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第8話「Lumi:Voice6、それぞれの選択」



都内のスタジオビル、Lumi:Voice6の控室。

朝の定例ミーティングが終わったあと、如月天音は、あらためて5人のメンバーを前に静かに立った。


春らしい淡いベージュのセットアップ。けれど、その目は迷いのない光を宿していた。


「みんな……聞いてほしいことがあるの」


言いながら、天音は少しだけ胸に手を当てた。


「私……これからも、Lumi:Voice6として活動を続ける。

恋をしていても、結婚しても、それでも私は“この場所”をやめたくない。

ステージに立つ意味も、夢も、誰かに届く喜びも――全部、私の中にあるものだから」


誰もすぐには口を開かなかった。

けれど、その沈黙は否定のものではなかった。


最初に言葉を返したのは、椎名美月だった。


「……なら、私は止めないよ。

だって“恋してる天音”を見たとき、ステージに立ってる天音の目も、強くなったって思ったから。

大丈夫。私たちで支える。引っ張っていく。……だから、怖がらなくていい」


その言葉に、天音の肩がほんの少し揺れた。


次に口を開いたのは、葉山玲奈。


「天音がステージに立つ理由が、前よりも“人間らしく”なったの、私は嫌いじゃない。

それに、やめるより続ける方がよっぽど難しいでしょ?……あえて茨の道を選んだあんたを、私はちょっと見直してるよ」


クールな口調に、優しい温度がにじんでいた。


続いて、藤咲まひるが勢いよくうなずいた。


「私さ、天音が泣いたの初めて見たとき、本当にビックリしたの。

でもそれと同時に、あのとき“天音って、ちゃんと恋するんだ”って、なんか安心した。

だから、うちらが“リーダーの幸せ”守らないとだよねっ!」


まひるらしい言葉に、控室の空気が少しだけ和んだ。


香坂紗良は、ソファに脚を組んだまま、ややあきれ顔で呟いた。


「……ほんと、めんどくさいリーダー。

でも、ぶっちゃけここまで本気で言われたら、もう“応援するしかない”じゃん」


それだけ言って、彼女はすっと立ち上がり、天音の肩に手を置いた。


「……私は、好きだよ。そんな、ぶっちぎりで不器用なとこ」


最後に、高城ひなたが、ゆっくりと口を開く。


「……私も、ずっとずっと不安だったよ。

でも……天音が彼のこと話すとき、すごく柔らかい顔してた。

それを見て、なんか……“ああ、この人、ちゃんと愛されてるな”って思ったの。

だから、これからもそばにいようと思った。メンバーとして、友達として、そして……未来の花嫁さんの側として」


天音は、もう言葉を返せなかった。

ただ、唇をきゅっと噛みしめ、涙が静かに頬を伝っていった。


その頃――悠翔は、卒業式を終えた足で家族の待つ祖父母宅へと向かっていた。


リビングには、父方の祖父母と、母方の祖父母が揃っていた。

あの日、自分と妹たちを引き取ってくれた祖父母と、遠くからもずっと見守ってくれていた祖父母。


ふたりの妹たちも、きちんと隣に並んで座っていた。


「……今日は、話があります」


背筋を伸ばし、穏やかに、しかし揺るぎない声で悠翔は告げた。


「高校を卒業しました。これからの進路として、地元の大学に通いながら、将来は編集の仕事に就きたいと思っています。

それからもうひとつ……」


そこで、一度だけ息を整える。


「如月天音さんと……結婚したいと考えています」


沈黙。

祖父母たちは一瞬だけ言葉を失い、互いに顔を見合わせた。


「……あの天音さん、って……あの、テレビに出てる?」


「……交際していたのかい? ずっと?」


「すぐにというわけじゃありません。ただ、僕は本気です」


言葉に曇りはなかった。


やがて、父方の祖父がぽつりと呟いた。


「……なら、一度、ちゃんと連れてきなさい」


母方の祖母も、優しく微笑んで言った。


「あなたの選んだ人なら、私たちは信じるわよ」


その夜、悠翔は双子の妹たち――茉音と結音に向かって、少し照れながら言った。


「……俺、結婚するから」


ふたりは、一瞬固まってから――

「え、知ってるけど!?」「あらためて言われると緊張するってば!」

と、騒ぎながらも嬉しそうに笑った。


そして、結音がこう言った。


「じゃあさ、お兄……私たち、今日から“お姉ちゃん”できるように頑張るね」


茉音も小さくうなずいた。


「家族が増えるって……ちょっと不思議。でも、ちょっと楽しみ」


悠翔は、黙ってふたりの頭を撫でた。

この家で育った自分たちの未来が、ようやく“次の扉”を開こうとしていた。




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