第4話「“お兄ちゃんの彼女”って、どんな人?」
「ねぇ、まお」
「なに、ゆの?」
「やっぱさ……気になるよね。お兄の彼女のこと」
天野家のリビング。
日曜の午後、茉音と結音はこたつに入り、タブレットをのぞき込んでいた。
その画面には、あるアイドルグループのライブ映像が映し出されている。
Lumi:(ルミ)Voice6(ヴォイシックス)――そのセンターで踊るのは、如月天音。
「うわぁ……ステージ上の天音さん、めっちゃかっこよくない?」
「うん、やっぱりオーラすごいよ。なんか、全然お兄と並んでる想像がつかないんだけど……」
結音が感嘆の声を漏らしながら、画面に見入る。
天音がカメラに向かってウィンクをした瞬間、茉音がぽそっとつぶやいた。
「なんかさ、あの人って“完璧”すぎて、ちょっと怖いかも……」
「わかる。でも、だからこそ“どうしてお兄なの?”って思っちゃうよね」
ふたりは思わず顔を見合わせて、苦笑した。
自分たちの兄――天野悠翔は、優しくて、責任感があって、大切な家族。
でも、外の世界では決して“目立つタイプ”ではない。
彼がステージに立つアイドルと並んでいる姿が、どうしてもイメージできなかった。
•
それからふたりは、天音のインタビュー動画やバラエティ出演をひとつひとつチェックし始めた。
「見て、この回! “最近感動したこと”って質問に、“ファンレターに涙しました”って答えてるよ」
「え、それって……もしかして、お兄の?」
「じゃない? この時期ちょうど、あの手紙送ってたって言ってたし」
画面の天音は、カメラの前で真面目な表情を浮かべていた。
「誰かの言葉に救われるって、すごくありがたいことなんです。
その人が、私のことを“夢じゃなくて、現実のままで見てくれてる”のが、伝わったから……」
ふたりは黙ったまま映像を見つめていた。
やがて茉音がぽつりと呟いた。
「……なんか、すごく分かる気がしてきた」
「うん。お兄、きっと天音さんの“本当の顔”を知ってるんだよね」
「逆に天音さんも、“お兄のことを見てくれてる”んだよ」
憧れ、嫉妬、不安――
いろんな感情がごちゃ混ぜになっていた気持ちが、少しだけ溶けていくのをふたりは感じていた。
•
その日の夜。
夕飯のあと、ふたりは思い切って悠翔に聞いてみた。
「お兄……天音さんのどこが好きなの?」
唐突な問いに、悠翔はほんの少し目を丸くしたが、すぐに落ち着いた声で答えた。
「ちゃんと、自分の言葉で話してくれるところ。
……俺のことも、“ファン”じゃなくて、“ひとりの人間”として見てくれた。
それが、嬉しかったんだ」
その答えに、茉音と結音はふと、天音のインタビュー映像を思い出す。
「……たぶん、天音さんも同じこと、思ってるよ」
「うん。お兄が選んだ人なら、きっと信じていい」
•
寝る前、ふたりはベッドの中で並びながら小さく話した。
「ねぇ、まお。私たち、いつか“姉”って呼ぶ日が来るのかな」
「ふふっ……そのときは、“お姉さん”って呼ぼうね。ちょっとくすぐったいけど」
「でも、かっこいい“お姉ちゃん”になりそうじゃない?」
「うん。……私、ちょっと楽しみかも」
ふたりの胸には、まだわずかな戸惑いが残っていた。
けれど、その奥には――
少しずつ膨らんでいく“姉への憧れ”と、“家族になる覚悟”が芽生えていた。
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