第21話 哀しみの空、どこまでも遠く
来てしまった。月曜日が。月曜日の朝日が昇ってしまった。ヒロはあと五日で全てが終わるという状況にそぐわない安堵を抱いていることに気づいた。何を考えているんだ俺は。そう思って自分を戒めようとするが、心は簡単には理屈にはついてこない。
ヒロは朝焼けに沈む街を歩いていた。そして、走り去ってしまった渚のことを考えていた。一週間会わないという話は、自分が想像していた以上に遥かに重たく渚の胸にのしかかっていたようだった。どうしてそれに気づいてやれなかったのだろうか。自分の愚かしさに泣きたくなる。
こんな精神状態で本当に、最大の山場である五日間をやり切れるのか?この一週間に全てがかかっているんだぞ。終わったらもう取り返しのつかない一週間。これまで培った全てをぶつけて、それで足りるかも分からない。それほどまでにヒロは追い詰められていた。
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朝礼が終わって、ヒロはチームメンバーたちを呼び出した。顔ぶれはいつもどおりだ。古谷、奥山、葛西、北沢、石田。そして奇しくも先週から加わることになってしまった伊藤、川村である。
後の二人以外は、皆表情をどこか固くしていた。今日も表情が上手くできていないだろうか。先日、奥山が酷く自分に怯えていた出来事を思い返した。そして頬を叩いて柔らかくし、目の前の皆に向き合う。
統括の気まぐれによって管理職になってしまっただけの男に、みんなよくついてきてくれているなと思ってしまう。疑心暗鬼かもしれない。俺は自分がこんなポジションにいることに対して疑心暗鬼でいるのかもしれない。考えなければ。いずれにしても、もうそのポジションになってしまったものは変えられないし、今更降ろしてくれなんて馬鹿なことも言えない。最後の最後まで決して諦められない。その信念を曲げないために。
三十九度の熱を出して休んでいた北沢は、体調が良くなったと報告してくれた。世紀の大発見と思われた人魚の写真が、あろうことか鳴上であるということが判明して激しく落ち込んだようだったが、流石に三日間休んで自分を取り戻したようだった。俺はそれを聞いて嬉しい気持ちになった。
彼はその後呑気な顔であくびをしていたが、伊藤と川村が突然こちらに来たのを見て、冷やし中華を注文したはずが大盛り激熱カレーが目の前に出されたみたいな目をしていた。そりゃそうかもしれない。そりゃそうだろうな。
葛西は何かを察したような顔で俯き、決して伊藤と川村のほうを見なかった。彼女は明らかに、耐え難いという瞳で床を睨みつけている。今にも歯ぎしりをして、地団駄でも踏んで叫びそうなほどに思えた。奥山は二人から一番遠い、葛西の左隣りで怯えた顔をしながら縮こまっていた。
伊藤は普段と何も変わらない傲慢な振る舞いで自分の短く美しい髪を撫で、眠たそうにヒロを見つめていた。新しく加入してきたくせに一番偉そうである。お局はオーラが違った。川村はやはり今朝もスマートホンをいじっている。お前は一体いつになったらスマートホンをいじるのをやめるんだとヒロは思った。まさか風呂のときもトイレのときも彼氏と一緒にいるときもスマートホンをいじっているんじゃないだろうな。ながらスマホってレベルじゃねぇぞ。スマートホンは目的じゃなくて手段なんだよ。本末転倒だろ。
伊藤たちと北沢たちの間に挟まっているのは、古谷と石田であった。この二人は永遠にマイペースである。情勢など我関せず。古谷は虚ろな瞳で、朝日に光り輝く窓の向こうを見ている。そしてそのすぐ隣にいる石田はつやつやと光沢のかかった笑顔でヒロをまっすぐに見つめていた。つるつるで素材がいいと判断した石を拾って何年も磨きあげたとしたら、これくらいの光沢になるだろうか。それくらい光り輝く笑顔をしていた。羨ましい。正直に言って本気で羨ましく思った。俺もこれくらい笑えたらどれだけいいだろうなどと一瞬思った。
「………挨拶もそこそこに、すいません。週明け早々なんですけど、皆さんにお話があります」
まとまる気配のない、ヒロを取り囲むメンバー。それぞれの思いを宿した瞳。ヒロは大きく息を吸い込んだ。せめてこの五日間が終わったあとに悔いだけは残さないことを願って。
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総勢七名になったメンバー達に、伊藤と川村がチームに加わったことと、月末最下位だった場合はチーム解体に加えて全員が別々な場所へ異動となることを説明した。みんなの思いを代弁した北沢が急すぎると声を上げたが、葛木の命であることを伝えると全員黙ってしまった。そして空気は集合前よりも重たく、暗く沈み切る。
そんな中で嬉しそうな顔をしていたのは伊藤くらいのものだろうか。嗜虐的な目を歪め、何も言わずにクスクスと楽しげに笑って俺を見ていた。川村は焦燥感に駆られた顔でピッピに電話し始めた。仕事中すら俺じゃなくてピッピ優先なのそろそろどうにかなんないのかな。交際したてでアツアツなのだろうか。中学や高校時代、周囲でよくそんなカップルを見た気がする。どうでもいいけど。
あ、違う。石田も笑ってたわ。俺の話を聞き終えたあとも、てかてかと輝く笑顔から一切の変化を感じ取ることは出来なかった。本当に俺の話を聞いているのかと一瞬思ったが、彼は古谷のようにコミュニケーション自体に難があるタイプではない。彼には彼のペースというものがあるのだろう。ていうかそろそろゼロ件だけは脱出してくれないかな!?頼む!本当に頼むから!欲は言わない。この五日間で一件でもいい。士気が上がる結果を期待しているよ。本当に。
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柔らかなロングヘアを一旦ほどいた葛西は、デスクの上にある琥珀色の髪留めをどこか遠い目で見つめていた。意識がそこにあるのかも不鮮明なほど、遠い、遠い目だった。
今日を含めて五日間。これまでのやり方じゃどう考えても達成できるビジョンは無い。それを誰よりも理解していたのが葛西という存在だった。ヒロは達成するためにどんな手段でも使いたい。思いついたら言って欲しいと伝えてくれた。
ビジョン自体は自分の中にあった。
だけど、それを口にすることは無かった。ヒロに、提案をしなかった。永遠に自分の胸の中に仕舞い込まれたまま。
「葛西さん?」
「………」
「準備、出来ましたよ」
「………、あすかちゃん」
荷物をまとめた奥山が、座って髪留めを見つめる葛西に声を掛ける。奥山は瞳に迷いを宿しているのが分かった。揺れて、自分の居場所を探す瞳。自分がそんな彼女に居場所を指し示し、導かなくてはならないことを理解していたから、そんな奥山を見てさっさと髪留めを手に取って、急いで結び直して立ち上がる。
「じゃ行こうか」
「はい」
「あすかちゃん。表情が硬いよ?笑顔が大事だよ、笑顔がねえ」
「は、はい」
小動物をつつくようにしてそう言うと、はにかんで笑った奥山。そんな彼女を連れて歩きながら、葛西はこれでいいのだと自分に言い聞かせた。大人しくしていればいい。流れに身を任せていればいい。自分に今できることを見つけて、実直にこなせばいい。姿勢で示す。何が出来なくたって、姿勢で示せばそれでいい。大丈夫。不安になることなんかない。
「あの……。チームが解体で異動って、どういうことなのでしょうか。あまりよく分かっていないのですが」
「そのまんまの意味だよお。私たちはもう会えなくなって、通う支社自体が別々の状態から再スタート」
「………」
「販売する商品ややり方は違うだろうけど、やり方は基本的に同じだろうから。大丈夫」
葛西の物言いに、奥山が明らかに違和感を覚えた顔をした。しかしそれを、知らんぷりして歩き続ける。
もともと、いつかこうなるんじゃないかって心のどこかで分かっていた。ここまで張り合いがなくて、ここまで緊張感に欠けたチームはこれまで無かった。張り合える人物は北沢しかいなかったから、彼ともよくチームのことについて話した。
そのうえで、今の処遇に不満はない。不満を抱くことすらない自分自身が問題なのだ。悪いのはチームでもヒロでもない。他でもなく問題を抱えているのは自分自身だ。ただ、このままこのチームに所属していれば自分自身をもっともっと嫌いになるだろうと、そう思うだけなのだ。
所属する場所は自分自身を色濃く映す。考えたことは答えじゃない。そのまんま映った自分が答えなのだ。長い長い廊下を、奥山を連れて歩きながらその先を睨みつける。
『………葛西さん。お伝えするのが遅れてすいません。あなたの力も、大いにお借りしたいんです』
反芻するヒロの言葉。
『てゅるってゅってゅ。てゅ~ふふ。んふ!』
『あの?』
『んふふふう!ふう~~~!』
『ええ!?』
誤魔化した。例の残り五日の件の話のあと、ヒロに個別に呼ばれて言われた、真剣な言葉。それを、葛西は普段どおりに誤魔化してその場を去った。ヒロは自分のおどけた様を見て、通常運転だなとしか思わなかったことだろう。
「嫌になっちゃうねえ」
「………」
会社の出入口を通ると爽やかな青空と日差しが、葛西の笑みと奥山の眉を垂れ下げた顔を照らしつけた。月曜日が始まる。
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案の定、クソみたいに忙しい。通常業務に加えて、大型商談の準備を進めなければならない。
準備自体は進みつつあるが、決定打に欠けている状態だ。多くても高橋にアプローチできるのはあと一回といったところだろう。その一回に何もかも全てが懸かっているのだから、全てを投げ打つほどの覚悟が必要だった。
時間をろくに見れているわけじゃないけど、多分時刻にして十一時くらいであるはずだ。
お手洗いから戻ったヒロはまず戦慄した。四つん這いになった石田が業務フロアを闊歩し、ケツを振っている光景を見れば流石に恐怖の念を覚えざるを得まい。
「石田さん!?正気ですか?こんな走る人が多い場所と時間帯でそんなことしてたら轢き潰されますよ?」
「僕らはもっともっと、謙虚でいるべきなんですよ。目線低く、それでいて志は高く。どこまでも高く飛ぶためには一度低く構える必要がありますし、助走だって必要なんです」
四つん這いのままで何も答えになっていない答えを言いながら、石田はつやつやとした笑みをヒロへ向ける。
「謙虚に実践して欲しいのは四つん這いになってケツを振ることではなく、商談のトーク練習なんですが………」
「お尻を振っていると、何だか悩みがちっぽけになってくる気がするでしょう。今の世の中、そういったことが大事だと思うんです。蟹さん踊りなんかもおススメで」
そこまで聞いて初めて、ヒロは石田が四つん這いになっているのが葛西のデスクであることに気がついた。
「何故わざわざそんなところに?」
「時枝さん。人は夢を見なくちゃ~あ生きてはいけないものなんです。そしてこのデスクには、『夢』の気配がある」
「具体的には?」
「葛西さんの残り香、嗅ぎ放題。これを夢と言わずして、なんというのでしょう?」
「画期的だ」
確かに葛西は目の前を通るたびにフルーツフレーバーみたいな匂いがするので気持ちは分からないでも無いが、俗世的単語で言い表せばTPOを一ミリも弁えられていないのでアウトである。弁えていてもアウトである。
石田がオープンにヒロに語りかけているところはまだマシだったのではないかと思う。もしこれが人目につかないようにこっそりと隠れての嗜みだったら、即座に隔離しなければならなかった。ただ、結局どちらにしてもこの男の行いはアウトである。
「あの、石田さん。一応業務時間中なので慎んでください」
「いいえ、そういうわけにはいきません。この鼻腔が満足するまで嗅ぎきらなければ、『失礼』だと思います」
「なるほど」
「時枝さんの姿勢………私には疑念を抱かざるを得ませんね。私の上司として君臨する男と思うと、少々がっかりせざるを得ない」
「ほう」
「据え膳食わぬは男の恥。時枝さんは、日々恥を晒しているという自覚がおありですか。そんなことで、本当に男に生まれたと言えますか。人生とは長い長い旅なのです。時に破滅を隣り合わせにしても、取らなければならないリスクというものがある。それが足りていない。時枝さんは、それができていない」
性欲に踊らされた哀れな男もここまでくればエンターテイナーとしてはまあ五十点満点中二十点くらいはつくのではないかとヒロは思った。しかしこの男に付き合っている暇はない。
「どんなもんか少しだけ味わったら仕事に戻らせてもらいますよ」
「おおっ!流石は我らを導く若き獅子よ。そうでなくては困りますとも。ええ」
ヒロは石田と一緒になって四つん這いになって葛西のデスクに潜った。俺は渚の匂い一筋なんだよ。渚の匂いだったら破滅を隣り合わせにしてでも嗅ぎたい。渚のあの柑橘みたいな、全身溶けそうになりそうになる匂いのためなら全貯金をはたいてでも求めてやると、本気でそう思える。どうせ引かれるだろうから本人には言えないけれど、この気持ちは本物だ。渚以外の人間の匂いなんてさして興味はない。だけど、それとこれとは話は別だ。ここまで言われて、挑発に乗ってやらない男がどこにいるというのか。傍から見ると大地震の中、デスクがひとつしかないからひとつのデスクに潜る成人男性二名に見えなくもない。
葛西のデスク下に滑り込んだヒロは満を持した顔をして瞑目し、ゆっくりと鼻を動かして匂いを鼻腔に吸い込んだ。
「……………?」
しかしその数秒後に、ヒロは石田の隣で四つん這いのまま、怪訝な顔をして首を傾げた。葛西の残り香どころか何の匂いもしない。強いて言えばただ乾いた鉄の匂いがするだけのデスク下だった。
「これの何がいいと?」
「ここに、葛西さんがいつも足を置いているんですよ。僕たちはいま、そこに四つん這いになっている。それが一体どういうことか……分からないんですか?」
「分かりませんよ………………」
石田の嗜みはあまりにも高度過ぎて、ヒロには理解することが出来なかった。このままここに居たところで、他の誰かに見られてしまう可能性がある。流石にそろそろ出なければならない。何かのきっかけで戻ってきた葛西や奥山に、俺たちのこの姿を見られてみろ。まあ間違いなく社会的に全てを失うだけで済めばまだマシな状況になる。
「───ッ!?」
その時、ヒロの心臓が音高く跳ねた。気配を感じる。視線を感じる。誰かがこちらを見ている。葛西のデスクの奥深くに潜って四つん這いを曝している俺と石田のケツを見下ろして、言葉を発することなく何かを思っている人物が後ろにいる。まずい。このままではいけない。
だけど何をしたらいい?顔を出して面と向かい合い、まずは何を言う?
デスクの下にコンタクトレンズを落としました!
実はこの下に、江戸時代から伝わる埋蔵金があるという情報を得まして……。
とりあえず言い訳を考えてみたが、ここ一階じゃねえし、石田と一緒になって潜る理由もないもんな。どっちにしても何も意味を成さないどころか墓穴を掘るだけな気がしてヒロは心臓を激しく跳ねさせ続けた。終わったかもしれない。俺の人生は終わるのかもしれない。
そう思って振り向き、デスクの下から顔を出した。するとヒロと石田を見下ろしていたのは古谷だった。虚ろな瞳は焦点が合うこともなく、涎を垂らしながら両手をぶらんと垂れ下げて立ち尽くしている。
ヒロは安堵し、胸を撫でおろした。まあ古谷ならどうにかなるかもしれない。ていうかそれはそうとして早くこの場を離脱しなければ。
そう思ったときだった。古谷はこの場で眠気に限界がきたのか、膝をがくりと落とした。そして、石田の尻に音がなるほど音高く顔をうずめた。
「アオオオオウウウウッチ!」
「うおおぉぉぉ!?」
古谷は石田の尻に顔を深くうずめたまま、勢いよくいびきをかき始めた。
「アアッ!葛西さん……!葛西さん万歳!葛西さんッ……!!アオオオオーーーーーーーウウウウッチ!!!」
「うわ!わぁ!うわーーーーー!」
「ぐー………ペンギンが………」
古谷にケツから押し込まれた石田は、突然の出来事に悶え始めた。ヒロは訳が分からない状態に叫び声を上げる。
その時、新たな気配を感じた。ヒロが恐る恐る顔を上げると、そこにはわなわなと震える北沢が怒りに満ちた表情で三人を見下ろしていた。
「き、北沢さん!違うんです!これは」
「………………ずるい、じゃないですか」
「え?」
「ずるいずるいずるいずるいずるい!ずるいぞ!!時枝さんまで……!葛西の匂いを、自分たちだけで独占だなんてーーーーー!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉお!?」
そう叫んだ北沢は勢いよく、葛西のデスクに飛び込んできた。デスク下は四名の男性によっていよいよスペースが無くなり、むさ苦しい誰得空間が形成されていく。北沢はすんすんと匂いを嗅ぎ、カッと目を見開いた。
「なるほどなるほどなるほどぉ………!こういうことだったのか………!!あの真剣なミーティングの後にどうして時枝さんまでこんなことをしているのだろうと疑問に思っていましたが、その疑問は今この時、晴れました!俺の目からは逃れられませんよ!!」
「ええ!?どゆこと!?」
「葛西のデスクでエネルギーチャージ………!これこそがこの運命を左右する五日間を乗り越えるための『最善手』………!!!確かに考えてみれば、手詰まりのこの状況を打開するのにこれ以上の手段なんて存在しない!!どうしてベテランと呼ばれてきた俺が、それに気づけなかったんだ!それに気づいた時枝さんは先見の明を飼い慣らした男………!そしてそれはつまり、俺が辿り着きたかった領域を、意図も簡単に踏み越える男ということ………!!!ありがとう、時枝さん!あなたが鬼でも悪魔でも、俺はついていきます!!この時のために俺は仕事を頑張ってきたっ………!!」
「アオオオオーーーーーーーウウウウッチ!!!アオオオオーーーーーーーウウウウッチ!!!」
「ぐー………ぐー………ペンギンが………あ………」
「だ、誰か………!誰か助け………!」
もはや一人でデスクから抜け出すのが困難なほどパンパンである。そんな時、またもや新たな気配を目の前に感じて、ヒロは顔を上げた。
そこには真剣な眼差しで腕を組み、理知的な瞳で葛西のデスクの下の三人を見つめる鳴上がいた。
「鳴上?いいところに来てくれた。俺たちを助け」
「時枝殿。貴殿は無粋だ……」
「えっ?」
「美女のデスク下に潜り込んで堪能だと?どうして……どうしてッ!!これほど楽しそうなことをしているにも関わらず、拙者を混ぜぬのかッ!!哀しみの空、どこまでも遠く───だが、拙者は舞い戻るでござるよ。例え置き去りにされたのが───」
鳴上は次の瞬間、背中に翼でもはやしたかのように高く高く飛びあがった。そして四人が潜り込んでいるデスクに向かって、
「地獄の果てであったとしても、でござるゥーーーーーーー!」
「やめ、やめろっ!やめろーーーー!だぁぁぁぁぁああーーーーーーーーーーーーっ!!」
爆音とともに、葛西のデスクに飛び込んだのだった。満員電車が可愛く見えるくらいのぎゅうぎゅう詰め。目の前の光景をうっかりと、蜜を求めて木に群がる数匹のカブトムシなんて表現をすれば、全世界のカブトムシファンに刺されそうな光景がそこにはあった。
「アアッ───!これがッ!これが拙者と同期の葛西殿の香り………!………??鉄の匂いしかしない気がするが、構わぬッ!”漢”として、これ以上の褒美は与えられぬ!!FOOOOOOOO!!!!」
「葛西………!葛西いいいぃぃぃぃ!好きだ………っ!好きだぁぁーーーー!」
「アオオオオーーーーーーーウウウウッチ!!!アオオオオーーーーーーーウウウウッチ!!!」
「ペンギンが、ごおくにせんはっぴゃくじゅういちまんきゅうせんごひゃくさんじゅうよんひき。ペンギンが」
葛西のデスクの下に何があるってんだよ。ヒロは呻いて、気を失った。




