5.合格発表、その結末
「やっちゃった♪なんか絶対やっちゃった〜♪」
試験会場を追い出され、ここで発表を待ってろと言われた私。
門から入ってすぐの、誰もいない空間で絶望とともに歌っていると。
「リーナ様!!」
そう言って、建物から走り出てくる白髪の少女。
(あ、あの子……!)
先程、ちょうどこの場でカイル達にいじめられていた美少女ではないか。
「リーナ様も、もう終わったのですか?
実技は時間がかかると聞いていましたが……」
「あ、うん!ちょっと色々あって!」
ははは、はは。
目を泳がせながら、私は答える。
「っていうか……『も』ってことは」
この少女も、試験が終わったということか?
(でも、他に終わったっぽい人いないよな……)
疑問に思い、周囲を見回していると彼女は笑顔で頷いた。
「はい!両立の者は筆記と実技が両方求められる分、量は少ないのですよ。
早く課題をこなした者は退出できるのです」
「早く……って、早すぎない!?」
どうも私のように試験の大半をパスしたわけではなく、この少女は全てをこなしてこの場に戻ってきたらしい。
(それって、かなり)
「す、すごい……よね……」
「そんな、私にはこれしか出来ませんから。
……でも、ありがとうございます」
照れたように頬を赤くして言う彼女。そういえば、と思い私は尋ねる。
「それで、お名前をお伺いしても?」
「あっ……!私としたことが、失礼しました!」
驚いたように口を手に当ててから、可愛らしい仕草で答える。
「アリス、と申します。
その、お恥ずかしいことに私には爵位などありませんが……精一杯、リーナ様のために尽くしますので!」
勢い良くお辞儀をする彼女――アリス。
(……これは、ちょっとノワの気持ちがわかるかもしれないな)
「よろしく、アリス。それと」
私は、彼女の手を取って顔を上げさせる。
「『様』はいらないよ」
「……えっ、でも」
戸惑ったようなアリスに、私はなるべく誠意を込めた笑みを向ける。
「だって私達、これから同級生……ううん。
『友達』だもの」
アリスは驚いたように目を見開き、そして笑って答える。
「……わかりました!
よろしくお願いします、リーナ!」
――少しだけ、涙ぐんだような笑顔で。
満足気に私も微笑むと、アリスは少し遠慮がちに切り出す。
「で、でも合格発表まだですよ……?」
「……あ」
急激に上がりゆく私の顔の温度。
(これは恥ずかしい……!!)
まるで受かる自信満々の女ではないか、自意識過剰すぎる。
「うわああああ……」
「ご、ごめんなさいリーナ、顔が……熱でもあるんじゃ」
呻く私を心配してくれるアリス。
その優しさになおさら心が刺されていると。
ガヤガヤ。
「うわ、難しかった……」
「俺絶対落ちたわ、どうしよ親父に怒られる」
「お、筆記どうだった?」
一斉に、三方向から人がなだれ込んできた。
「リーナ、終わったみたいですね」
「だ、だね……」
どうやら、全ての試験が終了したらしい。
「お、平民と半魔じゃないか!はっ、どうだお前ら。家に帰る用意は出来たのか?」
その中には、先程のカイルと取り巻きの姿も。
「なっ、私は良くてもリーナをいじめることは許しませんよ……!」
「アリス、落ち着いて」
しかし、先ほどとは変わり緊張しながらも言い返すアリス。
「おい、平民風情が――」
「静粛に。これより、試験の結果を発表します」
激昂する取り巻きの言葉を、厳粛な声が遮る。
「あれは……校長、ベアトリス先生。
若き魔王様の教育も担ったという、魔国の教育の頂点!」
(ほえー、そうなんだ)
アリスのつぶやきに、ふむふむと頭のメモに書きつける私。
(なんか、すっごく風格あるなあ……)
30前半、と言った容姿をしているが長い白髪に紫のローブを纏った姿はまさに底知れぬ「美魔女」である。
その風格に圧倒されていると、彼女は手元の紙を読み上げ始めた。
「さて、まずは筆記試験から――」
順調に読み上げられていく名前。
「よしっ!」
「流石カイル様!」
「お見事です!」
ガッツポーズを取るカイル君。どうやら合格したらしい。
「そして――アリス」
「やった、リーナ……!私、受かりました!」
ぴょんぴょん横で跳び跳ねるアリス。可愛い。
「……以上となる。合格者の諸君、おめでとう」
拍手。
――え。
ざわめきの中で、私だけが取り残されたような感覚。
(……今、呼ばれた?)
「おい、リーナとかいうやつ」
ふと声のするほうを見れば、にやつくカイル。
「やはり半魔のお前ごときには、この学園は無理なんだよ」
「はっ!平民のほうは運が良かったようだな!」
呆然とその言葉を聞きながら、ぼんやりと私は立ちすくむ。
(合格って、言うたやん……!
あれ嘘だった!?いやそんなことある!?)
脳裏に浮かぶのは、あのいかつい監督アドルフ。
「リ、リーナ……」
なんと声をかければ良いのかわからないのだろう、アリスも押し黙ってしまう。
(あ、まずいこれ……絶対受かると思ってたのに落ちたやつやん……恥ずかしすぎる……)
近くに良い墓場はないか、と探していると。
「さて諸君、最後に」
先程のベアトリス校長が、再び顔を上げて言った。
「映えある、首席合格者を発表しよう」
「しゅ、しゅせき……?」
「明日の入学式での生徒代表挨拶や、生徒会への推薦権、そして奨学金の権利など。
この様々な特典を受けとるのは――」
たっぷりと貯める彼女。
(案外ノリのいい人なのかなぁ……もう会うことないけどなぁ……)
ぼんやりとそんなことを考えていると。
「さぁ、壇上へ!
――リーナ=ハミルトン」
一瞬。
校長の視線が、まっすぐこちらを射抜いた気がした。




