第2話「Lumi:Voice6会議室、緊急ミーティング」
都内某所、芸能事務所の地下にあるプライベート会議室。
壁一面にLumi:Voice6の歴代ポスターが貼られ、デビュー当初からの歩みが詰まった場所。
その中央で――静かな空気が張りつめていた。
「……で、天音。ほんとに、言ったんだね。“1番は、あなたです”って」
椎名美月が、カップに注いだミルクティーを一口飲みながら、柔らかい声で切り出した。
「あぁ……言ったよ。もう、全部、隠しきれないと思ったから」
天音は、胸元で手を組んだまま、視線を床に落とす。
あの日のイベント後、事務所に呼ばれ、そして今日――メンバーたちとの“直接対話”の場が設けられたのだった。
「記事になったときもそうだったけど……言わなかったよね、私たちには」
と、口を開いたのは葉山玲奈。
長い黒髪をひとつにまとめた姿は、どこか冷たい印象を与えるが、その言葉には責める色よりも“悲しさ”がにじんでいた。
「それは……ごめん。でも、怖かったんだよ。
話したら、みんなにも迷惑かかるって分かってたし……“恋してる”って自覚したときには、もう後戻りできなかった」
その言葉に、誰かが息をのむ。
藤咲まひるが、小さく目を丸くして言った。
「ほんとに、好きなんだ……天野くんのこと」
「うん。最初はただ、手紙をくれる子ってだけだった。
でも、読んでいくうちに……その子の人生の一部に、自分がいることが、すごく嬉しくて――気づいたら、その存在が必要になってた」
まひるはぽそっと、「羨ましいな」と呟き、
ひなたが小さく苦笑した。
「天音が“誰かのために泣く”とか、“誰かに寄りかかる”とか、正直、想像できなかった。
でも、今の天音、なんかすごく“女の子”って感じ」
香坂紗良は、ずっと無言で肘を組んでいたが、やがてぽつりと口を開いた。
「本気で恋してんなら、ちゃんと守れよ。その人も、自分も、私たちも」
天音が驚いたように顔を上げる。
「紗良……」
「マスコミも、アンチも、ファンも、どうせうるさいんだ。
私たちのこと、アイドルじゃなくて商品としてしか見てないやつもいる。
でもさ、それでも“誰かのために本気になる”って、うちらにしかできないことなんじゃないの?」
玲奈が静かに頷いた。
「うん。やめてほしいとは思わないよ。
ただ……ちゃんと、支え合えるならいい。
“恋”を言い訳にして、ステージの上で手を抜くなら、それは許さないけど」
その言葉に、天音は強く頷いた。
「わかってる。私は……Lumi:Voice6の天音である前に、ちゃんと“如月天音”でいたい。
彼といると、それができる気がするの。だから、絶対に、後悔しないって決めた」
少し沈黙が流れたあと――
「じゃあ、仕方ないねぇ、もう! ほんとに“うちのリーダー”ってやつは!」
まひるが大きく背伸びをしながら笑い、
その空気に引っ張られるように、美月が肩をすくめた。
「……まったく。プロデューサーには、私たちでフォローしておく。しばらく、彼とのことは“極秘”って形で通そう。
でも、もうこのグループ、“恋してる天音”込みで最強ってことにしちゃおうか」
「え、それ何、名言じゃん」
「SNSに書いたら炎上だぞ、まひる」
「やめてってば!」
笑い声が、会議室に広がっていく。
その中で、天音はひとつ深く息をついた。
守るべきものは、たくさんある。
でも、そのすべてを守り抜く覚悟が――今なら、ある。
彼がいてくれるから。
このメンバーたちが、信じてくれたから。
•
会議室を出る直前、ひなたがそっと天音の腕を取った。
「ねぇ、天音。……いつか、彼と本当に一緒になったらさ、教えて。
私、きっと、泣いちゃうと思うから」
天音は笑って頷いた。
「……そのときは、隣にいてよ」
•
彼女の恋は、ひとりの想いじゃない。
仲間たちに支えられ、信じられて、育っていくものになっていた。
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