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29.壊す覚悟と、守る意思

「まずいな。

武闘大会まで、もう時間がないというのに」


(――それまでには、方をつける予定でいたのだが)


 生徒たちを洞窟の中に見送ったマオは、忌々しげに呟く。


バサッ!


 彼の手元には、一羽の――魔鳩コロンバ


 その足にとある書簡を結びつけ、彼は勢い良く鳩を放った。


(魔王城での、『月桂冠ローリエト』の襲撃。

相手は、あのブランとカルロスが逃すほどの魔法の使い手)


「……『時が止まったかのよう』か」


 負傷しながらも『七星アステリズム』を追い詰めた彼らが、しかしあと一歩のところで逃したその理由。


――『やはり君は、魔王に相応しくない

……裏切り者が!!』

「……っ」


 彼の脳裏に浮かぶのは、幼さの残るあの声。


 偽の魔王城を破壊したその後、再度幹部をネロの回収に向かわせたのだが。


『い、いない……っ!?』


 瀕死の状態で眠らされた彼の姿は――どこにも、無かった。


(やつの配下と思われる、あやつ。

……魔人を作ったという魔族の姿も、既になかった)


 魔王城に留め置かれていたはずのその姿も、ハクが不在のうちにどこかへ消えていた。


 共謀して、逃げたと考えるのが自然だろう。


「もしもリーナに、またもや危害が及ぶようなことがあれば」


グシャッ


 手元の書簡が、握りつぶされる。


「やはり、あの時。


殺して――」

「せんせー、あたしらが一番乗りじゃね?」


 彼の殺気は、すぐに消え去る。


「……ああ。


他の生徒たちも、戻ってきたようだな」


ガヤガヤ


 迷宮の探索を終えた生徒たちが、その入り口へと転送されてくる。


「すっげえ、お前そんなの狩ったのか!?」

「ふんっ、私はこれよ!」


 無事に成果物をお互いに見せ合うその様子に、小さな安堵を感じていると。


「っマオ先生!!」


 息を切らして走ってくるのは――二人の、黒髪の生徒たち。


「……お前たちは。

確か、カイルと一緒に行動していたはずではないか。どうした?」


 怪訝に思い、少し屈んで話を聞こうとすると――


「カイル様が!!

どこにも、いないんです!」

「離れて行動したら……いつの間にかお姿が消えていて!

地図にある場所は、全て探したのに――!!」


 泣きそうな表情で、そう訴える二人。


「……地図にある場所に、いない?」


 手元の紙切れ――小さな地図に、目を通す。


(未探索の場所があるのか?

……この地図は迷宮を運営する公爵家より、直々に配布されたもの)


 間違いなど、有り得るはずもない。


(……いや。

もしや、この状況自体が――)


グラッ!!!


「きゃぁっ!」

「今、少し揺れて――!」


 一瞬の振動に、慌てる生徒たち。


(……この、気配は!!)


グシャッッ!!


 その中心で地図を握りつぶすのは――マオ。


「……いない」

「せんせー?どしたの、何か探して――」

「俺が戻ってくるまで、絶対にここを動くな」

「えー?

何、一人で抜け駆けして屋台にでも――」


ボウッ


 地面に落ちるのは、燃え上がる地図。


「ひっ!」


 かつて無い殺気が、場を包み込む。


「……おい、お前ら」

「は、はい!」

「カイルを最後に見たのは、どこだ?」

「た、たしか……!!」


 地図に示された階を見て、彼は無言で迷宮の入口へ向かう。


「い、今から行ったらかなりの時間が……!」

「問題ない」


 仮面が、外れる。


 赤い瞳が、激しく燦めいた。


「……全て。



壊して、進むだけだ」




◇◇




『リーナちゃん、左っ!』

「うおっっとお!!」


ビュンッ!


 私の右頬すれすれを、メラクの触手がかすめていく。


(危ないな、毒があるんだからかすった時点で終わりだ)

『そうよ!

リーナちゃん、壊滅的な運動音痴なんだから気をつけないと!』

「相変わらず心読んでくるのはいいけど、ディスるのは良くないと思うよ!?」

『うふふ、久しぶりでついつい嬉しくって……』

「だからってなぜそうなる!?」


 命がかかっている状況にも関わらず、のほほーんとした声。


(……全く、相変わらず自由な妖精さんだ)

『ほらほら、次が来るわよ〜』


 汗を拭って、メラクをきっと見据える。


「ナんダ……ナんで、お前ガその力ヲ……!」


 動揺したように、触手は四方にうねり広がる。


「……っ、もう……少しっ……!」

「カイル!

あと、どれくらい時間を稼げば――」


 治療を続ける背後のカイルを振り向き、問いかけようとするも。


「おい、こっち見んな半魔!

お前、なんかすっげえ嫌な感じすんだよ!」

「え?

お、乙女になんてことを……!」

(私、そんなに嫌われてんの……!?)


 ショックを受けていると、治癒の光を出しながらカイルは続ける。


「そうじゃねえよ!

お前の……その、光だ!」

「はへ?」

「ほら、それ!!」


 言われて自身の身体を見下ろすと――


「うわ何か光ってる。きもっ!」

『ひどいわリーナちゃん!私にキモいだなんて……そんな子に育てた覚えはありません!』

「あなたに育てられた覚えもありません!」


 叫んでいると、カイルが完全にいかれたものを見る目つきで私の方をチラ見する。


「いや、お前一人で喋って頭までおかしくなったのか!?

んあーーもう、俺様は治療に専念するから!こっち絶対見んなよ!」


 拒絶された。しょんぼりしながらも、不思議そうに自分の光を見つめる。


「……妖精さん。

これ、やっぱり光の精霊術……ってことだよね」


 魔族の、明確な弱点。そして――


(女神の、力)

『……ええ。その認識で正しいわ』

「やっぱり」


 なんで私が使えるのか、それも――妖精さんがいる、その時だけ。


(わからないことだらけ、だけど)

「これ、魔族にとっては悪影響ってことで合ってる?」

『ええ、そうね。

高位の魔族なら、直接向けない限り大丈夫でしょうけれど……』


 ふと、声がどこかを向いたように遠ざかる。


 不思議とその声の先が、わかる気がした。


(……アリスと、フェリスも?)

『そうね。普段なら大丈夫でも、今のあの弱った状態では』


 このまま行けば、影響を受けてしまうわ。


 その言葉を聞いて、私はぐっと拳を握りしめる。


『……それに、リーナちゃ――』

「なら、するべきことは一つ」


(二人に影響が及ぶ前に……

私が、こいつを倒す!!)


ビュンッ!


 飛んでくるメラクの触手へと、手を伸ばす。


(手の表面に、壁を貼るイメージで……!)




(アリスも、フェリスも……)


ギギギッ


 触手が、暴れる。


「これ以上……


傷つけさせない!!」


ガシッ


「っ……!」


(掴めた、けど――重い!?)


 強い力で逃げようとするそれを、必死になって捉える。


「メラく、の手……!どうしテ!」

『……リーナちゃん、無理しすぎよ。

あと、感覚派過ぎるわ』

(まあ……出来たんだから、結果オーライ――)


「でしょっ!」


 触手を掴み、そのまま振り回す。


ブチッ!


「……あ」


 力の加減がうまくいかなかったらしい。そのまま触手の包帯が破け、中の液体があたりに広がる。


『……だから、体育1なのよ……』


 呆れたような妖精さんの声。私の中高時代のトラウマをなぜ知っているんだ。


(……って、まずいまずいまずい!!)


 飛び散った液体――多分毒――が、このままでは後ろの三人にかかってしまう。


「わからなイ……わからナイ分からナイワカラナい!!!」

(「わからない」はこっちのセリフだわ!!)


 発狂するメラクの触手をすんでで躱しつつ、私は必死に訴える。


(っちょどうしよう妖精さん!流石にこの広範囲を防ぐのは無理――)

『はいリーナちゃん、復唱』


 こほん、と咳払い。


『久しぶりだから出来るかしら……?』

「ひ、ひさしぶりだか――」

『あ、そこは別に復唱しなくていいわよ』


 なんやねん!とツッコミをいれていると。


 突然、私の口が動いた。


「……『光の関門(ムールス・ルーキス)』」


キンッ!!


ポタッ……ポタッ……


 液体が、見えない壁に阻まれ――伝い落ちていく。


『あら、出来たわ!やったじゃないリーナちゃん!!』

(すっごく意外そうな声出すんじゃない!)


 出来ない想定も合ったのかよ、とそのテキトーさに恐怖していると。 


「ッ……めらク、おこッタ」


ジワリ


 メラクの白い包帯が、紫色に――変色していく。


 そして――


「ぐらぁァ゙……メ、らく……

アル、てみス……さま……」


ビュッ!


「っなに!?」


ガキンッ!


『リーナちゃん……崩れるわっ!』


ガキンッ!!


――もう一撃。


ガキッ、キンッ!


 以前とは比べ物にならないほどに素早く、何度も繰り出される触手の攻撃。


ボキッ


「っ……!」


 遂にヒビの入った壁。


 そして、土埃に霞む視界の向こうには――


「っメラクが……!


増え、た?」


5/6 誤字修正しました。

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