6.偽りの首席と学園の噂
「……そして我々新入生一同は共に学び、高め合うことを誓います」
パチパチパチ。
会場を湧かせる拍手。数多のそれが向けられているのは。
(なんで、なんでこんなことに……!!)
壇上から降り席へ向かう、滝のように汗を流した少女。
そう、私である。
「リーナ、格好良かったです……!」
「あ、あははありがとう」
席に戻るなり、小声でささやいてくれる隣の少女アリス。
そう、無事に私はこの学園に合格し、晴れて新入生……となったは良いのだが。
事件は、昨日起きた。
『首席合格者は……リーナ=ハミルトン』
(……は?)
合格発表にて呼ばれなかった私。それがなぜか、「首席合格者」になっていたのだ。
『リーナ、すごい……!首席ですよ!』
『リーナ=ハミルトン、こちらへ』
群衆の圧とベアトリス校長の手招きにより、壇上へ押し上げられる私。
『お、おいあいつさっきの……!!』
一分のざわめきは、先程の実技試験にて私の破壊活動を見ていた者たちだろう。
『さてリーナさん。あなたは実技にて試験用の板を破壊した。それも無詠唱でね』
『は、はあ』
『いい?あれはね……フォンセ様の時代から伝わる、この魔国一の魔道具大工が作ったもの』
壇上で、ベアトリスの紫の目は私をまっすぐに見つめる。
『私が校長になってから、あれを破壊した者は。
今の魔王様、たった一人よ』
そして、彼女は控えていた教員から光る何かを受けとる。
『魔王に匹敵する力、あなたはそれを持っている』
それは、美しい金のリボン。
ピンでそれを私の胸に止め、彼女は大勢に向かって私の手を掲げる。
『リーナ。あなたこそ、首席にふさわしいわ!』
ウオオオ!!
そうして、学園でのリーナの伝説が――
(始まる、じゃないんだよぉぉぉぉ!!)
来賓の挨拶や、生徒会長の言葉。進行する式の中、汗をだらだら流しながら私は心のなかで叫ぶ。
(今の魔王、ってことはノワも破壊したってことだよね……)
そっと、自分の右手の薬指を見る。
彼の目の色と同じ、赤く光るその指輪。
(絶対。これのせいだ)
確信がある。そういえばノワの魔力は密度がえげつない、とか言っていたし。
(ああもうどうしよう、私の実力じゃないのに)
目立たないようにと用意された諸々。
しかしそれらの努力もむなしく、おそらく私は今最も注目を浴びていることだろう。
(で、でもノワ……魔王の後継者ってことだけはばれるわけにはいかないよな)
よし、これだけでも守り抜こう。命を懸けて。
「以上で、入学式を閉会とする。
一同、起立!」
私の決心と同時に、どうやら式が終わったらしい。
「新入生のみんなー!これから各自の寮まで案内するから、荷解きが終わったら早速はじめの授業に向かってねー!」
誘導するのは、胸に金のバッジをつけた上級生。
(確かあれは、生徒会の証だっけか。
……なんか、見たことあるんだよな)
しかしそんな私の思考も、ぞろぞろと動く人の波にさらわれてゆく。
「リーナ、ではまたはじめの授業で!」
「アリス、またね!」
(……はぁ、とりあえずはこれ以上目立たないようにしよう)
そんなことを考えつつ、上級生の誘導にしたがい寮へと向かう。
「君は……この奥の部屋。君は――」
どうやら寮は男女で分かれており、二人で生活するらしい。
「……あの、私の部屋は」
遠慮がちに、私も問いかける。
「……おっ!首席じゃないか!魔王の卵だって噂になってるよ、君は――」
(い、いやだぁぁぁぁ!!
変な方向で目立ちすぎてるぅ!!)
はは、はは……なんて笑っているが、リーナのライフはもうゼロよ!
「……おや?君、次席の子と相部屋なんだね」
「次席?ってことは……首席の次?」
「ああ、入学試験の時に両立で受けた子もまたとても優秀で、白の系統であることも相まってブラン様の再来とか言われている」
「ブラン様……」
私の頭に浮かぶのは一人。もちろんわが有能執事、ハクである。
「そんなに優秀なんですか?ハ……ブラン様って」
「ゆ、優秀もなにも……!この魔国の頭脳と言われるほどだよ!
……これは、噂なんだが」
と、そこで彼女は声を潜めて耳打ちする。
「ブラン様は、筆記科目は常に満点。実技も上位で学園始まって以来の秀才と言われた。
……それでも、最初から最後まで次席だったのさ」
「な、なんで……!?」
「『天才』が居たからだ。
……魔王様だよ。さ、首席君頑張ってね」
ウインクに送り出され、私は案内された部屋の扉に手を掛ける。
(じ、次席の子と同じ部屋かぁ……これはなんだか、波乱の予感)
この首席の座が、指輪――魔王の魔力によるものだと知られたら。
きっと、その彼女は怒るだろう。軽蔑しても当然だ。
(意図してやったことではないとはいっても。
……ちょっと、嫌だな)
友達に、なれたかもしれないのに。
(……でも)
これ以上バレるわけにも、目立つわけにもいかないのである。
内心緊張と不安でコチコチになりながら、扉を開けるとそこには。
「ども!リーナです!よろし――」
固まる私。そんな私に、彼女は驚いたような顔をしたあと笑顔を向ける。
「まさか、あなたとだなんて!
――よろしくお願いします、リーナ!」




