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6.紛い物の光

『そう、そこから炎を横に伸ばす感じで――

そうそうそう!!出来てるよ、僕のノワール!!』


 あまりに幼い頃のことは、良く覚えていないけれど。


 記憶にあるのは――いつも側でうるさくつきまとってくる、その笑顔。


『んー!

流石僕のノワールだ、天才だよ!!』


 顔がとろけそうなほどに笑顔の彼は、そのままノワに手を伸ばそうとして。


焔火コクェンテ


ジリッ


『っぎゃ、熱いじゃないか……!

こらノワ、人に炎を向けちゃダメって言っただろう!』

『人には向けていない。やかましい魔王を調理しようとしただけだ』

『そういう言い訳しない!

僕、怒っちゃうよ!?』


 ぷんぷん、とほっぺたを膨らませる彼。


 それを蔑むように冷たいノワの目線は、ふいに外れて。


コツッ


 近づいてくる足音に向け、その名を呼ぶ。


『……アミル。

来ていたのか』

『よっ、魔王のガキにフォンセ様。

相変わらず仲が良さそうで何よりだぜ』

『でしょう!?僕達お互いに大好きで――』

『はっ、目がついていないのか?見ても通り最悪の仲だが』


 がーん、といった表情で崩れ落ちる魔王――フォンセ。


『ほら魔王様、元気出せよ。

あんたの好きなやつ、買ってきてやったからさ』


 ぽんぽん、と肩を叩いてやるアミル。


 本を持っていない片手で、そっと懐から取り出したのは――


『……ふむ?

単なる石ではないか、お前こんなものが好みなのか』


 怪しむようなノワの声とは対照的に、フォンセは無邪気にそれを受け取る。


『アミル、本当にもらっていいのかい!?

最近は明かりの魔族が少ないとかで、値段が上がっていると聞いたのに』

『ま、今日は久しぶりに市街に降りたからな。

普段世話になってる礼だとでも思えばいいぜ』

『やったぁ……!』

『――おい、だから待て。

その石、なにか特別なものなのか?』

『ふふ、実はね――』


ヒュンッ


 いたずらっぽく笑ったフォンセの手から、小さな石が飛んでいく。


『――っと。

危ないな、気をつけろフォンセ』

『ナイスキャーッチ!』


 微動だにせず片手でそれを受け取ったノワは、それをしげしげと眺める。


『……なんだ?

やはり、何の変哲もない黒い石にしか見えんが』

『ふっふっふ。

聞いて驚きなさい、それは魔国でしか取れない特別な石』


 指を天に突き上げ、誇らしげに告げる。


『昼は陽の光を吸い込み、夜はそれを放出することで光る――魔石!』

『……っ、なんだと。

そんなにすごいもの――』

『の、模倣品!!!』

『……』


 無言で石を引っ掴み、フォンセの方を見つめて呟く。


――『炎煙フーマス


ブオンッ!!


 炎をまとった石は、一直線にフォンセの方へ。


 必死にそれを避けながら、彼は情けなくも叫ぶ。


『うぎゃぁぁぁ!

そ、そんな子に育てた覚えはないよ!!』

『育てられた覚えもないな』

『うわあああん!!』

『――っよっと』


パシッ


 寸前でキャッチしたアミルは、そのまま石をノワの方に向けて。


『許してやれ、お前にゃ見えないだろうが――』


キラッ


 アミルの手の中で、石が不思議な光を放つ。


『こんな風になんの変哲もない黒い石に、明かりの魔法がかけられてんだ。

ま、お守りみたいなもんだな』


 ぽいっ、と投げた石をフォンセがキャッチする。


 大切そうに石を両手で包むその様子を見て、軽く眉を潜めるノワ。


『……だが。

所詮は、偽物なのだろう?』


 心底理解できない、と言った声音で。

 

『お前の力ならば、いくらでも本物は手に入るはずだ。

何も紛い物などにこだわらずとも――』

『それは違うよ、僕のノワール』


 静かな声が響き渡る。


 水面の波紋のようにやわらかで――けれど圧倒的な『風格』を感じさせるその声。


『良く聞きなさい。

紛い物だからこそ――僕はこの石が、本当に好きなんだ』


 心底愛おしげに、その小さな石を見つめる。


『紛い物というのは、その本物への憧れや――祈りがあるから生まれるんだ。

……人々の『希望』が、詰まっているんだよ』


 その手の中から、淡く金の光が漏れ出る。


『だからこそ。

僕はこの石を、偽物を――』


――美しいと、そう思うんだ


「……っ」


 それを聞いたアミルは、そっと背中を向けて。


 ほんの少しだけ――その肩が震えた気がした。


『まあ、だからって本物を悪く言うわけじゃないよ。

もととなっている石も、僕はちゃんと――同じくらい大好きだ』


 明るく笑って、ノワの方に顔を向ける。


『素敵じゃないか。

黒いのに、美しく金に光るんだよ?まるで――』

『……おい、なんだその顔。

嫌な予感がするんだが』


 にたあ、と表現するに相応しい笑み。


 恐る恐ると言った様子で、ノワは彼に尋ねる。


『……その、元となった石とやらは。

なんと言うのだ?」』

『ふふふ……

ズバリ!!』


ドンッ!!


 足元の草を踏み、力強く叫ぶ。


『ノワール!!!』

『……チッ』

『今舌打ちしなかった!?したよね!?

ちょっとアミル、君僕のノワールに何てもの教えたの!?』

『おい、俺じゃねえよ!!』


 そんな子に育てたつもりは――などとギャン泣きする魔王。


(……全く)


 呆れたものだ、と思いつつも。


(ああ)

「――懐かしいな」


 すっ、と刻まれた文字をなぞる。


 黒いその石は、先程まで燃やされていた炎を吸収したのか――草の下で淡く光を放って。


「……ああ、そういえば」


 ふとその文字を見て、ノワは呟く。


 記憶の底から現れるそれに、小さく目を細めながら。


「全く」


 苦笑して、ノワはその表面の文字をゆっくりと読み上げる。


――魔国が偉大なる王、ここに眠る


「……本当に」


 ノワは苦笑した。


「最後まで、お前らしいな」


――その魂、不滅にして輝かん


 刻まれていた名は――


「フォンセ。


――フォンセ=クローリナ」

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