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26.三人と一人の救世主

「俺様に――この、カイル様にな!」


 ふんぞり返るカイル。ババーン!という効果音が聞こえそうである。


「おい、どうした?

この俺様がわざわざ出向いてやったんだ、恐れ多いことだろ?」


 ほらほら、と手で感謝を要求する公爵子息様。


「フェリス……!良かった……っ!

あ、ありがとうございますカイル様!」


 涙目で感謝する我らが純真代表、アリス嬢。


「それでいいんだ。

んで?そこの半魔は?」

「……あー、ありがとうございます……」


(なんだろう、すっごくイラッとする)


 助けてくれたのは事実みたいだが、この態度ではありがたみも薄れるというものである。


「……相変わらず生意気だな半魔、感謝の気持ちが微塵も感じられないぞ」

「き、気の所為じゃないですかねカイル様。

精一杯!精一杯の感謝を込めさせていただきましたとも、ええ!」

「……本当か?」


 疑いの眼差しを向けるも、すぐにカイルはフェリスのところに歩み寄っていく。


「この魔法は一時的なものだ。

俺様の今の力量では、これほど複雑な毒を取り除くのには時間がかかる」

「じ、じゃあ取り除くことはできるの……!?」

「当たり前だろ!このカイル様に任せておけ、平民どもが!」


 そう言いながら、フェリスに向けて両手を伸ばし先程の魔法を唱える。


「まずは容態が安定するまで、毒が回るよりも早く治癒をかけ続ける。

……その間、お前たちはあいつを見ててくれ」


 そう言って片手で指差す先には、先程の獅子。


 それは低く唸りながら、部屋の奥で壁にもたれかかるようにしてじっとしている。


(……今のところ、襲ってくる様子はないな。

毒が回っているのか、それとも……カイルを警戒してるのか?)


 回復薬を即座に割る判断といい、なかなか知能がありそうな獅子である。


(これまで出会った魔獣とか魔人とか、こんなに戦略的なやつはいなかったのにな……

流石は、女神の使いってところかね)


 そんな事を考えていると、ふとアリスが心配そうに尋ねる。


「あの、カイル様……お供の方々は?」

「あれ、確かに。いつも引っ付いてる二人と一緒に班作ってたよね?」

「あいつらか。

ふふん。今頃は俺様の分まで、希少な魔物を狩っていることだろうな!」

「いや、それって」


(……搾取!?)


 それって要するに、お供のお二人を働かせてその成果を自分のものにしてるわけだろう。


 貴族社会の縮図を間近に見て恐怖していると、アリスは更に不思議そうに尋ねる。


「でも、それならどうしてカイル様はここに?

この場所は、地図にも無かったと思うのですけれど……」

「そこのお前……半魔の叫び声が聞こえたんだ」


 と、そこで少し恥ずかしそうに一拍置いて。


「……その。俺は今、回復魔法を学んでいるから。

何か、助けになるかと思ったんだよ」


 小声で呟かれたその内容に、私は驚きを隠せない。


(……なんか)

「意外、だね」


 横のアリスも、うんうんと頷く。


(もっと、戦士系の魔法のイメージだったんだけどな。

下のものを従わせる感じの)


 少なくとも、人を癒やす感じではないのだが。


 そんな私達の反応を見て、カイルは拗ねたようにそっぽを向いてしまった。


「……笑えよ。

俺が回復魔法だなんて、格好悪いだろ?」

「え?

いや、それは無いって!」


 きっぱり。断言する私に、今度はカイルが驚いたように言い募る。


「俺様は公爵家の後継者だ!上に立つ者なんだぞ!?

……そんな俺様が魔法が苦手で、まともに攻撃すらできないだなんて知られたら――」

「魔法が……苦手?」


 言ってから、ハッとしたように口を抑えるカイル。


 ぎこちない動きで私達の方を向いて――


「……おい、半魔に平民。

今聞いたことは忘れろ!!全部だ、いいな!!」


 顔を真っ赤にしながら、何なら目に涙まで浮かべて叫ぶ。


(……そういえばカイルって、入学試験の時)


 お供の言葉が思い出される。


『流石カイル様!黒には珍しい筆記で受験なさるのですね!』


 あの時は、そこまで意識していなかったのだが。

 

 今改めて考えてみると、それはおそらく魔法――実技を、避けた結果なのだろう。


(そっか。

魔法が、苦手……なのか)


「なんだ、そんなことかぁ……」

「そんなこととはなんだ、無様だろ!?

貴族社会の笑い者になる、父上にも失望されっぱなしだ!!」


 歯を食いしばってそう叫ぶカイル。


 その表情には、幼い頃からの悔しさの積み重ねが濃く見えた。


(確かに、攻撃魔法とかそういう派手な魔法の方が。

……見栄えは、いいのかもしれない)


 だけど。


 カイルに向かって、私の正直な感想を伝える。


「治癒魔法って、一番。

……格好いいと思うよ」

「……は?

何を言うんだお前、お世辞なら足りて――」

「お世辞なんかじゃないです!

私が保証します。本当に、格好良かったんだから!」

「んなっ……」

「だから、二度とそんなことおっしゃらないでください!

カイル様は、公爵様の後継者。いえ――」


 怒ったように頬を膨らませながら、それでも優しくアリスは告げる。


「私達の、救世主様です!」

「……お前ら」


 再び頬を真っ赤に染めるカイル。しかしそれは、先程までとは様子が異なっていて。


(おやおや、おやおやおや??)


 こんなところで、恋の始まりの予感である。


(恋愛マスター《アラサー》が、正しく導いてあげるとしましょうかね)


 といっても特に青春らしいことをしたことはないので、見守るしか出来ないのだが。 


「……ってか、普通に努力して筆記だけで受かったんでしょ?

その努力だけで、十分すごいと思うけど」


(そもそも黒は、筆記とかそういう頭使う系が苦手らしいし)


 そう、だから私が座学苦手なのはしょうがない……なんて、言い訳をさせてほしい。


「リーナの言うとおりですよ!

治癒魔法は、努力しさえすればある程度は誰でも習得が可能。

……それなのになぜ、治癒を専門とする魔族が少ないかわかりますか!?」


 ぐい、とアリスは一歩カイルに近づく。


「な、なんだ平民……無礼――」

「いいですか?治癒魔法は……最も忍耐を必要とする魔法なんです」


 一歩、踏み出すアリス。


「血を吐くほどの努力をして、ようやく習得できる。

……はっきり言って、効率が悪い」


 ぎゅっと拳を握る。


「だから皆、自分の固有魔法を選ぶんです。


それでも――」


 まっすぐカイルを見る。


「それでもカイル様は、それを選んだんでしょう?」

「……!」


 カイルの手元で、何度も光が揺らいでいる。


 まだまだ荒削りで――けれど美しいそれは、積み重ねられた努力の証。


「見えないところで、何度も何度も。

努力をして、ここまでたどり着いて」


(……そして、フェリスを。

私達を、救った)


 その説明を聞いて、私は思わず呟く。


「やっぱり、すごいな。

……カイルは」


 緋色に光る、美しいそれ。


(……違う)


 ぎゅっと、拳を握る。


(『使えないから』って、逃げてただけだ)


 胸の奥が、じくりと痛む。


(カイルは。彼は、それでも)


 何度も、何度も努力して。


 一人の命を、その手で救うまでになった。


(……なら、私も)


 小さく息を吐く。


「……ありがと、カイル」

「おい、半魔!そこで感謝するのは違うだろ!?」

「ほらほら、もっと自信持ちなよ」

「……だからな……」


 何かもごもごと呟くカイル。そして――


「……なんか、お前。

あいつに似てるな」


 突然、私に向かってそう言った。


「あいつって?」

「マオ……あの新任教師だ。

……あいつも俺様に、同じようなことを言っていた」


 初めて魔法を使って作った回復薬を、なんの忖度もなしに『きれいだ』と言って。


 その努力を、価値を、認めてくれた。


「……悔しいが、俺様はあいつにその全てにおいて勝てない。

この治癒魔法だって、あいつから教わったものだ」


 でも、いつか。


「……いつか。

俺様はあいつを超える、治癒師になってやる!」


 自らの治癒魔法に、美しい光の輪に包まれ彼はそう叫ぶ。


(……ノワ)


 彼がこれを聞いたら、なんて言うだろうか。


「……きっと。

『待ってるぞ』って」


 バカにしたように、でもどこかあったかく……そう、言うことだろう。


(なんだ、結構ちゃんと教師やってるじゃん)


 態度は不遜だけど。そう思っていると、突然緊迫した表情でアリスが告げる。


「……リーナ!」


 振り向けば、そこには――先程の、獅子。


(……いや、違う)


「アリス、あれは!?」


 獅子の肉が、内側から押し広げられるように膨らみ――


 真ん中から、真っ二つに裂け始める。


「ガ……グルルゥ゙……」


 苦しそうに唸る獅子。そして――


グチャッ


(潰れて……!?)


「ひっ……!」


 思わずアリスが、一歩後ろに下がる。


(……何、この匂い!)


 腐臭。そうとしか表現しようのない、明らかに異様な匂い。


「……エ、ヮたㇱ」


 機械の合成音のような、ざらついた声。 


 さけた獅子の肉の中から、ずるりと出てきたのは――


「ネエ゙……


わタシ、きれイ?」


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