表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/146

36.救いの色

「セレネ」


 暗闇に、その響きだけが不思議と暖かく広がっていく。


 それを合図にしたように、周囲の精霊の声が静まり。


チリンッ


 静かな鈴の音。そして――


『……もう、私は必要ないのね』


 少し寂しそうに、彼女は耳元で囁いた。


『その通りよ、リーナちゃん。

私達はね、精霊』


 ふわり、と優しい風が髪を撫でる。


『……もう、帰る場所はないけれど。

行くところも、見失ってしまった子たち』

「それって――」

(死んでるって、ことじゃ)


 近いはずのその声は、なにかに隔てられたように。


 とてもとても、遠くに感じた。


「セレネ。

殺された白髪のみんなも、もしかして」

『ええ。

あの日、たくさんの子が消えた』


 再び争いの炎が燃える世に、勇者が現れた。


『願いは、叶ったのよ』


 けれどそれは、多くの命を犠牲にして届いた祈りで。 


(……だから)


 勇者が現れた日に、精霊は増えた。


 願いが叶うたび。


 置いていかれる、誰かがいた。 


(金髪だから、()()()()

……そんなのは、嘘だ)


 真実はもっと、残酷で。


 ただ――そこに見える救世主の色に、必死にすがりついていただけ。


「ああ。

本当、皮肉だなぁ」


 目を閉じれば、フォルテの人々の姿が思い浮かぶ。


 黒髪というだけで忌み嫌い、白髮というだけで嗤って。


「――『乞い願う』」


 そう言って、力を借りていた相手は。


 ずっとずっと、踏みつけてきたはずの人たちだったのだから。


「……ねえ、セレネ」


 答えはない。


 かすかな花の香りだけが、私の鼻をそっとくすぐる。


「どうして。

誰も、迎えに来なかったの?」


――救うって、言ったのに


 その声だけが、頭から離れない。


『……リーナちゃん』

「私には、わからない。

あなたが誰なのかも――本当に、女神なんて存在するのかも」


 けれど、大英雄は確かに存在していて。


 その裏で犠牲になった彼らも、今確かに存在している。


(こんなに、苦しんで)

「……誰か。

救ってあげなきゃ、ダメじゃん」


 ぎゅっ、と胸元を掴んで。


 さらりと、金の髪が肩から落ちる。


(……違う)


 祈ってるだけじゃ、ダメだ。


 それだけでは、自分すら救えない。


「私、外に出たいって願ったよ。

……だから、選んだ」


 ノワの妹になることを。


 魔国の、後継者となることを。


「……みんなは。

このまま、全部壊すつもりなんだよね?」


 倒れるノワ達を見て、私の中で何かが湧き上がる。


「誰も救われないまま、全て終わる。

そんなのは、嫌だ」


 月に向かって、手を伸ばす。


「セレネ。

光の精霊術は、女神の力なんでしょ?」


 それなら。


 私になら、出来るはずだ。


「前みたいに、教えてよ。

……今度は、皆を」


――救う方法を


 迷うような間。


 そして――


ピカッ


 私の手の甲に、それは浮かび上がる。


「……薔薇?」

『リーナちゃん。

後であの子に怒られても、私は知らないわよ?』

「うげっ、そういえば光の精霊術使うの禁止されてたんだった……」

『私のことは――

んー、言ったって心配されるだけね!』


 ふぁいと!とか元気の良い声。


(相変わらず、マイペースな妖精さんだなぁ)


 そんなことを考えていると、ふっと身体が軽くなる感覚。


『さ、久しぶりだからミスったらごめんなさいね!』

「いや、ミスらないで!?ミスった上に怒られるとか最悪だよ!?」

『それはあれよ、おつ!ってやつよ。

……それじゃあ――』


 それを合図にしたように、再び私の中に声が流れ込んでくる。


――ゆるさない

――だましたな

――うそつき

 

 それはもう、言葉ですらなかった。


 ただ苦しみだけが、そこに残っている。


――たすけて

――すくって

――導いて


 救いを求めるように。

 縋るように。


 女神の色へと、手を伸ばし続けていた。


(それじゃ、誰も救われないのに)


 けれどそんな思いは、彼らにはもう伝わらなくて。


『……ねえ、リーナちゃん』

「ん!?何!?今良く聞こえなくて!!」

『その歳で?なんて可哀想なの……』

「違う!!違うってば!!

んで、何!!??」

『……あなたは』


 ためらうように、言葉が途切れる。


 私の手に、何かが触れて。


『何があっても、この世界を。

……いいえ』


 それは私を包み込むように、暖かく温度を持っていて。


『あの子の側に。

いて、くれるかしら?』


(……あの子)


 不思議な親しみと、けれどどこか距離を感じるその呼び方。


(ノワ、か)


 どうしてか、そうと分かってしまう。


「……そんなこと」


 ふっと笑って、私は答える。


「決まってるよ。

勿論――」

 

 返事の代わりに、手を重ねる。


 その間に、誰かの手がある気がした。


『……ふふっ』


 ややあって、彼女は微笑む。


『わかったわ。

それが――』


――あなたの、幸せなら


(……ああ)


 その声に、懐かしさを覚える。


 ずっと言われたかった言葉。


(――行ってらっしゃい)


 ずっと求めていた言葉。


(――おかえりなさい)


 それは、もっと前に。


「……ありがとう」


(本当に。

ずっと――導いてくれていたんだ)


 もう、彼女の声は聞こえない。


 ただただ、優しいその香りが私をほんのり包みこんで。


 気がついたら、私の口は動いていた。


「……旧神たる女神の名のもとに導く」


 風が、止まる。


 泣き叫んでいた声たちが、一瞬だけ静まり返って。


「汝らの忍耐に今こそ報いん」


 まるで、その言葉を待っているみたいだった。


 金の光が、静かに揺れて。


「謳え、踊れ、奏でよ。


――『導月ルナ』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ