29話 化け物
村から少し離れた谷間——。
3人の冒険者が、息を潜めていた。
ズシン……
地面が揺れる。
ズシン……
(……なんだよ、あれ)
剣士の男が小声で漏らした。
バキバキバキ……
木はへし折られていく。
ズシン……
(行ったか?)
脂汗を垂らしながら盾持ちの男が小声で言った。
(まだ近くに居るわ)
魔法使いの女性も震えながら様子をうかがっていた。
(なんであんな奴がこんな所に居るんだよ)
剣士の男がすくみあがっている。
(あいつ……無事でギルドにたどり着いてくれればいいが……)
盾持ちの男がぼそりと呟いた。
巨大な影が木々をなぎ倒し、
遠ざかって行く。
・
・
・
—— 数日後 ——
僕たちはゲンさんに連れられて、村から離れた草原に来ていた。
「この辺りでいいだろう」
「お前たち、準備は良いか?」
ゲンさんは僕たちに振り向いて言った。
今の僕たちは、ゲンさんに整備してもらった武器の他に、
ミズナさんとカレンの装備が新調されていた。
「エミリの嬢ちゃん、ミズナ嬢とちと打ち合ってみてくれ」
「いいよ」
「私とエミリさんですか!?」
驚いているミズナさん。
うん、僕も気になる。
「なに、その武器と防具の最終確認じゃ」
そう言ってゲンさんは、始めろと顎で合図した。
「エミリさん、お手柔らかに」
「いきますよ」
エミリがミズナさんに切りかかった。
それを受け止めるミズナさん。
二人の攻防が徐々に速度を上げていく。
キンッ!
カン キン
エミリの攻撃が徐々にミズナさんの防具に当たり始めて来た。
しばらく様子を見ていたゲンさんが、
「そこまでじゃ」
二人を止めた。
「エ、エミリさん……やっぱり凄いですね」
肩で息をしながらエミリの強さに感心しているようだ。
「ミズナさんも凄いよ!」
「ミズナ嬢、どうじゃ?武器と防具の方は」
「は、はい。レイピアは前より使いやすくなってますね。防具は、凄すぎます」
「エミリさんの攻撃が当たってるのに、傷一つないですね」
「うんうん、いい感じで出来上がったかの」
「エミリの嬢ちゃんはどうだ?そのカタナは」
「うん、いい感じだね」
「さらに手に馴染む感じがする」
「そうか、なら良かった」
「次はちっこいの、お前の番じゃが……打ち合いとかは無理そうじゃな」
「そうじゃ!激しく動いておかしな所がないか教えてくれ」
「おまえさんの防具もこいつらと同じ素材じゃからの」
カレンはこくりと頷いて、
その場で格闘術の動きを、
高速で行った。
「おい、なんじゃこのちっこいの! 動きが全く見えんぞ!」
「まぁ、カレンですから」
「なんじゃそれは……」
カレンは一通り激しく動いてから、動きを止めた。
カレンは問題ないよと自分の体を叩いたり防具を撫でたりしながら伝えた。
「問題なさそうですね」
「そうか?ならいいんじゃが」
「最後はマル坊、お前じゃ」
「僕は何を?」
「そうじゃの、あの森の方に向かってその仕込み剣を使って普通に吹いてみろ」
「わかりました」
言われた通り剣の柄頭の部分を外し、いつもの吹き矢の要領で吹いてみた。
フッ!
玉は飛んでいった。
飛距離が伸びた感じだね。
「いい感じに飛んでいきました」
「ふむ、ちょっと剣を貸せ」
僕はゲンさんに剣を渡すと、ゲンさんは何やら柄の部分をいじっている。
「これでもう一度、同じ場所に向かって吹いてみろ」
「わかりました」
「おっと、お前たちはこいつから離れておけ」
「なんで?」
エミリが聞き返すと、
「いいから言われた通りに離れておれ」
なんか嫌な感じがする……なんで離れるの?
「このくらい離れればいい?」
「いいじゃろ」
「マル坊!思いっきり吹いてみろ」
「なんか嫌な予感しかしないんですが」
「男なんだからグダグダ言わずにやれ!」
男や女の前にやたらと嫌な予感しかしなんですが!?
「はぁ……わかりましたよ」
覚悟を決めて、大きく息を吸い込み——、
吹き付けた!
ドバンッ!
僕は何かの衝撃で後ろに吹き飛んだ。
「どわわわ!」
そのまま背中を地面にこすりつけた。
「いたたた……なに? 今の衝撃は?」
僕が上半身を起こしてみると目の前には、
地面がえぐれた跡があり、
森の一部が無くなっていた。
「え? 森の一部が無くなってるじゃん!! 怖いんだけど!!」
「うむ、成功じゃの」
エミリとミズナさんを見ると、
二人とも、呆然としていた。
「剣に細工をしておいたんじゃよ」
「細工?」
また不穏な……
「柄の部分をひねる角度で威力が上がる仕組みじゃよ」
「なにトンでも兵器作ってるのさ」
「安心しろ、これはマル坊しか使えんよ」
「ほんとですか?」
「なら見てみるがいい」
「エミリの嬢ちゃん、ちとこれを吹いてみろ」
エミリは、放心状態のままこちらを見て固まっていた。
「いつまでも呆けているな!」
ゲンさんはエミリの頭をゲンコツで小突いた。
「いたっ!なにすんのよゲンさん!」
「いつまでもぼーっとしているからじゃ、早くこれを吹いてみろ」
「うー、わかったよ」
エミリが剣を口の所へ持っていき、吹き矢の要領で吹いてみた。
フッ!
ポト……
「あれ? 全然飛ばないよ? 壊れた?」
「いや、それが普通じゃ」
「マルクがおかしいの?」
「それで間違いない」
「なんで僕がおかしいという話になるのかな?」
「あれは、マルクさんがおかしいです」
いつの間にか復活したミズナさんまで、僕がおかしいと言い始めた。
「マル坊がおかしいのは今に始まったことじゃないわ」
そう言いながら、エミリから剣を受け取り、
剣を確認して、問題ないと確信したのか僕に返してきた。
「その剣はお前たちの言うトビトカゲの特性を生かした武器じゃ」
「お前にぴったりじゃろ」
「僕、普通の吹き矢が良いんですけど」
「あっちの方が安全ですよ」
「安全が聞いてあきれるわい」
「ゲンさんに同意だよ」
「私もゲンさんに同意します」
カレンも頷いていた。
あれ?変なの僕なの?
ゲンさんの確認事項は一通り終わったみたいで、
僕たちは村に戻って来た。
「そうそうマル坊よ、早くその剣の代金とその他もろもろ、払えよ」
「儂はまだやる事あるから家に戻るぞ」
そう言いながらゲンさんは行ってしまった。
「代金か……あれ? この剣くれたんじゃないの?おかしいな」
エミリは視線を外し始めている…………。
「まだ、時間がありそうだからギルドへ行きませんか?」
ミズナさんの提案に僕とエミリは賛成した。
ギルド前に来た僕たち。
何やらギルドが騒がしくなっていた。
ギルドから出ていく冒険者や商人。
僕たちは何かあったんだと感じて、ギルドの中に入っていった。
中に入ると、かなり疲弊している一人の男性が何かを訴えようとしていた。
「速くポーションを持ってこい! 急げ!」
ギルマスが男性を抱えて手ごろなテーブルの上に寝かせようとしていた。
「私ポーション持ってる!」
エミリがアイテム袋からポーションを4本取り出した。
「助かる! さぁ、こいつを飲め!」
疲弊しまくっていた男性の顔が徐々に回復していった。
「話せるか?」
「あ……あぁ……助かった」
「何があった?」
「そ、そうだ! 俺の仲間が危ない!」
「助けてくれ!」
「とんでもない化け物が現れやがった!」
「化け物?」
ギルマスは一度ギルド内を見渡してから、再び視線を男に戻した。
「その化け物とは一体」
「い、今は谷間に居るはずだ」
「仲間もそこに……まだそこに居るはずなんだ!」
「姿は見たのか?」
「暗くてはっきりとは見えなかったが、デカかった……」
「木なんて簡単にへし折って歩いていたんだ」
「谷間にデカい化け物か」
「おい! 地図を持ってこい!」
ギルマスが受付の方に向かって叫んだ。
「今お持ちします!」
受付嬢はテーブルに地図を広げた。
ギルマスは地図を眺めながら男に確認を取った。
「どの辺りで見たかわかるか?」
「あ、ここだ!間違いない、この山間の谷から草原地帯の方へ向かっていった。」
「近くに何かあるのか?」
ギルマスが地図を確認しながら、震えだした。
「近くにあるの……この村だけじゃねーか!」
その言葉を聞いた瞬間、ギルド内が静寂に包まれた——。




