第14話 輝かしき未来
ヒロが普段使っているAIの使い方を教わる奥山は、新たなことを覚える楽しさと喜びに目を輝かせていた。
「ありがとうございます!使えそうです」
「うん。これ、古谷さんにも教えてあげて欲しい」
「分かりました」
瑞々しい笑顔を見せた奥山を見送ったあと、ヒロは自身のデスクに戻ってパソコンを広げた。チャット機能を通じて連絡を取ったのは、ある一人の人物だ。
事務の管理職である宇佐はヒロの先輩にあたる人物であるが、基本リモートワークのため出社しない。ミスが特に命取りになる業務を担当しているが故なのか、堅物の中の堅物みたいな印象を受ける男性だった。
ヒロがいいですか?と声をかけると、眠たそうな声で「時枝君か」と応答があった。彼はヒロを相応に評価している人物であり、ヒロとしても悪い人物とは認識していない。
「忙しいところすいません。伊藤をはじめとして明らかにルールを守っていない者がいます。宇佐さんから指導をお願いできませんか」
「………ああー。彼女らね。大体誰なのかは想像がつくよ」
「それなら」
「ごめん。僕ね、少し忙しいんだよ。なので時枝君に、それを任せたいんだよね」
「え?」
ちょっと何を言っているのか理解に苦しんでいると、宇佐はキーボードを打ち込んで何かを作り始めた。明らかにこの会話の流れに乗じて何かを作り始めている。
「橋本君を覚えているかな?彼の席が空席になってしまったせいで、そのシワ寄せを僕が埋め合わせているんだよ。つまりね、手詰まりだ。行き止まりだ。手が回らない。どうにもならない。僕は時枝君の相談に対して、何も出来ない」
「そうなんですか?それは皆に均等に回してもらえればいいんじゃ」
「いやいや。膨大な量だから、一週間とかで引き継げる内容でも無いんだよ」
一週間を費やすことで膨大な負担を痛み分け出来るなら安いのではないかと考えた。自分の向き合うべきものから逃げているようにも見えた。しかし、ヒロはそれを口に出せなかった。
ていうかここまできて足を引っ張ってくる橋本の頭を引っ叩きたい気持ちになった。あいつは一体何なんだ。食堂で眠る彼の呑気な寝顔に、散らかった弁当箱と爆音で鳴り響くスマホ。やはりいい思い出ではない。
「適材適所。やりたいと思う者が、やるべきと思う者は世界にいくらでもいるのに、さしてやる気のない僕が率先してやるなんて馬鹿げているだろう。道を譲るさ。栄光を、輝かしき未来を得る権利を譲るさ。君という、まさにその素質ある人物にね」
「いや……宇佐さん?何を」
その後何も聞こえなくなり、宇佐との通信は切れてしまった。
なんと自分勝手な男なのだろうと思いながら身体を伸ばして席を立ち、人で賑わう食堂に入った。そして朝コンビニでウーロン茶と一緒に購入したキムチチキン味のカップラーメンを食べたが、辛すぎて五回くらいむせ、備えつけのティッシュをかなりの枚数犠牲にした。
……………………………………………………
「ペンギンが………いちまんななせんはっぴゃくろくじゅういっぴき………ペンギンが………いちまんななせんはっぴゃくろくじゅうにひき………ペンギンが」
「古谷!起きろ!午後の商談の予定忘れたのか!?」
北沢は社内を走り回り、ようやく資料室で爆睡する古谷を見つけた。
叩き起こそうとしたが、彼はやはり起きる気配がなかった。仕方なく肩を貸し、全体重を預けてくる古谷の身体を支えて歩く。
「くそ……!置いていけば良かった。間に合わない」
ヒロを始めとし、上司から下されているのは一件でも多く受注せよという命だ。それを今から遅延なく実行するには、もはやこいつを置いていく以外に出来ることはない。
「すまん!古谷」
起床する気配のない古谷の腰を廊下の隅に降ろし、北沢は走った。
急げ。間に合わない。ただでさえ自チームの業績は低い。これ以上自分たちのせいで業績を下げる訳にはいかない───




