48話 異形の巨人
気味の悪い巨人は動き出した。
煙の中から姿を現したその姿は、
石の骨格に、肉を無理やり付けたような異質な存在。
顔は人の顔をしている。
ミズナが巨人の顔を見て、
足を止めた。
「あれ……あの顔、ガスリィなの?」
「え……嘘!」
エミリも巨人の顔を見て、
確信したらしい。
「まさか、取り込んだ……の?」
ミズナが驚愕した。
「マルク……カレンの気配が、あいつからするの」
僕は何のことだか分からず、聞いた。
「……どういうこと?」
ミズナが息を飲みながら言った。
「カレンちゃんの進化の力……イルタ王子も言っていたわ」
化け物に睨みつけながら続けた。
「そして、あの化け物の中に取り込まれてしまった……」
僕もカレンの進化とやらには、身に覚えがある。
髪の毛が、本物になるとか——
皮膚が付いたとか——
僕の吹き矢の真似をして、口から光線出すとか——
……あれ?
可愛いところしかないぞ?
でも、もし仮に戦闘に秀でた進化とかしたら……。
『地面の中からとんでもない化け物が現れたぞ! なんなんだあれは!?』
ハナシダの実況が再開した。
『石の体に、人間の皮を被った化け物だ!』
他の冒険者も武器を構えた。
魔法を使える者が、
化け物に火の魔法を放った。
バンッ!
火の魔法は全く効いていない。
それどころか、
化け物が魔法を放ってきた。
ドンッ!
魔法を撃った冒険者へ、
まるで力を試しているかのように、
同じ魔法で撃ち返してきた。
化け物の魔法の方が大きすぎるため、
地面がえぐれた。
『魔法も使うのか! どうする! どうする冒険者たちよ!』
「俺がいく!」
『おお! 勇敢な冒険者が走り出した! あれは……あれは、ディンだ! ディンが凄い勢いで化け物に迫る!』
『その後にも他の冒険者が続く!』
『ディンが斬りつけたああ!』
「うおおおりゃあああ!」
ディンの大剣が化け物の足に傷をつけた。
「いけるか!?」
しかし、傷は瞬く間に消えていく。
「こいつもかよ!」
化け物は、足元に入った目障りなものを踏み潰そうと足を持ち上げた。
「ならこっちだ!」
ディンは相手の動きをよく見て、
持ち上げた足が届かない、
反対側の足の方へと素早く移動する。
「今度はこっちだ!」
ガン ガン!
傷は付けられる。
だが、回復が速すぎる。
『ディンが足元で切りかかっているが効いていない! 回復が早すぎるんだ!』
「俺たちも行くぞ!」
おおおおお!
『ここで冒険者たちも動き出したぞ!』
『足元に集中して切りかかっていく! 魔法使いも至る所に魔法攻撃を当てている! これは効いたか!?』
化け物はその場でしゃがみ込んで——
『これは!? みんなは離れろ! 何かする気だぞおおお!』
ハナシダが大声でみんなに警告を発した直後、
化け物はジャンプした。
「逃げろおおお!」
「潰されるぞ! 離れろおおお!」
冒険者たちは、
蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
ズ……ドオオオオン!
巨体が着地し、地響きが襲ってくる。
「どわああああ!」
「うひゃあああ!」
近くにいた者たちが地面から浮き上がった。
『凄まじい地響きと共に、地面に亀裂が走ったぞおおお! こいつは危険だああ!』
「あんな化け物、どうやって倒すのよ!」
ライラが叫んだ。
「あんな奴にカレンちゃんが……」
ミズナがブツブツ言って怪しい気配を漂わせ始めている。
「マルク、私ちょっと行ってくるね」
「気を付けてよ」
「わかってるよ!」
エミリは素早い動きで化け物の懐に入り込んだ。
『なんだ!? 今何かが化け物の懐に入り込んだような……』
『あ! 女の子! 女の子が化け物の懐に入り込んだぞ! 君! 早く逃げるんだ!』
『君の敵う相手じゃ……』
言いかけたハナシダの言葉が止まった。
「いけえええ! 極桜連斬!」
エミリが技名を叫ぶと同時に、
無数の斬撃の花びらが舞い散った。
『な! なんだこの技は! 初めて見たぞ!』
『しかも化け物の体に無数の傷が刻まれて行くぞ!』
「おおおお! すげええええ!」
「なんだあの嬢ちゃんは!?」
「うわああああああああ!」
エミリはありったけの力で斬撃を放っていく。
額から汗を流し、
呼吸も荒くなっていく。
「……っ!」
エミリは技を解き、その場から離れた。
『ど、どうしたのでしょうか? 女の子は離れて……おっと膝を着いた!』
『どうやら体力的にきついらしいぞ!』
『しかし、化け物もかなりのダメージを受けている! その証拠に動きがない!』
「なら今がチャンスだ!」
「いくぞおおおお!」
再び大勢で化け物に切りかかっていく。
ガン カキン!
ザシュ ギン!
「効いているのかいないのか! はっきりしやがれ!」
ガンッ!
化け物の体の傷が徐々に治っていく。
「くそ! なんなんだよ! こいつは!」
化け物が動き出す。
しゃがんだ状態で周りを見渡し、エミリを見た。
「!?」
エミリは確かに自分に向けられた敵意を感じ取った。
化け物が口を開き、
光を集めだした。
キュウイイイィィィン……
辺りが静まり返った——
化け物がエミリに向かって、
光を撃ち放った。
エミリはふらつきながら、
(さすがに王様と戦った後だからきついわね……)
光を睨みながら、エミリは立ち上がる——
『なんだなんだ!? 化け物の口から光線が放た……』
キュイン——
ハナシダが言い終わる前に——
ボオオオオオン!
光線が通った地面が爆ぜていった。
『な……なんてことだ! 地面が! 割れている!』
僕は今の攻撃を見たことがある。
——カレンが使う技だ。
見間違えるはずがない。
カレンが吹き矢の真似をした時に見たんだ——
「……くそっ」
思わず口にした一言。
カレンを取り込まれた怒りか、
自分の情けなさに言った言葉か、
「ああああああ!」
近くにいたミズナから溢れる気配。
彼女が変貌を遂げ、
黒いオーラを纏って走り出していく。
『なにか黒い何かを纏った人物が化け物に向かっていくぞ! 速い!』
ミズナは既に化け物の懐に入り込んで突きの連打を浴びせた。
「ああああああああ!!」
レイピアにオーラを纏わせ、叩きつけるように殴り飛ばす。
「な! あれはミズナか!?」
「凄い……でも、寒気がするわね」
ディンとライラも、ミズナの変貌ぶりを初めて見た。
『凄いぞ! 一方的に押している! こんな奴がまだいたのか!』
『突きに、打撃に! 切り替えが速い! 今度こそいけるのか!?』
化け物はひたすら防御している。
ミズナがとどめの一撃を放ったが、
化け物がそれを片手で受け止め、
もう片方の手でミズナを殴り飛ばした。
『なんてことだ! もう一歩という所で反撃を食らってしまった!』
エミリも、
ミズナも、
やられてしまった——
僕は頭を振って化け物を見据え、
剣を握りしめた。
剣のダイヤルを強に合わせて、
そして走り出した。
『果たしてこの化け物を倒すことが出来るのか! 倒せる奴はいるのか!』
『それともこのまま全員やられてしまうのか!?』
「ふざけんじゃねえええ!」
「まだ戦えるぜ!」
「くたばりやがれえええ!」
血の気の多い冒険者がハナシダの言葉を聞いて奮起した。
化け物も反撃を始めた。
今まで受けた魔法を撃ち始めたのだ。
火炎魔法——
氷結魔法——
土魔法——
その威力は数段上の威力だった。
冒険者たちは魔法に巻き込まれ、枯葉のように舞い上がった。
「ぐはっ!」
「なんて威力だ……」
「みんな無事か!?」
『なんてことだ! 人が紙屑のように飛ばされていくぞ!』
『ここまでなのか!?』
「まだだ! まだ僕がいるぞ!」
マルクが叫びながら走ってきた。
『あれは、マルクだ! マルクが走って来たぞ!』
「みんな離れて!」
『まさか! あの技をやるつもりか! みんな離れるんだ! 巻き込まれるなよ!』
ハナシダは何が起きるかわかっているみたいだ。
倒れている人たちは、
近くに居
た人たちが引きずって離れていく。
僕は化け物に向かって剣を向け、
狙いを定める。
大きく息を吸い込む。
集中する——
周りの音が消えた。
そして——
力の限り、
吹き放った!
ドゴオオオオオン!!
衝撃波を伴いながら、
膨れ上がった光の塊が、
巨大な化け物を包み込んでいく——。




