第10話「私の“1番”は、あなたです」
その日、朝の光が差し込む都心の一室。
如月天音は、自宅のソファでスマートフォンを手に取り、ゆっくりと深呼吸をした。
画面に表示されたのは、自身のSNSアカウント。
そこには、彼女が長年大切にしてきた、ファンとの思い出が詰まっていた。
「……ここで、ちゃんと伝えるね」
彼女は“投稿を作成”の画面を開き、震える指先で言葉を打ち込む。
⸻
【ご報告】
私は、かねてよりお付き合いしていた方と、結婚することになりました。
彼は、私が中学1年の春にファンクラブを設立したとき、
“会員番号1番”として登録してくれた、初めてのファンの方でした。
長い時間をかけて、彼は私に手紙をくれました。
ステージの上から見るだけだった彼が、私の隣にいてくれるようになって――
これはアイドルとしても、一人の人間としても、とても大きな決断です。
でも私は、どちらも大切にしていきます。
これからも、“Lumi:Voice6の如月天音”として、活動を続けます。
変わらぬ応援をいただけたら幸せです。
私の“1番”は、彼です。
そして、あなたの“推し”であり続けられるよう、全力で頑張ります。
⸻
「投稿」ボタンを押した瞬間、胸の奥に広がったのは――不思議な解放感だった。
それは“終わり”ではなかった。
新しい“物語の始まり”だった。
•
それから数日後――
天音と悠翔は、ふたりで暮らす小さなマンションに引っ越した。
家具は最低限。けれど、部屋の隅々に“ふたりの選択”が並んでいた。
小さなダイニングテーブル。二人分のマグカップ。
そしてリビングの壁には、悠翔が初めて送ったファンレターの写しが、静かに飾られていた。
「……ここで暮らそうって、決めたんだ」
そう言った悠翔の横で、天音はゆっくりと頷いた。
「うん。仕事で家を空ける日もあるけど……
それでも“ここに帰ってくる”って思える場所があるの、嬉しい」
彼はうなずき、続けて、そっと妹たちのことを話し出す。
「実はさ……茉音と結音にも伝えたんだ。
“ふたりが高校を卒業したら、ここで4人で暮らそう”って」
天音は一瞬驚いたあと、微笑んだ。
「……本当に、家族だね」
「うん。俺たちの“新しい家族”」
今はまだ、妹たちは祖父母の家にいる。
だが、週末には夕飯を囲む時間を設けて、彼女たちを家に呼ぶと決めていた。
「ねえ、お姉ちゃんって……どうすればいいのかな?」
「自然体でいいんじゃない? 天音は、もうとっくに“家族”なんだから」
その言葉に、彼女は少しだけ照れて頬を染めた。
•
その夜、天音のSNSには、想像以上の反響が届いていた。
応援の声もあれば、驚きや戸惑いのコメントもあった。
でも、その中のひとつのメッセージに、彼女は自然と目を奪われた。
「あなたが選んだ“1番”なら、私も信じます。
天音ちゃん、おめでとう。これからも、私たちの“リーダー”でいてください」
ファンの声に、彼女は静かに涙を浮かべた。
•
カーテンの向こう、夜の風が優しく吹いている。
“250万人の中で、たった一人”
その一人に、彼女は恋をした。
そして今――
“推し”と“ファン”は、夫婦として、同じ未来を歩み始める。
君の番号は、私の初恋だった。
恋の会員番号は、たったひとつの「1番」。
――その番号は、永遠に、変わらない。
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