第7話 懐かしい人物
今週末はヒロと海。
日記を書き終えて、ベッドにダイブしたパジャマ姿の渚。夜の0時、穏やかで静かな夜は、渚がシーツのうえで身をよじる音を柔らかく受け止める。
楽しみだなー。
寝るまでの時間すら待ち遠しい。何をして自分が眠るのを待とうかな?
ヒロとどんな風に話すかのイメージトレーニング……をすると、緊張して眠れなくなっちゃうから。
考え事でもしようかな……。
そんな風にして考え事を意識した瞬間、いつも脳内がピンクの渚の中に、枷が外れたかの如く大量のピンクが流れ込んだ。
そうだなー。ヒロが今突然ベッドに現れて、驚く私を無理やり………。
ベッドに潜った渚は得意分野を脳内に繰り広げると頬を紅潮させ、浅ましくハァハァと息を荒らげ、えへ、えへへ、にへへへと笑い、身悶え始めた。
その時不意にスマートホンが鳴り、渚はたちまちぴしゃんと普段の表情に戻る。そして水を差されたような感覚に腹を立てた。ヒロかな。少し遅いんだけど?
そう思って通知を見てみるとヒロではなく、それは懐かしい人物からの連絡だった。
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平日のくせにやたらと人が多い街中。渚は人々をかいくぐり、大きな商業施設の入り口前に立つ一人の女性に目線を定めた。
そして高校時代の親友の名前を呼び、大きく手を振った。
「ひよりーっ!」
「渚!久しぶり」
渚を久しぶりに見たひよりも目を輝かせ、もう見つからないと思った靴下の片方を偶然見つけたかのように目を見開いた。
渚は溢れんばかりの無邪気な笑顔でひよりに駆け寄り、抱きついた。渚を抱き返すひよりの瞳は優しかった。
ひよりは高校時代とは印象が大きく異なっていた。
派手な金髪に、綺麗目で大人なファッション。高貴さを主張するようなネックレスにイヤリング、指輪をいくつも付けていた。
派手なのにどこか包容力というか、慈愛に溢れたママのような雰囲気を隠し切れずにいる。
それが高校時代と大きく印象が変わったひよりを、渚がすぐに見つけるに至った理由かもしれない。
「ひより、卒業したらきっと派手になると思ってたから予想通りだなー」
「そうかな?渚は良い意味で全然変わってなくて、安心しちゃった。髪色は可愛いけど」
渚は今日も、ヒロと会う時用の黒い恰好をしていた。黒のフードパーカーに、黒のミニスカート。
ずっと変わらないスタイル。渚の中では、戦闘服みたいな意味合いを持っていた。
「何する?とりあえず指スマでもしよっか?」
「もー。ご飯食べるって約束したでしょ?何で指スマになるのよ」
「ごめん。テンション上がっちゃって」
「そんな調子だと今でも時枝君のこと、困らせてるんでしょ」
「えー?どうだろうねー?」
悪戯っぽく、それでいて嬉しそうに笑う渚を見て肩をすくめるひより。そして二人は近くの洋食屋に入り、久しぶりの雑談に花を咲かせたのだった。
庶民向けの普通の洋食屋のため、テーブルに水を運んできた女性店員はひよりの場違いなほどの華美さを見て窮屈そうな表情をしていた。
「そういえば、渚も参加するよね?」
「え?何?参加?」
「高校の同窓会の話、来てない?」
首を曲げて訊ねるひよりに、渚は目を丸くしてスマートホンを開いた。
「ライヌの未読百七十件くらいあるからなー。来てるかもしれないけど分かんない」
「ちゃんと見てあげなよ……多分、渚にも来てると思うよ。もし来てないとしても、そろそろ来ると思う」
「なんていう人から来るか分かる?」
「連絡してたのは加嶋君だったかな、確か」
「誰?」
「あんたに告白した男子の一人だよ!?忘れたの!?」
「うーん?分かんないかも、本気で」
「時々、渚がすっごく羨ましくなるんだよなあ……」
同窓会の誘いらしき連絡を早速探すが、それらしいものは無かった。同窓会という単語に、渚は良い印象を抱けない。
「ヒロが参加するなら私も参加するし、参加しないなら私も参加しないかなー」
「そう言うと思ってたけど……時枝君、ライヌカレンダーに参加で入れてたよ?」
「えーーーー!?」
参加しないと駄目じゃん……!
ヤバい。もうかなり長くヒロ以外の人と話してない。ひよりとは普通に話せたって、他の人とは……。
今更になって、ヒロの前でコミュ障発揮したくない。どうせヒロの周りには人がいっぱい集まるし。ヒロが女の子達に囲まれるのも嫌。
お話しする練習、いっぱいしなくちゃ。
「とりあえず、同窓会に参加するなんて重要なこと、何でヒロは私に教えてくれなかったんだろ?シバかれたいのかな?」
「まぁまぁ……。時枝君いっつも忙しいから、言いそびれてるんじゃない?それか渚も、当たり前に来ると思ってるとか。それより」
ひよりは瞑目してコーヒーカップをかき混ぜながら、安心したように息を吐き出した。
「渚が時枝君と付き合えたって聞いて、すごくホッとしたんだから。ずっと応援してたからね?本当に」
「ひひ。ありがとー。ひよりの助けが無かったら、私多分ヒロの攻略頑張るどころか、一般常識すら全然身につけられなかったよ」
「攻略って……。時枝君はダンジョンじゃないんだから」
定期的に連絡を取り合う約束をし、アパレルの仕事に向かうひよりと別れた渚。渚はずっと胸の奥をざわつかせていた。
『何で同窓会参加するって言ってくんないの?ぶち〇されたい?』
『ごめん……。寝ぼけてライヌ操作してたから。渚にも伝えようと思ってたんだけど』
届いた通知に表示された間抜けな返信を見つめ、渚は溜息をついた。
何があっても、ヒロに謝られたらすぐに許しちゃうの。それは言ってあげないけど……。
同窓会に向けての準備をしなくちゃ。同窓会は一か月後。渚は自宅マンションへ戻って作戦を練るため、歩き出す。
それまでに、ちゃんとしなくちゃ。




