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第8話「スクープの影」




それは、ある平日の朝。

教室に入ると同時に、悠翔は何人かのクラスメイトから奇妙な視線を向けられた。


(……なんだ?)


自席に着くと、すぐにスマホが震えた。

茉音からのメッセージだった。


「お兄、Twitterとか見てない? ちょっと大変なことになってるよ…!」


胸騒ぎがして、慌ててSNSを開いた。

そこにあったのは――


「人気アイドル如月天音、謎の高校生と“図書館密会”」

という、ある週刊誌の速報だった。


小さくぼかされた写真。

その中央には――帽子にマスク姿の天音、そして隣を歩く制服姿の自分。


全身の血が凍るような感覚。

あの日、誰にも気づかれなかったはずだった。

人通りの少ない図書館、静かな道、何の変装もしていなかった自分――それでも、誰かが見ていた。


記事の文面には、“彼女は終始笑顔で彼に寄り添い歩いていた”

“男性は都内の高校に通う一般人とみられる”

“関係者の話では、特定のファンと接触している疑いも”――そんな言葉が並んでいた。


「……天音……」


その名前を口にした瞬間、心の中で何かが崩れる音がした。


一方、都内某所の事務所控室。

如月天音はマネージャーに呼び出され、会議室に座っていた。


目の前にあるのは、例のスクープ記事のプリントアウト。

横には、事務所の幹部クラスのマネージャー。


「……これはどういうこと? 本当に何も知らなかったとは言わせないよ」


「……相手は、ファンです。でも、交際してるわけじゃありません。ただ、ただの知人です」


「知人と、図書館で? 一緒に帰って? 写真まで撮られて、黙っていられると思う?」


天音は必死に感情を抑えていた。


事実として、記事は正しい。彼と会っていた。

けれど、それはスキャンダルとは違う。

誰かを裏切るような関係ではなかった。

けれど、それを“理解されない”という現実が、彼女の胸を深く刺した。


「……私の責任です。彼には、絶対に迷惑がかからないようにしてください」


「残念だけど、もう拡散が始まってる。

ファンの反応も荒れてる。“誰だこの男は”“裏切りだ”って」


“裏切り”――その言葉に、天音は思わず唇を噛んだ。


ファンを裏切る気なんてなかった。

自分にとっても、彼は大切な存在だった。

ただ“好きな人”として見ていた。それが罪だというのなら――私はもう、“人間”ではいられないのかもしれない。


その夜、悠翔は天音からのメッセージを見つけた。


天音:「ごめんね。巻き込んじゃった……怖かったよね」

天音:「でも、私は……このまま終わらせたくない」

天音:「明日、会えないかな?」


悠翔の答えは、すぐに決まっていた。


悠翔:「……俺は、逃げないよ」

悠翔:「今度は俺が、君を守る番だ」


スマホを握りしめたまま、悠翔はひとつ息を吸った。

“会員番号1番”としてじゃない。

“天野悠翔”として、彼女の傍に立つ決意を、今、した。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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