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第9話「プロポーズの言葉は、あの日の手紙と同じだった」




春の風が少し冷たさを残しながら吹き抜ける夕方、

駅前の小さな公園のベンチに、ふたりは静かに腰掛けていた。


卒業式のあと、両方の祖父母への挨拶を終え、

悠翔はまっすぐに「会いたい」と彼女に連絡をした。


待ち合わせ場所に現れた如月天音は、

いつものテレビの中の輝きではなく、

ただ静かに、大好きな“彼”に微笑む“彼女”の顔だった。


「ねえ、悠翔くん」


「ん?」


「……卒業、おめでとう」


「ありがとう」


たったそれだけのやりとりに、言葉では言い尽くせない時間の重みがあった。


公園の桜はまだ蕾だったが、ベンチの近くに咲いていた早咲きの梅の花が、淡い香りをふわりと漂わせていた。


悠翔は、胸ポケットに手を差し入れ、小さな箱を取り出す。


「……渡したいものがあるんだ」


天音の瞳が、微かに揺れる。


その指先がそっと開いたその箱には、細く、控えめに光るリング。

アイドルの指に似合うよう、シンプルに、でも誠実に。

ずっと考え抜いて選んだ“指輪”だった。


「初めて君にファンレターを出した日。

あのとき、何を書いたか……覚えてる?」


天音は、ゆっくりうなずいた。


「“あなたの声に惹かれて、僕の人生が少し変わりました”って――」


「うん。……でも、本当はあのとき、最後に書いた一行が、一番本音だった」


悠翔は、まっすぐ天音を見つめた。


「いつか、あなたと手をつないで歩ける日が来たら。

 僕は、絶対にその手を離しません。

 ……ずっと、あなたと一緒に生きていきたいです」


その言葉を、今、本人の目の前で。

自分の声で、想いで、伝えた。


天音の瞳から、涙がこぼれた。


「……ズルいよ、そんなの。全部、あの頃から考えてたんだね……」


「ごめん。でも――これが、俺の“返事”だから」


「……うん。ありがとう。……はい」


天音は指を差し出し、悠翔は震える手で、彼女の左手薬指にリングを通した。


「私も……その手、ずっと離さないからね」


夕焼けに染まる街の片隅で、

ふたりの約束は、言葉よりも確かに結ばれていた。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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