3.学園の洗礼
「ではお嬢様、行ってらっしゃいませ」
「い、行ってきます」
(……ついに、か)
馬車から降ろされた私は、笑顔のハクに見送られその荘厳な門の中へ。
ほぼ徹夜で色々と叩き込まれていたため、眠い目をこすりながら目を上げると。
「で、でか……!?」
思わず言葉を失い、立ち尽くす。
ノワの治める魔王領、その中心部に位置するここ――「テネブラエ学園」。
国中の貴族の後継者が集まり、その能力を磨く魔国最大の教育機関……なのだが。
(なんか……)
「豪華、だなぁ」
白黒の石造りで重厚感のある魔王城。形状は似ているものの、この学園は物理的に光っていた。
白と金を基調とするその外装は、一つの芸術作品のよう。
呆然としていると、何やら向こうが騒がしい。
「ああ?貧乏人が、お前ごときがこの学園に入る資格があるとでも?」
「やめ、やめてください……!!」
「出てけ、平民風情が!!ここはお前みたいな奴が来る場所じゃねえんだよ!」
向こうを見れば、黒髪の少年3名に囲まれて涙目の白髪ロングの少女。
(うわあ……話には聞いていたけど、腐ってんなあ)
「……はあ」
ため息をつきながら歩み寄る。
「なんだお前。
……半魔か?ちょうどいい、お前もこの女と一緒に教育してやろう」
私の姿を見るなり、歪んだ笑みを浮かべ煽ってくる少年。まとっている服は絹の黒で、宝石を散りばめた豪奢な軍服のようである。
(さてはこの子がボスで、あとの二人は取り巻き……ってところかな?)
服装と態度から、私はそんな事を考える。
「あのー、お名前」
「おいお前、このお方がどなたか知っての無礼か!?」
取り巻きの一人が騒ぎ出した。
(名前聞こうとしてたのでちょうどいいな、気が利く)
「あー、申し訳ないけど知りませんね」
「んなっ、貴様……!」
(うおっっと危ない)
もう一人の取り巻きが拳をあげた。寸前でかわし、何か気に触ることを言ってしまっただろうかと困っていると。
「ど、どなたか存じませんが……私のために、ありがとうございます。
……で、でも……このお方には、逆らっちゃダメです……!」
弱々しい、けれど愛らしい声が下から聞こえてきた。
「大丈夫ですか?ってか逆らっちゃダメって」
どういうことか、と言いかけて私ははたと静止する。
(何この子、めっちゃ美少女……!!!!)
そう、取り囲む少年達のせいで良く見えなかったが……この白髪少女、凄まじく可愛い。
(絶対これゲームとか小説ならヒロインだろな)
涙を浮かべたその瞳には、どこか諦めの色が滲んでいて――
(なるほど……)
「そういうことでしたか」
「……?あの、だから」
「君たち!気持ちはわかりますが、そういうアプローチの仕方は良くありませんよ!」
ぴし、っと男子たちを指さして言い放つ。
「な、なんだお前……先程から黙っていれば!!」
(……あれ、違ったのか?)
てっきりこの憂いのある美少女に一目惚れして、間違ったアプローチに走っていたのかと思ったのだが。
「おい!!このお方こそは公爵家が御子息……
カイル=アラール様だぞ!!」
ばばーん!!
取り巻きの言葉とともに、胸をそらすカイル君。
(公爵……たしか)
昨日のハクからの地獄の講義を思い出す私。
『公爵、ってのが一番偉いんだよね?』
『ええ、流石のお嬢様もそれはご存知でしたか。少し安心いたしました』
『なんか失礼ですねハク君。
……それで、この国だと何人くらいいるの?』
『両手で数えられる程度しかおりませんよ。魔王とはいってもノワはあまり表に出ませんから、実質はその数人が魔国の顔として動いておりますね。
……ああ、ちなみに』
と言って、こともなげにハクは続ける。
『私も身分上は公爵です』
(……って、聞いちゃうとありがたみが……っ!)
何しろ身近に公爵御本人、何なら魔王がいるのである。
ふんぞり返るカイル君には申し訳ないが、あまり私の心には響かない。
「そ、そうなんですね。それはすごいですね」
最後に(棒)とつけられるほどの感情のない返しをする私。
しかしそんな様子を、彼らは異なって解釈したようだ。
「カイル様!こいつビビってやがりますよ!!」
「ふんっ、どこの田舎貴族だ?
半魔を後継者にするなど、よほどの物好きなのだろうな」
はははっ、とバカにしたように笑う三人。
「えーっと、確か……
ハミルトン辺境伯の後継者、リーナ=ハミルトンと申します」
スカートの裾をもってお辞儀。勿論こちらも付け焼き刃の礼儀作法である。
しかし、取り巻きの二人は少し驚いたように固まった。
「ハミルトン……聞いたことがない家名だが」
「し、しかし辺境伯とは……!」
焦ったようなその反応を見ながら、私はぼんやりと回想する。
(確か辺境伯って、中央から離れた土地で力を持ってる貴族のこと……だよね)
しばしばその実権は伯爵を上回り、領地と軍事力によっては公爵にも迫るとか。
ニコニコ笑顔でこの身分を用意し、そのまま入学試験まで申請してしまったハク。
(「しごでき」ってやつだなあ)
舐められず、されど目立つほど高すぎず。流石は有能執事である。
感心していると、看板を持った女性の声が聞こえてきた。
「新入生の皆さん、これより入学試験を開始しますー!筆記選択の方、もしくは両立受験の方はこちらへー!」
その声を聞いて、カイル君はまたもや歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
「リーナとか言うお前、今日はこのくらいにしといてやる。どうせお前ら出来損ないは試験にも受からず泣いて帰ることになるだろうがな!」
「流石カイル様!黒には珍しい筆記で受験なさるのですね!」
「文武両道!流石です!」
そんなことを言われながら、三人はその場を立ち去った。
「……あのっ!私も両立ですので、これで!」
白髪美少女さんも、服についた泥を落としながら立ち上がる。
「助けてくださり、ありがとうございました!リーナ様、いつかこの御恩は必ず」
「あっ、ちょっと待っ……!」
止める間もなく、走り去っていく彼女。
(……名前、聞けなかったな)
少し悲しく思っていると、野太い声が聞こえてきた。
「実技選択のやつー、こっちだぞー!」
見ると、なんだか見るからにいかついおじが残った生徒たちを誘導している。
「……実技、ってことは私だよね」
筆記か実技、もしくはそれを半々で使用する両立。この3つがこの学園の入学試験として採用されている。
なんでも黒は力、白は知に優れる……という傾向で、有利不利が生まれないようにするための配慮らしい。
「……よしっ」
自らを鼓舞するようにガッツポーズを取ってから、私もその方向へ進んでいく。
(なにするかは全然わからないけど、とりあえず頑張ってみるか)
受かったら、また彼女にも会えるかもしれないからね。
しかしそんな気合を入れた私が通された、広い空間では。
ドッカーン
ドドーン、ガラガラガラ!!
「うおらあああ!!さっさと倒れろやお前!!!」
「ああん??そりゃお前だろーが、こっちはさっさと受かって帰りたいんじゃあああ!!」
「……え?」
野獣、ではない。殆どが黒髪で埋め尽くされたその空間では、破壊活動と見紛うほどの騒音。
自身の頬をぴゅんぴゅんかすめる木材の破片に怯えながら、私は叫ぶ。
「こ、これ私……
どうなっちゃうのーーーーー!!」




