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25.守るための炎

「その、牙……毒、ですの」


 苦しそうな息で、フェリスは告げる。


(毒……!?)

「そんな……!

フェリスさん、しっかり!!」


 しかし、そうしている間にも状況は刻一刻と悪化していく。


「アリスっ、檻が……!」


バリンッ!


 檻が崩れる音。


 獣の低い唸り声が、こちらまで届く。


「ぅ……わたくしの、ことは、いい……から……」

「駄目です、そんなの!

せめて、せめて毒の侵攻を遅く……!」


 目に涙を浮かべながら、必死に氷を生成して傷口に当てるアリス。


 しかし、先程の魔法に力を使ったせいかその魔法にはどこか力がない。


(……アリスも、限界が近そうだ。

なのに、私は)


 そんな中で、私は立ちすくむしか出来無い。


「っ駄目です、斑紋がどんどん……!」

「……はやく、にげる、のですわ」


 懸命に痛みを堪えるフェリスの白い肌は、しかしもう半分ほどが毒に侵されていた。


(っフェリスだけは、絶対に死なせたくない……!)

「アリス、何か解毒魔法みたいなのはないの!?」

「だ、だめです!ルディキウスの毒など、全く聞いたことがありません……!」

「じゃあ回復薬!!いっぱい持ってきてたやつは!?」


 顔を上げたアリスの顔は、絶望に染まっていた。


「っごめんなさい……!!

逃げる時に、邪魔かと思ってあそこに」


 アリスが指差す先には、大きなカバン。


「グルルルル……」


 そのすぐ後ろには、待ち構える獅子。


 荒い息で、狂ったように牙をむき出している。


(……危険、だけど)

「フェリスの、ためだ」


 静かに立って、獅子の方を向く。


「リーナ!?まさか、かばんを取りに……!?」

「それ以外に方法、ないんでしょ」

「危険すぎます!

それに回復薬を取ったところで、女神の毒に魔法で対抗できるとは思えませ――」

「アリス。

フェリスが死んでも、いいっていうの!?」


 叫ぶ私に、怯えたように一歩下がるアリス。


「……ぅ……」

「……フェリス」


(死なせない、私のせいでなんて……そんなの、絶対に嫌だ)


「待ってて」


 右の指輪に意識を集中させ、全力でイメージする。


(……倒さなくていい、せめて少しの間足止めできるなら……!)


 しかし焦りと恐怖からか、思うようにいかない。


「う……」

(なんで、今に限って……!)


 焦れば焦るほど、力が遠のく感覚に陥る。


 そうしているうちに、獅子はカバンの上に右足を置き――


パリンッ!


 乾いた音。


 飛び散るガラスと、中身の液体。


「ああ……!!!」


 アリスの悲痛な叫び声。


 砕け散った瓶の破片が、私の足元まで飛んでくる。


「そん、な……」


 膝から崩れ落ちる。


「何も……」

(何も、できないだなんて)


 絶望し、無力感に呆然としていると。


「アリス、さん。詳細は……わかりませんわ。

っでも、この毒……」


 フェリスは震える指で、足の傷口から血を一滴すくい取る。


「かんじ、ますの。


……魔力を」

「魔、力……」


 ハッとしたような表情のアリス。


 涙を拭い、ふらふらの自分の身体に鞭打つようにして立ち上がる。


「アリス、どうした――」

「……この毒、おそらくは。

後付け、されたものです」


 そう言って、アリスは傷口に軽く手を添える。


「後付けって……!?」

「ルディキウスは、女神の……精霊の力から出来ているもの。

本来、それに魔力が宿ることはありえないのです」


 説明しながら、何かに集中するように目を瞑る。


「つまり。

あの牙に、魔族の誰かが後付けの毒を塗ったということ」

「って、ことは……!」

「っはい……!

種類が特定できれば、解毒できるかもしれません!」


 そう言って、アリスは必死に詠唱を始める。


「リーナ、お願いします!

あの獅子を、特定が終わるまで……足止めしていただけますか!」

「っ……!」

「難しいお願いであることは、承知しています。

……けれど、リーナになら!」


 必死の声色。しかし、私はその場に立ち尽くす。


(私に、出来るのか……?)


「グルル……」


ピチャリ


 剥き出しの牙から、灰色の地面へと垂れる唾液。


(……女神の、使い。

魔法への耐性も、きっと高い)


 封印されていたという、伝説上の怪物。


 そんなものを、私に……私なんかが、相手にできるのか。


「……う」

「フェリスさん、待っててくださいね……!」


(……いや)


「出来るかじゃない。


……やるんだ」


 深呼吸して、再び右手を前に出す。


「……ノワ」


 赤く光る指輪。彼の目の色と、同じ。


(……怖い)


 それでも。


(それでも、守るって決めたんだ)


「力を


……貸して」


 意識を集中させる。


 ふと、獅子の動きがゆっくりになる。


「グル……ルル……」


 牙をむき出し、獰猛に唾液を垂らす姿。


 見方によっては、苦しんでいるとも見えるその様子。


(……もしかして)


 こちらも毒に――侵されているのでは、ないだろうか。


「……なんだ」

(ハンデは、そっちだったのか)


 少し、不謹慎にもニヤけてしまう。


「……そんなら」

(私の、全力を)


 もう、迷いはない。


 決死の覚悟で、力を前に押し出し――


「『炎の吐息スピリトゥス・イグニス』」


ドゴーーン!!


「グルァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!」


 突如現れた複数の火球と、燃え上がる獅子。


「……ん?」


(今、口が勝手に)


 何か詠唱をしたような気がするが、私は全くそんなものは知らないのである。


(授業でも、まだ基礎的な一般魔法しかやってないし……)

「……一体、何が」

「ガァ゙ァァァ!!!」


 私のそんな疑問をよそに、地面をのたうち回る獅子。


 しかし、容赦なくその上に更に火球が降り注ぐ。


「……なんか、足止め……できてるっぽい?」


 原理は全くわからないが、なんだか目的が完遂できているっぽいので良しとしよう。


(……もしかして、入学式の出来事って本当に私の実力だったり……!?)


 またもや不謹慎にニヤける私の頬を、自分自身でビンタする。


「ダメだダメだ、今はとりあえず集中しないと」


(……見たところ、目立った外傷はない。


火球が尽きれば、また襲ってくるだろうな)


 少し赤い光に陰りが見え始めた、その指輪。


(魔力、結構使っちゃったのか……?)


 不安になりながらも、第二弾に備え意識を集中させると――


「っリーナ!」


 後ろから聞こえる、アリスの声。


「アリス?

解析の方は」

「……終わり、ました」

「な、ならフェリスは――」


 助かる、と言おうとしてその表情に目が留まる。


 なぜだか、泣きそうな顔をしたアリス。


「この、毒は。


……私には、解毒できません」


 固く唇を噛んで、アリスはそう告げる。


「できないって……!」

「基礎的な解毒魔法なら、出来るのですが。


……これはおそらく、いくつかの毒が組み合わせられた非常に高度なもの」


 作り手も、相当な手練れなのでしょう。


 そう言って、アリスは絶望した表情を浮かべる。


「……私の解毒魔法では、到底及びません」

「そんな……!じゃあフェリスは!?」


 焦って彼女の方を見ると。


「フェ、フェリ……ス?」

「……ぅ゙あ」


 全身が、殆ど斑紋に覆われていた。


「……この、ままでは」

「ガルルル……!!!」


 背後では、獅子の声。


 火球の攻撃を、耐え凌いだようだ。


「……フェリスさんは。

あと数分も、持たない……っ!」


 ボロボロと落ちる涙。


 それを聞いて、私の目の前も真っ暗になる。


「……そんな」


(助けられないの?)


 私のために、フェリスまで。


「…は、や……く。


に……げて……」


 かすれた声で、フェリスが呻く。


「リーナ。


……行きましょう」

「……っ!」


 嫌だ、というその言葉は喉元で止まる。


(……分かってる)


 様子を見れば、本当にもう……手遅れであることくらい。


「でも、やっぱり」


 見捨てたくない。


「……リーナ!!」


 迷いから動けないでいる私に、アリスがつかつかと歩み寄る。


「私達だけでも、早く!」

「でも、フェリスを見捨てることなんて!!」

「……彼女の死を、無駄にする気ですか!!」


 強い語調のアリス。


 しかし、その目一杯の涙が彼女の本当の気持ちを語っている。


「……そんなこと、言ったって。


……っ!」


 ぐい、とアリスに手を引っ張られる。


「……


ごめん、フェリス」


 今や、全身が斑紋に覆われた彼女。


 私の謝罪を聞いて、かすかに微笑んで。


「……かあさま。


わたくし、せんし……で」


 そして、そのまま目を閉――


「『守護の治癒クストス・サニターティス』」


 ――誰かの、声。


(……え)


 誰何する間もなく、アリスが驚きの声をあげる。


「リーナ……!フェリスが!」


 見ると、フェリスの全身を淡い光が包み込み。


(どんどん、斑紋が消えていってる……!)


 驚いて固まっていると、声の主は小馬鹿にしたように続ける。


「おい、半魔に平民!


身の程知らずにも助けていただいたんだ、なにか言うことがあるだろ?」


 イラッとする声。それは、いつもの。


「俺様に――


この、カイル様にな!」

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