第6話「高校最後の文化祭と、秘密の来訪者」
高校生活、最後の文化祭。
天野悠翔のクラスでは、“教室劇”が企画された。
簡素な舞台セットと手作りの照明、音響機器も最低限――それでも、生徒たちはこの日を本気で楽しんでいた。
悠翔は主役ではない。
けれど、“言葉少なな謎の旅人”という、どこか彼らしい役を与えられ、誰よりも誠実にセリフを覚え、真摯に舞台に立っていた。
彼は知らなかった。
その劇が始まる直前――校庭の片隅に、**ある3人の“来訪者”**がいたことを。
•
「ねぇ天音、本当にここで合ってるの? 制服の子ばっかで完全に浮いてるよ……」
「紗良、マスク忘れちゃダメだよ。目線も低めに」
「まひる、あなたは笑いすぎ。顔割れるって」
天音・紗良・まひる。
変装とは言えない程度の帽子とマスク姿で、Lumi:Voice6の3人が、ひっそりと校門を抜けて中庭の植え込み近くまで歩いてきていた。
「こんな風に、生徒の文化祭をこっそり覗くなんて……初めてかも」
「たまにはいいでしょ。どうしても、あの人がどんなふうに過ごしてるのか、見たかったんだ」
天音は、少し頬を赤らめながら校舎を見上げる。
彼がいる場所。彼が過ごした日々。
そこに、立ってみたかった。
•
その時だった。
「……え? えっ⁉︎ ちょっと、ゆの! あれ、見て!」
「あれって……ええええええ⁉︎」
制服姿のふたりの中学生――天野茉音と結音。
校舎裏で写真を撮っていた彼女たちは、偶然視界に入った“背の高い女性”に釘付けになった。
「し、信じられない……本物? 本物?」
「ちょっと待って……失礼しますっ!」
勢いよく駆け寄るふたりに、天音たちは一瞬構えた。
けれど、少女たちの言葉を聞いて、彼女たちの表情は変わる。
「……私たち、天野悠翔の双子の妹です」
「妹、ですっ! ……えっと、茉音と、結音です!」
小さく、でも真剣な瞳。
天音の目がふっと見開かれた。
「えっ……悠翔くんの?」
まひるが「えぇぇ〜⁉︎」と素っ頓狂な声を上げ、紗良は眉をひそめながらも静かに微笑んだ。
天音は、そっとマスクを外した。
「……こんにちは。私、天音です。いつも……悠翔くんのそばにいてくれて、ありがとう」
その一言に、茉音と結音の瞳が潤む。
「やっぱり……本物だぁ……」
「やばい、天音さん、優しい……」
まひるが「あー泣くわ、これは泣くやつ」と言いながら両手で口を覆い、紗良は苦笑しながら二人の肩を優しく叩いた。
だが――そんな和やかな空気は、ほんの一瞬だった。
•
「……あれ、今の……如月天音じゃない?」
「えっ、マジ⁉︎ ほんとに⁉︎」
「あの人、週刊誌に載ってた彼女じゃ……!」
数人の生徒のざわめきが、瞬く間に広がっていく。
「やば、スマホ、カメラある?」
「写真撮って!早く!早く!」
気づけば、校庭の一角に人だかりができ始めていた。
最初は数人、やがてそれが十数人になり、歓声と驚きが渦を巻く。
まひるが「やばいやばいやばい! 脱出しよう脱出~!」と焦り、
紗良が「まだバレたくないでしょ? 天音、こっち」と小声でリードする。
その時、茉音と結音が天音に近づき、そっと耳打ちした。
「……あとで、少しだけお話できますか?」
「ちゃんと、伝えたいことがあるんです」
天音は驚きながらも、力強く頷いた。
「……うん。待ってる」
ふたりは人混みをすり抜け、その場から静かに姿を消していった。
•
一方その頃――悠翔はまだ教室で劇のリハーサル中。
舞台袖で台本を手にしながら、仲間の演技に真剣に目を向けていた。
彼はまだ知らない。
彼女が、
彼女の仲間たちが、
そして妹たちまでもが――
この日、同じ空の下にいたことを。
けれど、物語は少しずつ“交差”を始めている。
そして、“あの言葉”が交わされるのは――この文化祭のあと、静かな場所で。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




