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20.嵐の襲撃者

※軽い流血描写あり

 風と雨が荒れ狂う、嵐の中。


 稲妻のように、一つの影が魔王城へと駆けていた。


「チッ、クソが。外れかよ」


 舌打ちする女。しかしその表情には、すぐにたっぷりとした余裕が戻る。


「まっ、いーわ。このアタシが直々に、ぶっ潰してあげよーじゃない」


 次の瞬間――


パリンッ!!


 執務室の窓が、内側へと砕け散った。


「……おや、窓からいらっしゃるとは。なかなか奇抜な御婦人ですね」

「あぁ゙?」


 ドスの効いた声で威嚇する彼女は、しかし優雅に座って紅茶を飲む彼――ハクを見て、下卑た笑みを浮かべる。


「あら、アンタ。なかなか可愛い顔してんじゃない」


 そう言って、体をくねらせながらハクに近づいていく。


「ねえアンタ。名前、何ていうの?」

「名乗るほどの者ではありませんよ。

……それで、先程窓を割ったのはあなたですね?」

「んっふふ、そーよ。ご・め・い・さ・つ」


 唇に指を当てそう言う彼女を、しかしハクは目を瞑って一切見ようともしない。


「ではもう一つ、確認のために。こんな大雨の中、こちらに何をしにいらしたのですか?」

「んふっ、それはね……」


 ずぶ濡れの肢体を見せつけるかのように、その場で一回転。


「魔王のいないこのお城を、アタシのものにするためよ!!」


 それを聞いたハクは、目を瞑ったままに薄く微笑んで。


「なるほど、思い違いではなかったようだ。

……わざわざのお越し、ありがとうございます」


カチャリ。


 手に持ったカップを皿に置き、ハクはゆっくりと立ち上がる。


「んぁぁ!やっぱりアンタ、見れば見るほどイー男ね!

ねえ、そこで跪いて無様に命乞いしたら……特別に、アタシの奴隷として生かしてやってもいいわよ?」


 頬を紅潮させ、ねっとりとした口調でそう誘う彼女。


「あいにく私が膝を折るのは、この世でかのお二方のみ。


……申し訳ありませんが、そのお誘いは承諾致しかねます」

「んふっ、ツレないのねえ。ざーんねん。

それじゃあ……」


 女が片手を上に掲げ――


「死ねっ!!!!」

 

ガラガラガラッッ!!!


 突然、天井が崩壊した。


「ほう、これは」


 堅牢な作りと、古き魔法による強化が施された魔王城の上部。


 それがいともたやすく破壊される様子を見て、ハクは軽く眉を潜める。


「……失礼ですが、あなたのお名前は?」

「んふっ。ようやくアタシに興味を持ってくれたのねぇ……でももう遅い!」


 土砂降りの雨の中、なおも頬を紅潮させる彼女の後ろに伸びるのは――


(青い尾……?まるで、竜のような。


なるほど、そういうことですか)


 自身の周囲に薄い氷の膜を展開し、雨を除けながらハクは薄く微笑む。


 対して名乗る彼女は、自身に降り注ぐ雨を心地良さげに両手で受け――


「んふふっ、アタシはね……『月桂冠ローリエト』幹部、『七星アステリズム』第六席。

『水龍』ミザール様よっ!!!」


 叫ぶ彼女と、それに呼応するようにうねうねと動く長い尾。


 それは周囲に水をまとい、まるで操っているかのよう。


「あら、どうしたの?んふっ、アタシの迫力に怖気付いちゃった?」


 感情のない瞳で自らを見つめるハクに、ミザールは余裕の笑みを向ける。


「いえ、『水龍』……ですか」

「んふふっ、そうよ!聞いたことあるんじゃない?

偉大なる竜の末裔にして、魔法も使いこなす完璧な存在!それがこのアタシ、ミザール――」

「それはなんとも、滑稽な」

「……あ゙?」


ピキッ


 額に青筋を浮かべ、ハクの方を睨むミザール。


 対するハクは、心底愉快そうに嗤って――彼女を、見下ろす。


「あ゙あ゙?てめえ、自分がなに言ったか分かってんのか?」

「ええ、本当にあなたは愉快な御婦人だ。

……『竜のなり損ない』の分際で、その称号とは」


 次の瞬間、ミザールの周囲に複数の水球が現れる。


「『水の触手フニクラー』っっ!!!

死ね!!!死ね死ね死ね死ねぇ゙ぇ゙っ!!!」


 弾丸のように、ハクに向かって一直線に放たれる水球。


「おっと、これ以上破壊されては掃除が大変です」


 その全てを凍らせ、地に落としながらハクは呟く。


「しかし、ミザールさん。あなたは運が良い」

「あ゙ぁん?何いってんだよ、さっさとくたばれ!!

『天地の溢水リダンティア』!!!」


 上空から降り注ぐ、洪水のように巨大な水の塊。


 しかしそれはハクに触れる寸前で瞬時に凍り、砕け散る。


「クソッ!!『水よ、溢れて――』

「何しろ、今あなたのお仲間のところには……」


 必死の表情で詠唱を始める彼女に、ハクは楽しそうに告げる。


「本物の、『()』が。


向かっているはずですから」



◇◇




「ブラン様の言ってた場所ってーのは、ここか?」


 大剣に手をかけ、警戒しながら森の中を進むカルロス。


「ん?なんだ、この匂い」

(何かが、腐ったような)


 常人には決して感じられないであろう、かすかな違和感。


 彼の鼻は、数多の中からそれを正確に嗅ぎ分ける。


「……行ってみっか」


 言うやいなや、彼は風のように駆け出す。


(樹の実が腐ったとか、森の動物が腐ったとかそんな生易しい匂いじゃねえ。

……これはまるで)


 枝をかき分け木々の合間を縫って進むうち、彼の前に現れたのは……開けた、空き地。


「なんだ?ここだけ木々が全く生えてねえ」

(伐採された、って感じでもねえな……?どういうこった)


 首をひねるカルロスは、しかしその中心に置かれた『あるもの』の前で足を止める。


「箱?森ん中に、なんでこんなもん」


(でも匂いは、確実にここから出てんな)


 警戒しつつも、手乗りサイズのその箱を取ろうとした瞬間――


「ネエ゙、わたし、きレイ?」

「っ……!?」


(何だ、今の声。

まるで何人もが、一気に喋ったみてえな)


 即座に箱から飛び退き、距離を取って大剣を構えるカルロス。


「ネエ゙、わたシ、キレい?」

「……」


(やっぱりな、箱から聞こえてやがる。

……問いかけに答えることで、魔法が発動する何かの仕掛けか?)


 体勢を変えず、相手の出方を静かに伺う。しかし――


「なんでなんでなんでなんでなんでなんデなンデナンデナンデ!!!」

「っ……!?

なんだ、でかくなってやがる!?」


 突如、その箱が膨張を始めた。


ギギッ……


 そして、その中から無数に伸びるのは――


「包帯っ……!?」


 慌てて避けながらも、カルロスはそこから漂う強烈な匂いに思わず顔を歪ませる。


(いや、違う。これは……

人の、腕っ!!!)


 包帯の巻かれた、無数の人間の手足。


 それらはありえないほどの長さを以て、容赦なくカルロスを襲う。


「きれい!!!きれいって!!言ってヨ!!!!」

「クソッ、動きが読めねえ!!!」


(あいにくこっちは、体にくっついた状態の手足しか相手したことしかねえっての!!)


 大剣を振り回し、応戦するカルロス。しかしムチのようにしなったそれらは、カルロスの腕に小さなかすり傷をつける。


「……ぃって!!」


 途端、彼に走る電撃のような激痛。


 思わず傷口を見たカルロスは、驚愕のあまり目を見開く。


(なんだ、傷口から腐食……?

いや、これはまさか)


「……毒か!!」


 紫色の斑紋のようなそれは、どんどん広がっていき彼の全身を覆っていく。


「キレイキレイキレイ!!あなた、キレイ!!!!」


 箱から聞こえる不気味な声。まるで彼のその姿を、笑っているかのようだ。


「……くそっ、このままくたばるわけには」


 必死に歯を食いしばり耐えようとするも、彼の体は限界に近い。


(ブラン様、すまん。俺、は、役目……を)


ドサリ


――沈黙。


「ネエ。わたシ、キレイ?」


 今や背丈ほどに膨張した箱が、ゆっくりと開く。


 中から出てきたのは――


「ワタし……キレい、キれい!!!」


 かろうじて人の形を保った、包帯だらけの何か。


 その体から伸びる無数の手足を引きずり、それは倒れたカルロスの近くまで歩んでいく。


「アナたも、きれイ、なった……ネ!」


 徐々に言葉は、流暢になっていき。


 そして――


グサッ


 目にも止まらぬ早さで、その手の一本がカルロスの心臓を――貫いた。


「キャッきャッ!!きれい!!」


 ひとしきり、その身から流れ出る血を見て笑った後。


 それは雨の降りしきる上空にむかって、手足を伸ばす。


「『月桂冠ローリエト』かん、ぶ……『七星アステリズム』ふたつメ。

『流麗』の、メラク。この勝利を――」


 まるでそれは、何かに祈りを捧げるよう。


「至高の、美……

我らガ神、アルテミス様に――捧げまス!」


 『メラク』と名乗るそれは、そう言うとまた先程の箱に戻ろうとして――


「……おい」

「きゃッ?」


 自身の手足の一本が、何者かに掴まれていることを知り驚いたように振り返る。


「ナ、何が起きテ……」


ブチッ、ブチブチブチッ!!!


「きアぁ゙ァ!!!!!!イたい、いダィ゙!!!!」


 悲鳴を上げるメラク。


 その手足を容赦なく握りつぶし、異常な力で根本から引きちぎるのは――


「……なあ、お前。

今、なんつった?」


 つい先刻心臓を貫かれたはずの、カルロス。


 全身から圧倒的な殺気を放ち、立ち上がるその頭には……まるで()()()()()、2つの角。


「ナ、なんでダ!!なんデ、生キて!!」


 黒光りする巨大な大剣を、軽々と片手で持ったカルロスは……静かに、しかし怒気をはらんだ声で問いかける。


「答えろ。お前、あいつの。


アルテミスの、手先か?」


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