41話 敗北、そして——
歓声鳴りやまぬコロシアム。
観客たちは始まるのを、
今か今かと待ち望んでいる。
コロシアムに開幕の音楽が流れる。
観客が一瞬静まり返る。
実況者が魔導具を起動すると、
空中に浮かび上がり始めた。
一度、周囲を見渡し、
熱の入った実況を始めた。
『いよいよ始まった! 剣術大会!』
『今年はどんな猛者が現れるのか!』
『私も……いや! この会場にいるみなが楽しみにしていたはずだああ!』
『実況は私、ハナシダがお送りするぞ!』
アナウンスが始まると、
観客が総立ちになり——
次の瞬間、割れんばかりの歓声が巻き起こる。
『第一試合はあの! Sランクキラーこと、水虫剣士のマルクだあああああ!』
割れんばかりの歓声の中、笑い声と水虫コールが巻き起こっていた。
僕は恥ずかしくなりながらも、
手を振っていた。
「マルク、なんだその二つ名は!」
ディンさんが笑い出した。
『続きましては、最近Sランクになった重騎士のディンだあああああ!』
さらに歓声が大きくなった。
それは僕の比ではない。
「マルク! 楽しもうぜ!」
ニヤリと笑うその顔は、
獲物を狙うそれだった。
僕は苦笑いをして、
「が、がんばります!」
とだけ応えた。
「覇気がないな……まあいい」
『それでは! 第一試合、はじめ!』
ハナシダの合図で始まった第一試合。
僕は剣を抜いてディンさんに向かって、
走り出し、剣を振った。
ガキンッ!
ディンさんは僕の剣を、
大剣で軽々と受け止めた。
「どうした? マルク、軽いぞ」
僕の剣を弾いて、体をぶつけて来た。
ドンッ!
ズザザ……
倒れそうになるのを、なんとか踏ん張り、
再び切りかかった。
キィンッ!
ギンッ!
いくら打ち付けても軽くあしらわれてしまう。
「さすが、戦い慣れていますね」
ディンさんはにやりと笑い、
「あたりまえだ!」
そう言いながら大剣を振りかざしてきた。
ガギンッ!
今度は僕が受け止める。
(やばい! 重い! 受け止めるんじゃなかった!)
ギギギ……
徐々に押しつぶされていく。
剣を少しずらして、何とか逃げ出した。
「ま……まだまだ!」
僕は再び剣を振りかざした。
「隙だらけだ!」
蹴りを入れられ、宙を舞いながら後に吹き飛んだ。
『マルク選手! 攻撃するが全く歯が立たない!』
『ディン選手の防御は鉄壁だ!』
観客は盛り上がっていた。
やっぱり剣じゃだめだ……。
僕は腰から吹き矢を取り出した。
『おっとお! マルク選手何やら別の武器を取り出したぞ! いったいなんだ?』
「おっと、ここでそれを出してきたか! おもしろい!」
大剣を構えて受けて立つ気でいる。
「いきます!」
フッ!
矢が大剣に当たる。
ガンッ!
ディンさんは矢を受け止めたが、
後ろに仰け反った。
「な!……シャレにならない威力だな」
会場からも驚きの声が上がっている。
「今の何だ……?」
「吹き矢に見えたが」
「あんな威力の吹き矢があるか!」
『なんだ!? 今の威力は!? あれは……』
『吹き矢……吹き矢だあああ!』
『マルク選手の吹き矢の威力なのかああ!』
僕は走り出した。
会場をぐるぐると。
『マルク選手会場内を走り出したぞ!』
走りながら吹き矢を放つ。
ギン!
「くっ!……軌道を読むのが精一杯か!」
「……だが!」
僕は走りながら二連射した。
ドスッ!
チンッ!
一発は地面に。
一発は鎧をかすめた。
「あぶねーな……」
ディンさんの表情から余裕の笑みが消えてきた。
「どんどんいきます!」
「いつまでも……やらせるかよ!」
ディンさんが捨て身覚悟で突っ込んでくる。
『ディン選手! マルク選手に突っ込んでいったあああ!』
『大丈夫か!? あの吹き矢の威力はシャレでは済まないぞ!』
「……そんなの! ……対戦している俺が一番わかってるっての!」
ディンさんが走って向かってくる。
僕は捕まらないように距離を取る。
走りながら吹き矢を放つ。
「走りながら吹き矢を放つか……いつまでそうしていられるかな!」
『ディン選手近づけない! マルク選手走りながら距離を保っている!』
『しかし! 走りながらのマルク選手の方が不利だ、息が持たないぞ!』
長い時間走り回って、
ディンさんは、僕の吹き矢で弾かれよろめき、耐えていた。
僕にも勝機が見えてきた——
ディンさんが、肩で息をし始めてきたのだ。
「マルク……お前どうなってるんだ?」
「なぜ息が上がらない!」
そんなこと言われても。
「わかりません!」
言えることはそれだけだ。
「そうか……、長期戦はこちらが不利だな」
「次で勝負を決める!」
ディンさんが、大剣を僕に向けて宣言した。
『ディン選手が宣言したぞおお! 勝負を仕掛ける気だああ!』
ディンさんが大剣を僕に向けて構える。
「いくぞ!」
その気迫に僕も応えた。
「はい!」
吹き矢を放つ。
走ってくるディンさんの肩のアーマーを吹き飛ばした。
ディンさんはジグザグに走って、迫ってくる。
僕はその時、ディンさんの身体が一瞬ぶれ、
わずかに熱気を帯びた蒸気が、
揺らいで見えた。
——気のせいか?
その時、ディンさんの動きが一瞬速くなり——
僕を宙に蹴り飛ばした。
僕は宙を舞い、地面に叩きつけられた。
気がつけば目の前に大剣が
僕の喉に突き当てられていた。
「……参りました」
『決着だあああ! 勝ったのはディンだあああ!』
ディンさんは手を出してきた。
僕はその手を取って、立ち上がった。
「楽しい試合だったぜ!」
にかりと笑うディンさん。
「僕はまだまだですね」
……なんだろう、
悔しさがこみ上げてくる。
観客から声援と拍手の嵐。
「よくやったぞ! 二人とも!」
「いい試合だったぜ!」
「水虫ー! なに負けてんだ! チキショー!」
「水虫ー! 次はがんばれよー!」
応援してくれている観客に手を振って、
会場を後にした。
ディンさんと別れ、
誰もいない通路で僕は……、
「勝てなかったな……」
こんな気持ちになるなんて、
初めての事だった。
拳を握る。
力が入り、
「……くっ」
歯を食いしばり、
——ぽたり
足元の床を濡らした。
——ぽたりと雫が落ちる地下。
王子が戻ってきていると連絡を受けた男。
「……邪魔ですね。本当に」
苛立ちを隠しもせず、
「肝心のゴーレムも、まだ見つかっていないのに!」
予定なら昨日のうちに王都に入っているはずだ。
しかし、連絡は来ていない。
床に転がっていた物を蹴飛ばした。
がっ!
カラン……
「ふぅ……」
男は落ち着きを取り戻し、
「まさか、すでに王都に入り込んでいることも考えられますね……」
男は水晶盤に向き直り
「なら王子の足止め、王都内に彼らを放ちますか……」
「すでに王都に入り込んでいるかもしれないゴーレム特有の魔力に反応するようにすれば見つかるでしょう」
「ふふふ……すばらしい考えです」
男はにやにやしながら水晶盤に映る王子たち一行を眺め、水晶に魔力を注ぎ始めた。
水晶から魔力を注がれたモノたちが目を光らせた。
「さあ、お前たちの出番だぞ!」
「しっかりと働け!」
男は笑いながら水晶に魔力を注ぎ続けた。
「おっと! 私としたことが」
「国王にも連絡を入れておきませんとね」
魔力を注ぎ込まれた水晶は、
怪しい光を放ち始めていた。
その様子を物影から、魔力を抑えて眺めているカレンがいた。
僕とディンさんは、試合が終わると街に出た。
「暗くなる前に少しでも調査しとくか」
ディンさんがそう言うので僕は従う。
「わかりました」
「日が暮れたら小麦亭に集合な」
それだけを言って、僕らは別れた。
「それにしても王都は広いよな……」
僕は民家の裏や、路地裏も見て回った。
おかしなところは無いよな。
…………
随分と日が落ちてきた。
「今日はこの辺で戻るかな」
僕が帰ろうとしたとき、
どこからか、カレンが肩に乗ってきた。
「どこ行ってたんだい?」
カレンは首をひねるだけだった。
どこかで遊んでたのかな? まあいいか。
僕はもう一度、来た道を振り返った。
「……」
何もない……。
僕は一度首を振ってから、
小麦亭へ帰って行く。
「おう! マルクも今帰ってきたのか」
「ディンさんもですか?」
「おう!」
僕とディンさんは小麦亭へはいっていった。
中にはほかの客で賑わっている。
「あ、きた! こっちこっち」
ライラさんが手招きをいている。
僕らはライラのいるテーブルへと向かった。
「で、そっちはどうだった? ミズナ」
「収穫無しね」
「俺の方も無かったな」
みんなが僕を見る。
「カレンがいたくらいで、特に変なところはなかった」
「エミリは?」
「相変わらず気配はあるよ」
「焦っても仕方ないか……」
ディンさんのその一言で、
場の空気が、少し和らいだ気がした。




