20.最良の素材
血やら暴力やら、だいぶグロテスクだと思います。
苦手な方、本当にごめんなさいm(__)m
――クククッ……!
その時ワタクシは、ついに見つけたのです!!
「待って、なんで……!
待ってよ、どうして――」
――女神に最も近い『素材』……金髪の彼女を!!
思いも寄らず、魔王の傍らに!!
「……っハク!!
お願い、目を開けて!!」
ポタッ、ポタッ
動かない白い髪の上を、ただ私の涙だけが流れ落ちていく。
――けれどその後、彼女と再び出会うことはなかった。
……しかし、ククッ!!
「っう、あ……!
ハク、ハク……っ!!」
――大英雄による、魔国の混乱の最中。
突如現れた『壁』の外側、燃え尽きようとする魔王城で!
(――ハク)
そっとその頬に触れる。
ひんやりとした感触。変わらないはずなのに、どうしてか――
「……っう、くっ――」
足りない『なにか』に、無性に涙が溢れてくる。
「クククッ。
私は再び、出会ってしまったのです!」
(……なに?)
何かが聞こえている気がする。
私の周囲を動き回る、どこか狂気的なその音。
「ククッ……。
魔王の亡骸と――その傍らに眠る、まさにその彼女の姿を!!」
(……虫?)
ぶんぶんぶんぶん、絶え間なく。
(……ああ、ごめんねハク)
静かに、眠りたいだろうに。
「ああ――彼女ももちろん、既に息はしておりませんでしたよ。
けれど……ククッ。ワタクシはちょうど、死体を蘇らせる実験をしておりましてねえ」
膝に載せた端正な顔を見て、ぼんやりと思う。
「ですから!!
ククッ……その時も、手順通りに――その『素材』に魔力を流し込んだのです!」
彼なら、きっと不愉快そうにこう言うはずだ。
「けれど……それでは、我らが女神は蘇ってはくださらなかった。
ああ――出来たのは『駄作』、成り損ないだったのです」
「―――い」
「けれど、他の『聖女』を探そうにも――王国への侵入は『壁』のせいで不可能。
……ああ、今思えばこれも女神が与え給うた試練――」
「うるさい」
ぴたり、と。
私のつぶやきを合図に、その声が止まって。
「……クククッ」
頭が引っ張られる感覚。
「――っ!?」
ぐいっ、と近づいてくる顔。
にたり、とその白い歯が鈍く輝く。
「生きがいいですねぇ。
『死体』のくせに……ククッ」
一瞬、その言葉の意味がわからない。
(……死体、って)
当然、その言葉が向けられた相手は――この私で。
――『お腹の子は。
もう、息をしていないと』
蘇る一節。
絶望と後悔に塗りつぶされた、踊り狂う文字達。
「ククッ……けれどそれは、あなたが理解を超えた存在――『女神』に。
最も近いと示す証拠でも、ありますからねぇ」
(――この男は)
知っている。
命を絶った母だったはずの人と――死産だったはずの私のことを。
「なんで。
なんであなたが、それを」
「おやぁ?その絶望の目。
あなたの母親になるはずだった、かの聖女も」
(――え?)
人差し指と薬指。
理解する間もないまま、その二つは私の目の前まで迫り――
ブスッ!!
ボタボタボタッ
視界の半分が消える。
「女神に身体を差し出す寸前――クククッ。
これと同じ目を、していたのでしょうかねぇ」
ころり、と彼の手の中で転がる球体。
「っ、え」
(あれって。
……目玉――)
脳の処理が追いついた、と思った次の瞬間。
「っああああ!!!!
あ、あああああ!!!」
猛烈な痛みが、私の身体をまっすぐに貫く。
「……ああ゙、ァ゙!!
痛い、いたい……っあああ!!!」
床を転げ回る私に構わず、彼は愛おしそうにそれを弄ぶ。
――『もしもこの身体が、貴女様のお役に立てるというのなら』
「あああ゙、あぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙ぁ゙ぁ゙!!!!」
痛い。
痛い痛い痛い痛い、痛い!!
――『器と、なれるというのなら』
「ククッ。
願いは届き、その亡骸は女神のものとなった」
トンッ、トンッ
手の中で、小さく赤味かかったそれは陽気に飛び跳ねる。
楽しそうにそれを見つめながら、彼は不気味に笑い続けて。
「そして……クククッ。
その亡骸の中、生まれるはずのなかった『器』に――別の魂が入ったのです」
そう、それこそが。
「失われた女神の力を、受け継ぐもの」
ボタボタボタッ
「あ゙、あ゙……あ゙あ゙あ゙!!!」
温かい液体が、首筋を伝い落ちる。
「み゙ぇ゙、みえな――っあ゙あ゙!!」
見えない。
右を向いたはずなのに。
世界の半分が、どこにもない。
「『黒髪』でありながら――金髪をも持ちうる。
あなたですよ、リーナ=フォルテ!」
息が出来ない。
痛い。
気持ち悪い。
頭の奥が、ぐらぐら揺れている。
「っ……ぁ」
なのに。
その名前だけは。
自分の名前だけは、嫌になるほど鮮明だった。
「……ああ、でもきっと皆様はこう思われることでしょう。
再び彼女を殺して――その亡骸に魔力を入れただけでは、また」
――『駄作』が生まれる
ご安心ください、と誰かに向かって続ける。
その様子はまるで、舞台上で滑稽に踊る役者のよう。
「ククッ……もちろん研究者たるもの、『失敗』からは学ばなくてはなりません。
数百年、ずっと研究し続けて――ついにワタクシは、成功したのです!!」
笑い声が、悪夢のように何度も鳴り響く。
「あ、あ゙あぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
逃げたい、それなのに。
猛烈な痛みは、意識を手放すことを許さない。
「『壁』が崩壊した王国にて、とある白髪の男を。
生きたまま、魔人とすることに!!」
脳裏に浮かぶのは、まだ私が「忌み子」と呼ばれていた時の記憶。
――『ほ、本当にこれで俺も、精霊と契約できるようになるのか……!?』
必死な男の声と、そして。
――『ククククク……ええ、ええもちろんですとも!!』
その狂気的な笑みに、彼は全てを奪われて。
その最愛の妻の命すら、自らの手で奪おうとした。
「ククッ。
ですから今度こそ、本物を――」
ガシッ!!
その手が再び、私の黒髪を掴む。
「『傑作』を。
この手に、作り上げてみせましょう!!」




