42話 揺れる王都
今日の試合のことを、食事をしながらエミリ達に話した。
「本当! それ闘気だよ!」
エミリは興奮してディンを見た。
「なんだ? それは」
ディンさんとライラさんも、同じテーブルに座っていた。
「普通はそういう反応ですよ」
ミッチーが澄まし顔で頷いている。
「ミッチーも使えたじゃん」
「覚えていないものを使えたというのでしょうか……」
「それよりよ、エミリは使いこなしてるんだろ?」
「そ、それなりには」
ディンさんのウキウキ顔に、たじろぐエミリ。
「なんか見せてくれよ! 頼む!」
「わ、わかりました」
そう言ってアイテム袋から石を二個取り出して、
一個はディンさんに渡した。
エミリは石を指ではさんで、
「見てて、これをつぶすから」
「指で割るんじゃ……」
言い終わる前に、
グシャリ……
「!?」
ディンさんは目を見開いて、
「ど、どうなってるのよ……」
ライラさんは何が起きたか、
わからないようだ。
エミリは言葉通りに、
拳くらいの石を指二本でつぶしただけだ。
「私も初めて見たときはそうでしたよ」
ミッチーも同じ経験をしていた。
ディンさんは、手渡された石を握りながら、
「力だけなら、簡単なんだがな」
「今見た限りだと、力が入ってなかったな……」
石をテーブルに置いて呟いた。
僕がディンさんに感じたときの事を話した。
「あの時か……マルクの矢をかわしながら突っ込む事だけ考えてたからな」
「思い出しながらやってみるか」
「私もできるかな?」
ライラさんも興味津々だ。
「斬撃を飛ばすのと同じ感じ?」
僕はエミリにたずねた。
「そうそう、そんな感じ」
頷くエミリに、
「そんな感じって……どんな感じだよ」
ディンさんはムスッとした。
「聞いたことある、Sランクでも使える人いるって」
ライラさんの言葉に、
僕とエミリは嫌な顔をして、
「いたねー……」
と、声をそろえた。
「いたか? 誰だ、そのSランクって」
ディンさん、食いつくねー。
「ココイルって人」
「あいつか」
「ココイルって、あの高飛車の?」
「はい」
ディンさん、ライラさん、僕でココイルの話になったら、
「あれの話はやめて~……」
と頭を抱えるエミリだった。
「どうしたの?」
ライラさんが僕に聞いてきた。
「エミリはココイルに、つきまとわれていたんです」
「なるほどね」
「でも、斬撃飛ばしてきたのは本当ですよ」
「……見たのか?」
「決闘する羽目になりましたから」
「結果は?」
「なんとか勝ちました」
「だからSランクキラーとか言われたのか」
ディンさんは僕を品定めするかのように見た。
「……それよりも、闘気とかいうものが飛ぶのか」
「今度エミリに教えてもらえばいいと思いますよ」
エミリは笑顔で言った。
「師匠に教えてもらえばいいよ!」
「「師匠?」」
そこでミッチーが一冊の本を取り出した。
“ 剣神伝説 ”
“ 三才からのたのしいえほん ”
「ミッチー、なにこれ?」
「俺にはただの絵本にしか見えないんだが……」
ディンさんやライラさんが言うのも最もだ。
「これは、エミリさんが師匠と言っている書物です」
「……絵本よね」
「……絵本だな」
「しかし、彼女はこれらの技をあらかた習得しています」
二人はミッチーの話を聞いてから、
エミリを見つめた。
「……まじかよ」
ライラも最後のページを開いていた。
“この物語に登場する人物や技は、一部を除き創作されたものです。”
こんなやり取りが行われて、
夜も静かに更けていった。
次の日
ディンさんとライラさんは、
試合なので、すでにコロシアムにいる。
エミリとミッチーも、すでに街へ散策に出ていった。
「またカレンがどこかに行っちゃったな」
仕方ないので僕も街へ出ることにした。
街を歩いていると、
急に地面が揺れ出した——
グラグラグラ……
足元から何かが這い上がって来るような、
そんな嫌な感じだ。
道行く人も、慌てふためいている。
馬車も馬が暴れ、
子供も泣き叫んでいた。
何か嫌な予感がする——
その時、僕の肩に乗ってくるいつもの感触。
「あ、カレン」
カレンも僕の顔を見て頷いた。
そしてカレンは城を見つめていた。
だけど、僕はそれには気がつかなかった。
「みんな……大丈夫かな」
僕はカレンを連れて、王都を調べることにした。
『今、凄い揺れがあったがみんなは大丈夫か?』
『第五試合が終わっていたからよかったぞ』
コロシアムの試合会場にアナウンスが飛んだ。
観客はその場で腰を抜かしている人や震えている人が大勢いた。
そんな中——
「ライラ、どう思う?」
ディンがライラに聞いてみた。
「まさか……エミリちゃんが言っていたのが動き出したとか?」
ライラも顔をしかめて言った。
『運営からのお知らせだ!試合は決行されるそうだぞ!』
会場は未だ落ち着いてはいないが、
動くものはいなかった。
『原因は魔法省の実験だそうだ! 心配ないらしいぞ!』
『さぁ! 気分を変えて試合を楽しもうじゃないか!』
会場は徐々に落ち着きを取り戻し、
歓声が上がり始めた。
「……情報操作?」
「……かもしれねぇな」
「それが本当なら……」
「国が関わってるだろうな」
ライラと、ディンはこれから起きるであろうことに、
いざという時の為に動けるように心がけた。
「試合どころじゃなくなっちまったかな……」
『第六試合! ライラ選手とフエル選手の試合だ! みんな大いに楽しもうじゃないか!』
会場から、観客の歓声が響き渡って来た。
司会から選手の案内がされた。
「行ってくるわ」
「おう、周辺を調査してみる」
ライラは会場に向かい、
ディンはコロシアム内を調べ始めた。
「城が関わっているなら、ここもあぶねーかもな……」
そんな予感めいたものがディンにはあった。
『ライラ選手とフエル選手の登場だ!』
両方とも女性というだけで、
会場はさらにヒートアップした。
『今回の大会の花が二人出揃った試合だ! 私も楽しみにしていたカードだ!』
「ばかやろー! そこかわれー!」
「特等席じゃないか!!」
実況のハナシダに向かってヤジが飛ぶ。
『ははは! こればかりは役得だ!』
ライラはハナシダに向かって首を落とすジェスチャーをした。
フエルも、
「あいつから先に落としていいですか?」
と言いながら杖を司会に向けていた。
『じょ! 冗談だよ! 殺気をこっちに向けないでくれ!』
会場から大笑いが起きた。
『気を取り直していくぞ! 第六試合! はじめ!』
ライラの試合が始まった。
フエルは間合いを図り、
距離を取り詠唱を始めた。
ライラもその動きを見てから、
やらせないとフエルとの距離を素早く詰めた。
「遅いわよ!」
フエルの方が少し早く魔法を発動させた。
ライラに襲いくる炎——だが、
軽くいなしてフエルに剣を突き付ける!
フエルも杖に仕込んだ剣を抜いて、
ライラの突きを防いだ。
『いきなり凄い攻防が始まったあああ!』
会場が盛り上がる。
『フエル選手の魔法も凄いが! ライラ選手も負けてはいない!』
二人の剣戟が始まった。
ライラは、腰からもう一本の剣を抜いてフエルに襲いかかる。
フエルもまた、防御魔法を使用しながら応戦している。
そんな試合に水を差すことが起きた。
ドガンッ!
試合会場の壁の一部が内側から弾き壊された。
ライラとフエル、ハナシダや観客達も動きを止めた。
『な……なにが起きたんだ? 会場の壁が吹き飛んで来たぞ』
ハナシダも訳が分からずに壊された壁を見ていた。
観客も静まり返った。
ズシン……
ズシン……
何かが壁の向こうから姿を現した。
「なに……あれ?」
フエルが杖を構えなおして警戒した。
ライラはエミリを思い出した。
城の方からモンスターの気配がすると……。
そして彼女は城の下を指さしたことを。
「……繋がっていたのか」
煙を纏った侵入者が、ライラとフエルに襲いかかってきた。
煙が晴れてきた。
そこには異形のゴーレムがいた。
ゴーレムに大型モンスターの手足を無理やり付けた、異形の姿。
「……なんなのこいつ?」
「フエル! 気を付けて、こいつ普通じゃない!」
フエルは魔力を高め、
ライラは双剣を構え、動けるように相手を見据えた。
フエルは一度ライラを見て頷いた。
ライラとフエルは異質なゴーレムを相手に戦い始めた。
ゴーレムはライラを集中的に襲いかかってきた。
「なんで私ばかり……!」
「あなた、そいつに何かしたの?」
「しないわよ!」
穴からさらに二体のゴーレムが現れた。
「勘弁してよ……」
出てきたゴーレムは出口へ向かって移動し始めた。
「出させないわよ! ファイヤーストーム!!」
フエルの魔法が出口に向かったゴーレムを燃やし始めた。
「こんなものね」
『おおお! フエル選手の魔法が二体のゴーレムを燃やした! ライラ選手は……』
ライラもゴーレムに切りかかっていた。
『ライラ選手も負けてはいない! ゴーレムに斬り付けまくっているぞ! これは効いたか!』
しかし、魔法で燃やされているゴーレムも、
切り付けられているゴーレムも回復していく。
『なんだ、このゴーレム! 回復していくぞ! こんなの聞いたことないぞ!』
実況を聞いたディンも遅れて会場にたどり着いた。
「な……ゴーレムなのか?」
会場でゴーレムと戦っているライラとフエルを見て、
大会どころではないと、ディンも二人に加勢するため、
地面を蹴って走り出した。




