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27.水と氷と、割り込む炎

「『六花の拘束グラス・セルヴィタス』」


 ミザールの周囲に現れる、氷の棘。


 鋭利に光るそれが彼女に刺さる――と思った、次の瞬間。


「『水の塁壁ムールス・アクアエ』!」


バキッ!!


 ミザールの尾が一振り。氷は、破壊される。


「んふっ!」


 彼女の姿が薄まり、ついには見えなくなる。


 そう、まるで背後で降りしきる雨に――文字通り、溶けたように。


(……これだから混血は厄介ですね。

純血の竜の一族ドラムスであれば、魔法は使えないというのに)


 ハクは軽く眉を潜め、次なる攻撃に備え神経を研ぎ澄ませる。


「んふふっ!

なかなかやるじゃない、アンタ!……『天地の溢水リダンティア!」

「『氷纏テュニカ

お褒めに預かり光栄です、トカゲさん」


 ハクの上に降り注ぐ水の塊は、寸前で氷の壁に阻まれる。


「トカゲって何よ!!だから『水龍』って言ってんでしょーが!」


 ミザールの怒号。


 姿の見えない中、それは四方から聞こえるような錯覚すら呼び起こす。


「失礼しました、お姿が見えないもので……

一度、出てきていただけますとその麗姿を確認できるのですが」

「そんな安っぽい挑発に乗るほどバカじゃないってんの!!

……ってゆーか、アンタ態度デカすぎない?『氷の触手フニクラー!!」

「『氷纏テュニカ

おや、そうですか?お褒めに預かり光栄です」

「褒めてねえよ!下っ端のくせに舐めてんのかあぁ゙!?」


 そんな口喧嘩の中でも、激しく応酬される氷と水の魔法達。


「……しかし、下っ端とは心外な。

私は自分勝手なあのバカ魔王に振り回され、毎日頑張っているというのに……」


 わざとらしく憂いを帯びた目元を拭うハク。しかし、その周囲では凶悪な氷の棘が生成されては破壊されを繰り返されている。


「んふっ、バカって。魔国では雑魚でもそんな舐めた口を聞くのかしら?

……魔王ってやつの力量も、たかがしれてるわねえ」


 響く声。ねっとりとしたそれは、身体にまとわりついてくるようで――


「……気分が悪い」


 余裕そうな表情から一転、心底不愉快そうに呟くハク。


ピッ


 一瞬動きを止めた彼の顔に、水の刃が小さく傷をつけた。


「んふふっ、その意気よ!

もっともーっと怒りなさい、坊や!」


 その様子を見て、楽しそうにミザールは叫ぶ。


「んふっ、そういえば!

魔王の右腕として、この国の政務を担ってるヤツがいたわね」

「……ほう、そんな方が?」

「んふふふっ、でも魔王がその程度なら、そいつもたかが知れてるってもんよ!」


 その勢いのまま、更に挑発を続けるミザール。


「そうねえ……白の当主、確か名前は――」


 それが、自身の首を自身で締める行為とも知らず。


「ブラン、とか言ったかしら」

「……おや」


 小さく口角をあげるハク。


 その様子にミザールは激昂し、攻撃は激しさを増す。


「アンタ、何笑ってんの!?末期の時だっつってんのに!

――『水のアクア・スピリテュス!!』」


 先程までと同じく、舐めた様子で魔法を放つ見えない彼女。しかし――


ピキッ


 これまでと違うのは、その水の塊が――空中で、突然に静止したこと。


「な……!?

アンタ、何を!!詠唱もなしに、アタシの魔法を!!」

「かの有名な『月桂冠ローリエト』の方々までご存知とは。

私も、頑張った甲斐があるというものですね」


 片手を、優雅に前に出す。


「……アンタ、何言って――

ま、まさか!」


 その発言の意味を悟り、声は明らかに狼狽する。


「どういうこと!?確かにあの書簡には、『魔王を含め、魔王城には現在幹部がいない。

フォルテ国内の幹部に帰還を命ずる――』って!!」

「ああ、それですか」


 ハクは自身の企てが成功したことを悟り、小さく微笑む。


「あなたがたが、魔鳩を捕え我々をおびき出そうとしていることは察していましたよ。

……ですので、逆に。釣ってみたのです」


(そう、「ろくな戦力のいない、がら空きの魔王城」という餌で――ね)


「釣った?

アンタ……騙したわね!?」

「騙したとは、失礼な言いようですね。

別に嘘は言っておりませんよ、事実私以外は出払っております。――あのバカすらも」


 魔王城は、当然ながら魔王派の中心施設である。


 そんな場所を落とすのみならず、自らのものとできる絶好の機会。


(逃すわけはない――と、思ってはいましたが)


 堪えきれない、と言った風に笑うハク。


「まさか、こうもあっさり幹部クラスが引っかかるとは。

……ふふっ、控えめに言ってもバカ――」

「あぁ゙ん!?なんかいったか!?」

「いえいえ。

ただ――知性も力も、半端者。流石は『竜のなり損ない』ですね」

「……ぁ゙?」


 鱗を逆撫でられたように、怒り狂った声。


「……お前。

殺す」


 空気が、重くなる。まるで大きな水の塊に押しつぶされたような、圧迫感。


「『……水を操りし者、我らが神に奏上す――』」


 始まる詠唱。膨らんでいく魔力に、しかしハクに動じる様子は見られない。


(……むしろ、好都合というものです)


「『御名のもとに、この者を討ち滅ぼし給え!

――水龍アルテミス!!」


 空間が、揺らぐ。


(……おや、そのような詠唱は聞いたことが――)


 ない、と言い終わる前に、彼の身体は巨大な水の檻に閉じ込められる。


「んふっ、アタシにその技を使わせたのはアンタと……あの女のみ!

最後まで子供を守って……んふふっ、健気なことだわね!」


ザクッ!!


 檻の中で、絶え間なく降り注ぐ水の刃。


「……これは、困りましたね」

 

(凍らせようにも、距離が近すぎてかえって氷の刃に変わるだけ。


……一つ一つが、致命傷になり得る)


 目を細め、思案するハク。身体の表面に薄い氷の膜を張るも、間に合わない。


「んーふふっ!

さあ、死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!」


 その間にも、刃は容赦なくハクの顔に傷をつけていく。


「仕方ありません、本当はもう少し情報が欲しかったのですが」


 ため息をついて、ハクは軽く片手を動かす。


キンッ!!


「な、何よこれ……!

動けないじゃない!!」


 空中に現れたのは、氷の彫像――ではなく、凍ったミザール。


「小さい頃に習いませんでしたか?

大規模な魔法ほど、その魔力によって探知される可能性は高くなります」


 檻の中で、微笑みながらハクは優しく諭す。


「だからって!!アタシは、表面を水で守ってんのよ!?

そんな簡単に攻撃が通るわけ――」

「だから、ですよ」


ピキピキピキッ!


 檻が凍り、ひび割れ始める。


「私は、大抵の『水』は凍らせることが出来るのです」

「なっ……!?」


 たとえ割れた窓ガラス、その表面に付着した雨であっても。


 それすら、彼の魔法の対象になりえる。


「……と、言っても魔力で防御されてしまっては、そう上手くも行きませんけどね」

「っしまった、詠唱に集中しすぎたかっ……!!」

「ああ、安心してください。

並の魔族では、こんなことは出来ませんよ」


 鍛錬です、私頑張ってるんです。と笑顔で続ける。


「……まあ、そういうわけなので」


 彫像に向けて、手を伸ばす。


バキッ、ガラガラガラッ!


 檻はついに砕け散り、二人を隔てるものはなくなった。


「くるな、くるなぁぁぁ!!!」


 叫ぶミザール。しかし――


トンッ


 彼女の心臓あたりに、指を当てる。


「お、おいお前、いやアンタ!!

アタシについてきなさい、奴隷と言わず幹部クラスにだって推薦――」

「……あなたは水、私は氷。

やはり相性は、悪いようですね」


 残念です、と言う彼の表情は、しかし全く残念そうではない。


 むしろ少し血に濡れて微笑む姿は、恐怖そのもの。


「では、水蛇さん」


 さようなら、といいかけようとして。


「……っ!?」


(動け、ない……!?)


 突然、金縛りにあったような感覚。


ボウッ


 次に見えたのは、雨の中で燃える――ミザールの姿。


「ゲホッ、ゲホッ……

んふっ、さては準備が出来たのかしらん?」


 自由になったミザールは、長い尾を引きずりながらハクの方を向く。


「ねえアンタ、名前……覚えたわよ?

今日はこのくらいにしといてやるけど……今度あったら、そんときは」


 絶対。――殺してやる。


 雨に溶けたと思った次の瞬間、そこに彼女の姿はなかった。


「……っふ」


 同時に解ける、金縛り。


(……これは、一体。

まるでそう、()()()()()()()()()


 眉をひそめ、状況を整理しようとするハクのところに。


「……様、ブラン様!!」

「おや、カルロス」


 上部分が吹き飛んだ魔王城を見上げ、叫ぶのは――カルロス。


「あんたの言う通り、あの場所に行って敵と戦ったんだが……

面目ねえ、逃しちまった!!いきなり動けなくなって――」

「大丈夫ですよ、私も今回は少々しくじってしまいました。

……と、いうかカルロス。その怪我は一体」


 ボロボロで、なんなら胸部に大穴まで空けているカルロス。


「おう、大丈夫だ!

……てぇ、いいてえところだけど」


 叫びながら、跳躍する。


 ズドン!


 血を撒き散らしながら、地面に叩きつけられるように降り立つカルロス。


「すまん。

……治療、してもらえねえか?」

「……はぁ、ようやく休めると思ったら。

仕方がありませんね、そこに座って――」


バサバサバサッ


 彼らのもとに飛んできたのは、一羽の鳩。


「クルックー」

「……おや、魔鳩とは。

方角的に、フォルテの幹部たちのものではないようですが」


 吐き出させた書簡を、警戒しつつ開いていく。


「……」


ビリッ


「お、おいブラン様!

大丈夫か!?それ、何かの魔法の罠だったり……」

「……ある意味、そうかもしれませんね」


ビリッ、ビリビリッ!


 何度も何度も、笑顔でその書簡を切り裂くハク。


「ある意味って――」

「……カルロス。

北に、行きますよ」

「北?って、何しに行くんだ?」

「お仕事ですよ、調査のね」


 小さく、ため息をついて。 


「全く、あなたは本当に困ったお方だ。


……ノワ」


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