第20話 ライバル達を蹴落として
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放課後。取り付けてある時計に目を向ければ十七時になるところだった。
火災と校舎倒壊による校内全体のざわつきが、数ヶ月かけて収まった。一週間後に文化祭が控えている。誰もが浮かれながら、出し物の準備や飾り付けをしていた。
私は教室でクラスの女の子達と一緒に机に座って、小物作りを手伝っていた。そして同じ教室の中にいるヒロの事をずっと眺めていた。
先日の生徒会役員選出では、ヒロはもはや立候補すらすっ飛ばしてほぼ満場一致で生徒会長になった。させられた、という表現の方が正しいのかもしれない。
やっぱりヒロはすごいし、かっこいい。
だけど以前よりも、雰囲気が柔らかくなったかも。抜けてる部分を隠さないというか。
私が熱い目線を送っているとも知らず、ヒロはクラスメイト達に囲まれて楽しそうに文化祭の出し物の看板を作っている。
……………。
ああ………。笑ってるところが一番可愛いなー。ヒロ。
この辺りで、明確に気づき始めた。
私は、ヒロの事が好き。
そんな事をしている間に、時計の針は十七時半を刺していた。私は約束通り、屋上へ向かった。夕方の薄暗くて冷たい空気と香りが鼻腔と肌をくすぐった。
私は、待ち合わせをしていたとあるクラスの男の子から手を差しのべられていた。そして男の子は今生最後の大声みたいな緊迫加減で叫んだ。
「草津さん………!好きです!!!」
今週で五人目だよ。
「ごめんね……。私、好きな人がいて」
「あっ!さっ!さっせーんしたー!!」
告白してくれた男の子が逃げるように走り去るのを、私は複雑な心境で見送っていた。
私はヒロが火事の一件で命を落としかけた日をきっかけに、変わる決意をした。腰まで伸びたボサボサの髪の毛をバッサリ切って、手入れをしてさらさらにした。眼鏡をやめてコンタクトレンズにし、肌は美容液を塗ったりして、外見に気を遣うようにした。
その結果みるみる他人からのアプローチが増えた。
男女関係なく、私に告白する人が出てきた。嬉しさを感じる反面、根がコミュ障故に、その慌ただしさに少し精神をすり減らしていた。
ただそれでも、一番肝心な、ヒロの私に対する態度は『ほとんど』以前と変化が無かった。
なんでおめーがアプローチしてこねんだよ〜〜〜!!!
おめーのためにこんなに可愛くしてんだよ!
えー!?こら!!
告白しろ〜〜!!!私に〜!!
屋上で一人、私はヒロに憤慨して項垂れた。
………憤慨するなんて、何年ぶりだろう。
そんな風に俯瞰して自身を見つめる自分もどこかにいることに気づき、不思議な気持ちを抱いた。
毎日のように連絡を送ったり、一緒にゲームをしたりもしている。しかし、一向に関係が進展する気配が無い状況に、八方塞がりであるとも感じていた。
もっとヒロに近づきたい。もっともっと。それがだめなら、一歩でも。
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二十一時の教室は静かだった。
ヒロのお人好しで善意の塊みたいな人柄に、私は大いに影響を受けていた。そんな影響から、私は一人遅い時間になっても学校に残って文化祭で使用する小物作りを続けていた。
少しでもヒロに近づいてやるんだから………。
外は当然真っ暗で何も見えはしない。ただ、作業を一人続けている私だけが映っていた。それが何だか、たった一人でも頑張るヒロの姿と重なっている気がして。それがすごく嬉しくて、心強くて。
思わず舞い上がるかのような思いで、既に大量の小物の山を作り上げていた。鼻歌すら歌いながら作業をしていた。学校が楽しいって思える日が来るなんて。本当に夢みたい。
私はそんな思いで小物作りをしていたが、ふと見返してみて気がついた。他の生徒達が作った小物と比較してみて、疑念が核心に変わる。
あれ?
これ………作り方間違ってない?
え?今までの時間も材料も全部無駄じゃん!!!あああああああ!!
思わず愕然としてガタリと勢いよく立ち上がった。そしてこの場から今すぐに消えたい衝動に駆られた。
だけど何もかも全て手遅れだった。立ち上がったとて、もはや出来る事なんて何もありはしなかった。
再び椅子に、力なくゆっくりと座った。そして開いた口も塞がらないまま私は数分の間呆然と座っていた。
呆然としたまま、私は窓ガラスを見た。窓ガラスに、照明がこうこうと照らす教室が映っていた。そこには先ほど見た時と何も変わらず私がたった一人が居て、作り方を間違えた小物の山に囲まれていた。嬉々として見ていた自分の姿が、途方もなく虚しい姿に見えた。
そして明日、クラスの皆が私が作った小物を見てどんな反応をするのだろうと考えた。私はあまりの恐怖に動悸がして、思わず再びガタリと立ち上がった。そして一人の教室の中でキョロキョロと辺りを見渡した。
だけどやっぱり何のリカバリ方法も思いつくはずもなく、再び力なく椅子に座った。
どうしよう。どうしよう……………!?
もう、今から一人で直すなんて無理。そんな事したら帰れるのは深夜の何時になるの?修正に何時間かかるのか想像すらつかないような量の小物を、手順も方法も誤って作ってしまっていた。
何でこんな事しようって思っちゃったんだろう?
やっぱり、私なんかにヒロの真似事は出来っこ無いんだ。
そんな事を考えていると不意に、信じられないことに教室の戸が開いた。私は激しく驚き、心臓を跳ねらかした。
「………渚?」
「わっ!?ヒ、ヒロ……!?」
私は何故か現れたヒロを、顔を熱くして息を呑んで見つめた。
まさか、二重で激しく驚かされる事になるなんて。
不意打ち良くないよ。心の準備出来てないんだから!!ヒロと話すなら、前準備に三十分鏡で身だしなみチェックと、あと、えっと………。
ヒロはそんな慌てふためく私の心境など知る由もないまま、優しい表情のまま話を続ける。
「渚。この時間残ってると怒られるよ」
「っえ!?そうなの?ずっと居ていいと思ってた」
「二十時には先生も皆帰っちゃうから」
「じゃあ。何で、ヒロは?」
「ちょっと忘れ物しちゃってさ」
ヒロは優しげな表情で、こちらに近づいてくる。
そして私の周囲の机に山盛りになった花形の小物を見て、ヒロはにこにこと笑った。
「嬉しいな。気合入ってるんだ?」
「ま……まあ」
「どうした?なんかいつもより元気ないね」
私はそんなヒロの顔や口調に、強張って不安にまみれた心を優しく解きほぐされるような感覚を覚えて。
たった一人で堪えて続けていたものがぷつりと途切れたかのように、一筋の涙が頬を流れ伝うのを感じた。
「う……」
「渚?どうしたの」
「あのね………。作り方、間違えちゃった。どうしよう。材料いっぱい無駄になっちゃったし、明日、皆に怒られる。私、こういう作業ほとんどした事なかったの。今からでも直した方がいいよね……?」
私は泣きながら、ヒロに作り方を間違えた小物の山を見せた。藁に縋るような思いだった。作り方を間違えた小物の数は、仮にこれから二人協力して修正しようとしたとしても深夜まで掛かるような数だった。
ヒロは手に取った私の小物を、珍しいものを眺めるかのようにしばらく見つめていた。
そして、これまでと何ら変わらない穏やかな笑みを見せた。
「大丈夫大丈夫。これくらいなら」
「そ、そうかな……?この部分とか、他のと全然違うよ?」
「目立たないんじゃない?意外とみんなそこまで見ないし、そういうデザインの装飾にも見える。渚の手作業が一つ一つ、すごく丁寧だからこそだね。気になるなら次から正しく作ったらいいよ。何か言ってる人が居たら、俺から説明しておくから」
「でも……」
「いいんだよ。落ち込んだなら、今日はいっぱい寝なね。落ち込んだ時は寝るのが一番!渚はいつも夜更かしだから」
そう言ったヒロは、私にハンカチを貸してくれた。それはグレーの、大きな逞しいシャチの柄だった。
思い切り間違えたその部分こそ、私がこだわりをもって繊細に作った部分だった。そしてヒロは、それをきちんと見て理解してくれていた。
「で、でも。寝たって……。間違えた事実は、消えないんだよ?」
「だからこそ大事なんだよ」
やっぱり……ヒロ。改めて目をきちんと合わせると、優しい目だなあ。
その目に、私はものすごく、すごく救われて。
もっともっと出てきてしまう涙を、ぐずりながらヒロが貸してくれたハンカチで拭った。
「ありがと……」
「うん」
「ヒロってこういう柄物が好きなの?」
「? 好きかといえばそうでもないかも?適当に買ってるだけだから」
ヒロのおかげで明日も学校に来て良いような、そんな気がする。私はすごく安心出来て、ずっと、涙で濡れたハンカチのシャチを眺めていた。そして、落ち着きを取り戻す事が出来たのだ。
しばらく私たちは無言だったが、やがてヒロが言った。
「俺嬉しいんだ。渚、去年は休んでたよね。だから今年は文化祭に出るんだなって思って」
友達が一人もおらず根暗陰キャだった私は、学校へ行くのがつまらず文化祭を仮病で休んでいた。
当時はまだ話したこともなかったはずのヒロがそれを知ってくれていた事実に、私は胸が暖かく踊る心地を覚えて思わず俯いた。
「わ。分かんない」
「?」
「こ、今年も休むかも。私……外せない用事が家族とあってさ」
わざと残念そうに俯いてそう言った私を、ヒロは目を見開いて見つめた。その眼差しがどこか小気味よくて、そして悔しかった。私はどこまでも、ひたすらネガティブで卑屈だった。
どうせ私は一人。あの火事の日を機に変わって以降、話せる子こそ増えた。だけど、文化祭を一緒に回れるような友達なんて居ない。
そしてヒロは大勢の友達に囲まれて過ごすんだもの。もう、分かってるから。
他の女の子と仲良く話してるヒロを見るくらいなら、今年も休んでしまおうって。私はそんな事を考えていた。
あの火災の時、あれだけ後悔したのに。そう簡単に人は変われない。変わっても、私なんかがヒロと一緒に居るなんてって、どうしても思ってしまうから。
「そっか………。残念だな」
「うん……」
「俺、今年の文化祭は渚と一緒に回りたいと思ってたんだけどな。まあ、来年もある行事だから」
寂しそうに言ったヒロの言葉。それを聞いた私は瞬時に、意味を理解するより先にガタリと立ち上がり遮った。
「えっ!?!?ま!回る!ヒロと一緒に回る!!」
「えぇ!?よ、用事は大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!そんなのどうとでもなるから!!回ろ?ね?」
や、やったぁ!文化祭、ヒロと一緒に回れる……!
嬉しい。
私は心を踊らせながら、文化祭当日を待った。
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一週間後、文化祭同日。
十六時。
ねぇ。
なんでこうなるのよ。
私はその場でゴジラのように叫び暴れ散らかしたい衝動を必死に抑えながら、体育館に引き返していた。色々な出し物で盛況を見せる廊下を一人ズカズカと歩いていた。
文化祭自体は大成功を収めていた。私が間違えて作った装飾も、クラスの皆の評判は想定を遥かに上回る程良かった。皆が喜んでくれたのを見て、嬉しいよりもほっと胸を撫でおろすような気持ちが勝っていた。次からはちゃんと確認しないと。
だけど問題は、ヒロと文化祭を回るという計画が潰れてしまった事だった。いよいよヒロと合流というタイミングになった途端に、ヒロはチャラチャラしたバスケ部OBの先輩達に強引に連れて行かれてしまった。
そしてその後、ヒロが解放されたと思ったらその直後に、クラスのカースト上位の男女グループにその場で捕まって強引に連れていかれた。
それが終わったら今度は、ヒロは後輩のキャピキャピした女の子達に捕まって強引に連れて行かれてしまった。
ハーレム状態のヒロを遠巻きに眺めて、私はにっこりとしてピキっていた。
ムカつくーーーーーーー!!!!!
私が神じゃなくて良かったね?私が神ならたった今地球を粉々にしていたよ。
ヒロから「本当にスマン」という趣旨のライヌが七通くらい届いているのを、私は全て既読だけ付けて無視した。そして目に涙を滲ませて、廊下を足音高くして一人歩いていた。
私と文化祭回りたいって言ってくれたの、嘘だったんでしょ?
知ってるよ。ヒロは優しいもんね?
ズカズカとあるきながら下唇を噛み、嗚咽を上げて泣き叫びそうになったその時だった。
聞き覚えのある声が聞こえて、私は柱の陰にササッと隠れた。聞こえてきた話に聞き耳を立てる。
あれは……。一週間前に告白してきた男の子?
「そういえば、草津さんに断られちゃったよ」
「ははは。今あいつめっちゃモテるんだからお前じゃ無理だろ」
「ちぇ」
「倍率考えろって倍率」
「受験かよ」
「しかし、突然可愛くなったよなー草津。学年で一番可愛くなったって言う奴も居るくらいだぞ」
「本当になー。身の程弁えるかぁ」
男の子達はひそひそと、それでいてどこか楽しそうな声で喋りながら歩き去っていった。
倍率。
私は瞬時にヒロの事を思い浮かべた。
どうしよう。このままじゃ……。他の人にヒロを取られちゃうじゃん。
それは絶対許されない。
毎日連絡するだけじゃ足りない。だけど、どうしたらいいんだろう……。
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どうしたらいいかなんて当然分かる訳もないまま、あっという間に十七時になってエンディングセレモニーが流れ出し、文化祭は終わりを迎えた。
後夜祭による、それまでとは違った熱気を体育館が放ち始める。それと同時にちらほらと少しずつ生徒が帰り始めた。
体育館の椅子でずっと一人座っていた私はそのまま、他の生徒達の流れに乗って帰ろうとしていた。
渚ーーーー!!
振り返ると、ヒロが必死の顔で走ってきていた。すぐ側へ走り寄ってきたヒロは、膝に手をついて肩で息をした。
「ごめん……!一緒に回れなくて」
「………いいよ。私なんかじゃなくて部活の子達とかクラスの子達と遊べて、楽しかったよね?それじゃあね」
「待って!!」
ヒロに背を向けて帰ろうとしたが、彼は私の手首をがしっと掴んだ。
「代わりに、一緒に行きたいところがあるんだ」
私はヒロと一緒に電車に乗って、繁華街の超巨大なアニメショップに入った。アニメ、漫画、ゲーム、そして関連グッズが山のように沢山置いてある。
オタクの道に目覚めたての私はその光景を見て、ウキウキと心を踊らせた。
「すごいとこだろ?」
「うん……!すごい!」
「渚が好きって言ってたアニメのグッズが大量にある場所もあるよ」
「ほんと!?」
「うん。ずっと、渚をここに連れてきてあげたかったんだ」
つい先日、ヒロと好きな作品についてライヌでやり取りをしていたのを思い出した。
ヒロはきちんとその事を覚えてくれていた。そして、その作品のグッズコーナーをわざわざ事前に探していたのだった。
私は心から嬉しい気持ちになったと同時に、自分に対する怒りが湧いていた。
ヒロは限られた時間の中で私の事をちゃんと考えてくれていたのに。
私が考えてたのは、私の事ばっかりじゃん。
「機嫌直った?」
「んー。どうかなー」
「えぇっ」
ヒロの優しい口調に、私は思わず天を仰ぎ表情を隠した。自分に対して湧き起こる怒りに目に涙が浮かんでいたのだ。
そして思わずいつもと違って、否定的な返答をしていた。
しかしヒロは予想外というように少し焦った表情で目を見開き、私の顔を見つめた。そんなヒロの様子を見て、ドクン、と私の心臓が波打った。
………もしかして。
ヒロは、少し困らされちゃう方が私が濃く映るのかな?
ライバル達を蹴落として、私が一番大きく映る方法は……。
私はわざと、いたずらっ子っぽい目つきで何も言わずにヒロを見つめ返した。すると、ヒロは息を呑んでたじろいで見せた。
ヒロが、私をすっごく見てる……!
何を言われるんだろう?って顔で私の顔をじっと見つめてる……。
可愛い。ふふ。
そのまま数秒、言葉も交わさずに見つめ合う。
目と目を合わせてる時間はとてつもなく長く感じて。
私は、すごくドキドキしていた。
「………また明日もここに連れてきてくれたら、機嫌直るかも?」
私がこの世で一番、ヒロの隣に相応しい女になってやる。
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渚が、変わっていく。
それを感じ始めたのは、文化祭が終わったあたりからだった。
何故かは分からないけどずっと俺に話しかけてくれるのは今まで通りだが、変わっていったのはその様子だ。
あざとくて、思わせぶりで、不思議で。まるで純粋な末っ子のように。ずっと大人しくて控えめだったはずの渚は、感情豊かに俺を振り回すようになった。
戸惑いも多かったけれど、発言のひとつひとつが俺のことを考えてくれてるのを感じたんだ。
長男タイプの自覚がある俺にとってそんな渚と過ごす日々は、すごく充実していて楽しく感じた。
渚が眼鏡をかけていたあの頃から今でも、変わらないものがあった。それは芯の強さだった。
渚は決して同調圧力で靡いて意見を変えたりする事は無かった。イヤなものはイヤだと断り、自分の意見を言うことを恐れない。渚のすごいところだった。
「トキ!今日の放課後って空いてるか?」
「あーっ!!ごめんね?ヒロは今日私と一緒に遊ぶからっサ」
「え……ああ。ごめん」
俺を誘おうとしたクラスメイトの男子を、渚がすかさずズバッと牽制した。戸惑いに満ちた顔で男子が去っていくのを見届けた渚は、俺の元にぱたぱたと無邪気な笑顔で走り寄ってくる。
「ヒローっ!今日はこの間言ってたゲーセンで遊ぼうよ。景品に甘目まどかのぬいぐるみあるんだって!」
元々素敵なところが沢山だった渚に、素敵なところがもっともっと、増えていく。
俺はそんな状況に、落ち着いていることが出来なかった。黙って見ている事なんて出来なかった。
「………ヒロ?なんか疲れてるね?どうしたの?」
「あ……うん。大丈夫だよ」
俺はこんなに、のほほんとしている場合なのか?
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『人のために生き、人の記憶に残る人生こそ、本当に意味のあることだ』
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再び俺の心に重くのしかかったのは父の言葉。
渚に話しかける前までの、苦痛に満ちた日々の記憶と感情が、徐々に蘇ってきて胸の内を真っ黒く塗りつぶしていくのを感じた。
どうして忘れていたんだ?
俺にはもう、それ以外取り柄なんて無かったっていうのに。
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