第二章 彼女も、僕と同じだった
数日後、宮廷の舞踏会。
テオドラは黒のドレスを纏い、冷たい笑みを浮かべながら会場を歩いている。
周囲の貴族たちは彼女を避け、囁きながら「邪悪な令嬢」と呼んでいた。
だが、僕は違う目で彼女を見ている。
──彼女の指が無意識に時計の針を逆回しするジェスチャーをしていることに気づいた。
それは、前世の僕がよくやっていた癖だ。
「まさか……」
僕は彼女に近づき、軽く会釈をする。
「テオドラ様、お美しいお姿ですね」
「……エリック卿。ご機嫌うるわしいようで」
冷たい声。
だが、その目はわずかに揺れていた。
「ところでテオドラ様。この世界の空の色は、少し違うと思いませんか?」
彼女の瞳が、一瞬見開かれる。
「……どういう意味です?」
「青すぎる。前世の空は、もっと……灰色だった」
沈黙。
数秒後、テオドラは唇を震わせながらかすれた声で言った。
「……あなた、もしかして──」
「はい。僕も別の世界からここに来た」
彼女の肩がふるふると震える。
「……ああ、そうか。またか。また、この地獄に戻ってきたのか」
彼女は笑った。
涙を浮かべながら。
「私は……前世では小説家だった。自分の書いたラブストーリーの悪役に転生してしまった」
「僕も平民の男でした。そして、あなたに殺された」
「……ごめんなさい」
その一言に、僕は胸を打たれた。
彼女は、本当に悪人なのだろうか?
いや──彼女はただ運命に囚われた一人の転生者だった。




