37話 靴は履いているか?
マグノーテ王国、王城——
薄暗い、とある一室。
「間違いないのだな」
「はい、情報は確かかと」
「まさか実在していたとはな……運がこちらに向いてきたのだろう」
そう言って男は開いていた本を閉じる。
「して、今はどこにある?」
「ある冒険者が持っていたことを確認しております」
「その冒険者を呼んでまいれ!」
「それなのですが、調査隊に同行した王子もまた……」
「また、あの出来損ないの王子か……」
「ギルドに呼びかけ、アルナートへ呼び寄せたとの情報も」
机を指で叩く音が響く。
「あれは……あの出来損ないが扱えるものではない」
「……」
「探し出せ……冒険者ごとだ!」
「……奪ってでも手に入れろ」
「……御意」
気配が消え、
部屋には男一人だけが残された。
「あれは我が王国の物だ……あれさえ手に入れれば強靭な兵力が手に入る」
「自律し、進化する兵器か……素晴らしいではないか!」
男は両手を広げて高らかに笑い出した。
「……ふっ……ふははははは!」
やがて外は雨が降り注ぎ始めた——。
その雨音に、男の笑い声はかき消されていった。
一方、マルクたちは——
いや、
雨が降り注ぐ中、マルクはゴブリン三匹に叩かれていた。
「痛い! 痛い! ちょ! やめて!」
なんとも情けない姿である。
「エミリ! ミッチー! カレン! 見てないで何とかしてー!」
雨宿りできる大きな木の下で、みんなは寛いでいた。
「がんばれマルク! 温かいスープ作って待ってるから!」
「エミリ!?」
「カレンちゃんが風邪を引いたらいけませんから、私は見張りです」
「ミッチー!?」
カレンを見る。
カレンは焚火をじっと眺めている。
「のう、マルクさんは大丈夫なのかい?」
「大丈夫だよ、いつもの事だし」
「そ、そうなのかい? あれが最強と言われた剣士の姿とは……」
「オクタムさん、マルクは弱くないですよ」
「お二人がそう言うのなら大丈夫なんだろ」
「マルクさん! 儂も応援してるぞ! がんばれ!」
「うひゃあああ!」
みんなは焚火を囲んで暖かそうだ。
「ちくしょう! お前らいい加減にしろ!」
僕は剣を抜いて切りかかる!
ひょい……スカッ
ひょい……スカッ
ぱこーん!
三匹目のゴブリンに頭を叩かれた。
しかも僕の剣は当たらない。
「ちきしょう!」
僕は剣のつまみを弱に合わせて吹いた。
スパン!
一匹目撃沈!
パン!
二匹目轟沈!
ポカン!
三匹目、チーン!
「や……やったー! 勝ったぞー!」
僕はその場でガッツポーズを取った。
「こらー! マルク! それ剣の意味ある!?」
エミリは何か言っているが、気にしない。
「ははは! エミリ君! 勝てばいいのだよ! 勝てば!」
「マルクの特訓メニュー、もう少し増やさないと……」
「ごめんなさい! 調子に乗ってました!」
土砂降りのなか腰を直角に曲げて謝るのだった。
雲の間から光があふれ出す。
先ほどの雨が嘘のようだ。
「やっぱり晴れている方が気持ちいいよね」
オクタムさんも馬たちの様子をみている。
エミリやミッチーも片づけをしている。
僕は濡れた服を乾かしている。
……
「はっくしょん!」
「マルク、そろそろ行くけど大丈夫?」
「服、乾いてないけどいいよ」
「今度はズボン履き忘れないでよね」
「さすがにそれは無いよ」
「それはどういう状況ですか?」
ミッチーが興味ありそうで、話に入ってきた。
なぜか、ミッチーに抱かれたカレンも聞きたそうに頷いていた。
「そんな楽しいもんじゃ……」
「マルクね、アルナートの街に入った時、ズボン履き忘れてたんだよ」
……エミリ。
「衛兵に突き出しましょう」
「ちょっと!?」
カレンは面白そうに手を叩いている。
「馬車の準備できました」
オクタムさんの用意が完了したようだ。
「それより、行こうか」
「そうですね」
「マルク、替えの上着くらい羽織なよ」
エミリはアイテム袋から僕の替えの上着を出して、渡してくれた。
僕たちはオクタムさんの馬車に乗り込んで、
目の前に見える王都へ向かった。
王都の城壁は高く、堅牢な作りをしていた。
「オクタムさんの馬車は本当に速いね」
「まったくです。 まさか今日中に王都にたどり着けるとは」
「また競争したいね!」
僕らの素直な感想だった。
「入るのには、あそこに並ぶんだね?」
「そうです、王都へ入るには厳しくチェックされます」
「いつもの事ですよ」
オクタムさんは慣れたものだった。
「次!」
僕たちの番だ。
「オクタムじゃないか、まだ走りまくってるのか?」
「はい、馬たちも喜んでいるので」
「そう言って、一番喜んでるのはオクタム、お前じゃないか!」
はははと笑う門番。
「あ、こちらは儂の護衛の冒険者たちです」
「そうか……決まりでね、ギルドカードの提示をお願いします」
僕たちはギルドカードを門番に見せた。
「オクタムが選んだ冒険者なら問題はないだろう」
「通っていいぞ」
オクタムさんって凄いな。
王都に入るの大変じゃなかったの?
簡単には入れてしまった。
「オクタムさん、顔が広いんですね」
「そんなことはないぞ?」
「昔からこんな仕事してるとな」
王都の長い門をくぐったら、
そこは……凄い建物や人の多さに、
僕は感動していた。
エミリも、目を輝かしていた。
「マルクさんたちはギルドへ行くんだろ?」
「はい」
「なら、ここでお別れだな」
そう言って依頼所にサインをして、
オクタムさんは馬車に乗って移動していった。
「ミッチー、ギルド行く前に宿を取ろうよ」
「エミリさんの言うとおり、宿を確保しておきましょう」
「マルク、行くよ」
「あ、うん」
僕はまだ、王都の街並みに、
圧倒されていた。
「おかあさん」
「な~に?」
「あのおにいちゃん、なんでお靴はいてないの?」
おかあさんと僕の目が合った瞬間、
娘を抱いて、
走り去っていった。
……そして、僕は足元を見た。
うん、履いていなかった。
「マルク、置いていくよ」
エミリに急かされた僕は、
裸足のまま後を追っていった。
ぺた ぺた ぺた
……
エミリとミッチーがなかなか良さそうな宿屋へやって来た。
ギルド提携宿《小麦亭》。
「ここは、ギルド提携の宿屋です。 ここなら安いし問題ないでしょう」
「さすがミッチーだよ!」
「ほんと、助かるよ」
なぜか赤くなっているミッチーだった。
僕たちは宿屋に入り、
部屋を確保した。
もちろん二部屋だよ。
部屋割りはもちろん——
「私とカレンちゃんが同室! マルクとエミリで同室! 決まりですね」
「決まってない!」
「僕もさすがに幼馴染とはいえ、女の子と一緒は……」
「そうだ! カレンに決めてもらおう! それがいい!」
「さぁ、カレン決めちゃってくれ」
僕がカレンにお願いすると、
迷わず、僕の肩に乗った。
「……そんな~」
落ち込むミッチー。
「はい、私とミッチーが同じ部屋です!」
「部屋割りも決まったし、ギルドに向かおうよ」
「……はい」
「行こう!」
僕たちは宿を出て、ギルドに向かった。
「はい、依頼完了です。お疲れさまでした」
僕たちは依頼表をギルドの受付に出して、
依頼を完了させた。
「こちらが報酬になります。お確かめください」
エミリが報酬を受け取り確認を始めた。
「ほうしゅ~♪ ほうしゅ~♪」
「すみません、剣術大会の受付ってどこでしょうか?」
僕は受付嬢に聞いてみた。
「剣術大会の受付ならここでも出来ますよ? 参加なさいますか?」
「はい! 参加なさいます!」
受付嬢はクスっと笑い、参加用紙を取り出した。
「では、ここにお名前をお願いします」
僕は名前を書いて受付嬢に渡した。
受付嬢は僕の名前を見て叫んだ。
「え、えええええ! マルク、あのマルクさんですかぁぁぁぁ!?」
どこかで聞いたことがあるセリフだな……。
「し、失礼しました……」
「まさか噂の凄腕剣士と言われているマルクさんだったとは……」
「それは単なる噂ですよ」
「でも……各ギルドに通達されていますよ? Sランク剣士を破ったって」
「そ、それは……」
困っている僕の顔を見た受付嬢は話を戻してくれた。
「ん、んん……剣術大会の説明をしておきます」
「……お願いします」
「開催期間は四日間」
「最初の予選は、参加人数にもよりますが」
「集団で行われます」
「その中で残った八人が、本戦に出場となります」
「それと、基本は剣で戦います」
「……基本は?」
「はい、剣を使っていれば魔法も使用できます」
「純粋な剣術じゃないんですか?」
「剣術大会とは名ばかりの何でもありです!」
「一つだけ絶対のルールがあります」
受付嬢は体を前に出して指を立てた。
「そ、それは?」
「剣を装備していることです」
受付嬢はにこりと笑った。
「開催場所は王都東のコロシアム」
「開催日は明後日からです! 頑張ってください!」
この大会なら、吹き矢ありだね。
僕は心の中でほくそ笑んだ。
勝てる!
かな——。
「それはそうと、マルクさんは何故裸足なんですか?」
……靴、履くの忘れてた。




