7.同室の少女と学園の始まり
「よろしくお願いします、リーナ!」
「ア、アリス!?」
愛らしい笑みで、二段ベッドの下段に座るアリス。
「まさか、リーナと同じ部屋になれるとは思っていませんでした……!」
「私もだよ、嬉しいな」
二人で両手を合わせ、嬉しさのあまり跳びはねていると。
(いや、待てよ)
案内役の上級生曰く、私と同じ部屋になるのは。
「……アリス、次席なの??」
「そうみたいです、筆記は満点ですが実技でリーナにぼろ負けちゃいました」
とほほ……みたいな顔をする彼女。
「……い、いや筆記満点って!?」
脳裏に浮かぶのは、なんだか怖い笑顔を浮かべるハクの姿。
『お嬢様には、この三種のうち実技を受けていただきます』
『……えーっと、それはなぜ』
『簡単です。他の二つ、すなわち筆記で落ちるからです。確実に。』
『消去法かーい!!
え、なにそんなに難しいの?』
『ええ、歴代で満点合格は一人のみですよ。半分取れたら合格と言われる最高峰の試験です』
『……そりゃー、確かに落ちますね』
回想から戻ってきた私は、目の前で嬉しそうに荷解きをする美少女を見つめる。
「……アリス」
「はい?どうしましたかリーナ」
「君、天才だから絶対魔王軍入ろうね。絶対」
「そ、そんなに圧をかけないでください……!!」
「いや、かける。何がなんでも」
(人材確保じゃ……!!)
ずいぶんと人手不足らしい魔王軍をなんとかしたい。あと同世代の知り合いがほしい!!
「わ、わかりましたから!!近いです、リーナ……」
「よろしい。
……あ、そういえば上使って良い?」
そう言って私が指差すのは、二段ベッドの上の段。
「私も下を使いたいと思っていたところです、ぜひ!」
「よっっしゃぁぁ!!」
ガッツポーズを取る。
(なんだか上って憧れるんだよなぁ)
修学旅行っぽいし。何はともあれ、私の寮生活の夢の一つが叶った。
「あわ、リーナ!そろそろ時間です、急がなきゃ」
「……じかん?」
ぽやーん、と答える私にアリスはぴしっと教えてくれる。
「最初の授業、ですよ!ほら、荷解き手伝いますから貸してくださいな」
「う、うぉぉ」
あっという間に私の手から荷物は奪い去られ、アリスによってきれいに仕分けされていく。
(いい子だ、そして有能すぎる……!)
なんだか感動して涙まで出てきそうである。
「ふぅ……これで大丈夫ですね。
確か最初の授業の持ち物はなかったはずなので、このまま行きましょう!」
「ありがとう、本当にありがとう……!!」
(これ、アリスについていけばなんとかなりそうだな)
手を引っ張られ、廊下を高速で移動しながら私は幸せに浸る。
「これからも色々よろしくね、アリス……」
頼る気満々の私に、しかし彼女は嬉しそうに笑って答える。
「リーナのためならなんでもしますよ!
……あ、つきました!ここです」
アリスの歩みが、ある教室の前で止まる。
「ここって」
「最初の授業……たしか魔法実技科の先生が講義してくださる、とか。
楽しみですね!」
「う、うん。楽しみだね……」
嘘である。入学試験でのやらかしのせいで、また何か目立つことをしないかと不安でならない。
ガラッ
アリスが扉を開けた。
中に広がるのは、二人一組で座るテーブルが何個も並んだ広い空間。
(実験……でもするのかな?)
中央には鍋らしい小さなものもある。
もっと良く見ようと、教室の中に一歩を踏み出すと。
ざわっ
「おい、あいつ首席の……!」
「半魔なのにあの魔道具を破壊したとか」
「しかも無詠唱らしいぞ……!?」
(……うん)
泣きそう。とっても泣きそう。
「あそこ空いてますよ、座りましょう!」
そんな中、アリスは純真無垢な笑顔で私の手を引く。
「アリス」
「どうしましたか?リーナ」
「好き」
「んなっ……!?じ、冗談はやめてください!」
顔を真っ赤にするアリス。しかし、私の気持ちは本当である。
「全員揃ったかー?授業始めるぞ」
私たち二人が席に着くと、教卓に歩み寄るいかつい男教師。
「あ、あの人」
「リーナ、知ってるのですか?」
「うん、多分実技試験を担当した人……名前はたしかアドルフ、だと思うよ」
そういえば、魔法実技科の統括だとか言っていたな。
アドルフは、静かになった教室に向けて言う。
「もともとこの授業は、俺の担当だったんだが……ちょうど良く、新しく先生が入ってきてくれてな。
君たちは、その先生が担当することになった」
途端に、教室が再びざわめく。
「えー、新任って大丈夫かよ。並の魔族じゃ俺たちをお教えるなんて出来ねえだろ」
「なに、この学園もその程度なの?」
「おほほほ、わたくしの教師など新任ごときに務まるのかしら?」
(……今、なんかすっごい貴族の令嬢っぽい人いなかったか?)
アニメやゲームのなかでしか聞かないようないわゆる「お嬢様言葉」炸裂だった気がするのだが。
「ほら、静かにしろー!
俺は急用があるから、ここはその先生に任せようと思う」
そう言って、足早に立ち去るアドルフ。どうやら扉の向こう側にその先生とやらが待機しているらしい。
(新任の先生、かあ……)
ブーイング吹き荒れるこのクラスを教えるのは大変そうだ、なんて同情していると。
ガラッ
コツ、コツ
扉が開く。
(……え)
その瞬間、空気が変わった。
(この感じ、どこかで……)
「さて、ようやく俺の出番か?」
黒い髪に、黒いローブを羽織った若い男。
「リーナ、あの仮面は一体何なのでしょう」
側で囁くアリス。そう、その男は目元に仮面をつけていた。
「う、うん……なんだろね……?」
「?どうしたのですかリーナ、なんだか上の空みたいな」
(……まさか、ね)
その場の空気を一瞬で掌握してしまうほどの覇気を持つ、凛とした美しい声。
そして仮面に隠れていてもわかるほどに綺麗な、その顔立ち。
「ああ、まずは自己紹介からだな」
彼は、教卓の前で立ち止まりこちらを向く。
「本日より、お前たちの魔法実技を担当させてもらう」
その目線の先には――
(そんな、まさか)
「マオ、とでも呼ぶがいい」
口元に浮かぶのは、不敵な笑み。
「くれぐれも、よろしく……な」
仮面の奥。
その赤い瞳が――
まっすぐに、私を見ていた。




