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21.『傑作』

「『傑作』を。


この手に、作り上げてみせましょう!!」


 ククッ。


 心底面白くてたまらない、という笑い声。


「ククッ……さあ」


ガンッ!!


「――っぅ゙」


 頭が押さえつけられる感覚。


(い、や……だ)


 真っ赤に染まった視界の中で、必死にそう思っても。


 抵抗する間もなく、もう片方の手が私の方に伸びてくる。


「――ククッ。

その絶望の瞳、ああ……ますます女神の器にふさわしい!」


 楽しそうに見下す瞳には、不気味な光が宿っていて。


ガッ!!


「――あ、が……っ゙!」


 無理やり口をこじ開けられる。


ドクンッ!


 その上にかざされたのは――不気味に波打つ、一つの肉塊。


「……ああ、これですか?」


 浅い呼吸とともに、それを見つめる私の目線に気づいて。


「ご覧の通りこれは心臓ですよ……ククッ。

そう、もちろんあの金髪の女のもの――ああ、そういえば」


 何かを思い出したように、口元を歪めて。


「ワタクシが見つけた時、あの男――魔王フォンセはまだ息がありましてねぇ。

傍らで倒れる彼女の亡骸からだに手を出そうとしたワタクシに、叫んだのですよ」


――その人には!


「力を使い果たし、今にも死にそうな顔でねぇ。


それでも魔王は叫んだのですよ」


――セレネには!


「『手を出すな!!』

――とね」


 ククッ。


 不思議ですねぇ、と呟いて。


「彼らは、対極の存在のはずなのに。

まるで、深い絆で結ばれているようだったのですよ……ククッ」


――だから


グッ!!


「――っが、ぁ゙……」


 彼の手に、力が籠もる。


「ワタクシは。

魔王フォンセも――彼女と同じところに送って差し上げたのですよ……ククッ!」


 ブスリ、と。


 血を流して倒れる魔王を思い出し、嬉しそうに口元を緩める。


「本当は、その身体もワタクシの『素材』にしたかったのですが……。

その時の黒の後継者に――魔王ノワに見つかってしまいましてねぇ」


 突然その声が、残念がるような響きを帯びる。


「探し求めた『素材』を抱えていたワタクシには、戦う余裕もありませんでした」


 名残惜しそうに、そう呟いてから。


――ククッ


 再びその笑い声が、私の鼓膜を甲高く貫く。


「魔王ノワが生き残っている以上……ククッ。

ワタクシは女神を復活させ、その刃を以て魔王を葬らなくてはなりません!」


――ですから


 天を見上げていたその目は、突然に下を向いて私を見つめる。


 それは、愛しい『素材』に向ける目と全く同じもの。


「あなたを――!」


 迫る手。


 それは私の口に、半ば入りかけて――


ゴツンッ!!!


「――おや?」


 鈍い音。


 その手が、空中で静止する。


「っ゙……?」


 私を押さえつけていた力が、ふっと緩む。


 くらくらする頭で、その方向をゆっくりと振り向くと。


「……これはこれは」


 そこにあるのは――


「ククッ。

氷王ブランシェ』ではありませんか、久しぶりですねぇ」


 薄く笑って、動かない彼の方へ歩いていって。


ガンッ!!


グリグリッ……


 その頭を、躊躇なく踏みつける。


「ククッ。

あれほど膨大だった魔力も尽きて――まるでそう」


――誰かの命と、引き換えにしたかのよう


「……ククッ、あなたがそんなことをするとも思えませんけどねぇ。


――ああ、そうだ」


 何かを思いついたように、その足を離して。


「ククッ。


死体なのが惜しいですが――これは」


――いい『素材』になりそう、ですねぇ


 先程までとは一転して、丁寧な手つきでその身体を持ち上げる。


「ククッ。

勇者召喚のおかげで魔人の死体そざいも集まりましたし――戦士した魔族から集めた魔力にも余裕がある」


 興奮したようなその荒い息遣いが、耳鳴りの隙間から聞こえてくる。


「……そうですねぇ。

先にこちらから『実験』するというのも――」


 途切れる声。


 歩き出そうとしたその足に、何かが絡まる感覚。


「……これはこれは。

本当に、生きがいいですねぇ」


 見下ろす先には、必死に手を伸ばす血まみれの少女。


「――っ、ま゙、て……」

「そんなに焦らなくても、あなたもすぐに――」


 ピキッ


 何かが凍るような音。


 少女を振りほどこうと踏み出した足が、空中で静止する。


「……おや?」


 足首に絡みつくように、薄い氷が広がっていた。


「――これは」


 ククッ。


 ありえるはずのないそれを見て、ただただ嬉しそうに笑う彼。


「クククッ。

何千年経っても、ワタクシを飽きさせてはくれませんねぇ」


 軽く動いて、その氷を割ろうとして。


「……?」


 先程までそこにいたはずの『素材』の姿が、忽然と消えていることに気づく。


「おやおやおやぁ?

どこに行ったところで、ワタクシの愛からは――」


「――ハクには。

指一本、触れさせない」


ピカッ!!!


 鮮烈な光。


 思わず目を覆った、次の瞬間には――


ドゴッ!!


「――くふっ!!!」


 その身体は、一瞬にして壁に叩きつけられていた。


「……っ」


ミシミシミシッ


 見えない力で押さえつけられているかのように、壁に食い込み続ける彼。


 瓦礫に半分埋もれた視界が、鮮明に映し出すのは。


「――っ、ククッ。

これはこれは……ようやくお出まし、ですか……っ゙!」

「話聞いてなかった?

あのさ、だからうるさいって言ってるわけ」


 揺れる光。


 長い金髪の奥に見えるのは――虹色の瞳。


「正直私には、あんたの言ってることの9割も理解できない。

……ほら、あれだよ。黒は頭脳系が苦手で。だからこれはしょうがないと思う、うん」


 少し焦ったように言い訳を重ねつつも、光は眩いばかりに輝きを増す。


「――それでも。

これだけは、わかる」

 

 静かな口調。


 手の中の光が、徐々に徐々に集まっていき。


 やがて、丸いボール状に集約していく。


「あんたが。

私の大事な人達を、何人も傷つけてきたってこと」


――だから


 光を持った右手を振りかざし、笑って告げる。


「あんたの大好きな、女神サマの力で。


――地獄に、送ってやるよ」


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