情で、成す術ないメラクを見下ろすのは――


「フェ、リス……!」

「おほほほ!!

わたくし、そんな簡単に死にませんわよ!」

「いや、俺が治療しなきゃ死んでたからな!?」


 調子乗ってんじゃね―ぞ!とカイルの怒声。


 それを聞こえてないふりをしつつ、フェリスは笑顔で短剣を引き抜く。


「……それで、リーナさん」


 ザクッ


「んぐアっ!」


 何度も何度も、絶命するまで刺され続ける。


 苦しげに、自身の傷口から漏れ出る液体に溺れるメラク。


「……フェリス、だい……じょうぶ?」


(……なんか、言葉が……

うま、く)


 それでも、フェリスの方へ歩み寄ろうとして。


「……リーナさん。

それは、一体」

(……え?)


 一歩フェリスの方へ踏み出して、違和感に気づく。


(……これ)


 服が裂け、あらわになった私の足には――


「薔薇の、文様……?」


 先程の、獅子に。女神の使いに現れるというそれが――はっきりと、刻まれていた。


(なんで、これ……)

「っぁ……!!」


 突然、強烈な痛みに襲われる。


(なにこれ……!


身体が、内側から割れていくような……!!)


 そして、私の身体が――どんどん。


「透け、てる……!」


 痛みとともに、恐怖が私を襲う。


(消える、のか?)

「っ嫌、だ……!!」


 『なりたくない』と。


 そう、思って手を伸ばす。


「り、リーナさん……!」


 フェリスが、戸惑いながら後ろに下がる。


 魔族にとって有害な光――「毒」に包まれ、苦しむ私の姿は。


「た、すけて……!」


 彼女の目に、どう映っただろうか。


(……ああ、ダメだ)


 ここで、終わりか。


 そう思った、その時。


バッ!


「あ――」


(……あったかい)


 視界の端に、小さく黒が揺れる。


 何かに包まれる感覚の中、聞き慣れたその声は囁く。


「リーナ。


……戻ってこい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ