30話 暗躍だ!
(これはチャンスかもしれない。)
ここ数日、この村の建物の配置などを頭に入れた私は、
マルク暗殺に向けての最終段階に入った時だった。
しかも、新たな脅威が迫っているなか、成功の確率が上がったのだ。
ミズナや、エミリといった化け物相手にするのは分が悪い。
この混乱なら、必ず一人になる状況がめぐってくるはず。
心の中で自らの勝機に小躍りしていた。
「これより対策会議を行う! 今いる冒険者は強制参加だ!」
ギルドマスターは声を荒げて言った。
「でもよ、相手がわからないなかどうするんだよ」
「情報が少なすぎる」
冒険者たちの行っていることは間違っていない。
未知の脅威に対して準備も出来ないのだから。
「そこだ、まずは足の早し馬で、そいつが何なのか確認してきてもらう」
「あと一組、残された冒険者の生存の確認だ!こいつは隠密にたけた者にやってもらう」
「はいはい!」
「ん? エミリか、なんだ?」
「見てくるだけなら私が行ってくるよ」
「何言ってるんだ?これは遊びじゃないぞ」
エミリは何時になく真面目な顔で「知ってるよ」と反発した。
「よろしいでしょうか」
「ミズナ嬢か、なんだ?」
「私もエミリさんが向かうのが一番だと、進言します」
「どういうことだ?」
「彼女の足が、恐らくこの中で一番早いからです」
「おいおい、冗談ならよそでやってくれ」
「冗談は言いませんよ」
「彼女の足は、馬より速いです」
「……まじか?」
「マジです」
(なんという好機! 一番危険な女がいなくなるかもしれない!)
ギルドマスターは一度考え込み、
エミリを見た。
「本当に大丈夫か?」
「任せて!すぐに確認してくるよ」
「ミズナ嬢の言葉と、エミリを信じるか」
ギルドマスターが呟いた。
「まて! そんな小娘役に立つのか?」
「俺が代わりに行ってやる!」
ギルドマスターは冒険者たちの顔を見ながら言った。
「お前たち……だが、ミズナ嬢が嘘を言ってるとは思えない」
「なので、エミリ! お前に行ってもらう、いいか?」
「任せて!」
「ギルマス!」
冒険者達はギルマスの決断に意を唱えようとした時に、
「じゃ! 行ってくるね!」
と言ってギルドを小走りで出ていくエミリを止めようと、
他の冒険者が後を追って表に出た……。
「ちょっとま……え?」
冒険者の言葉が続かなかった。
エミリの姿が、すでに消えていたからだ。
エミリが走って行った後には砂埃が舞い上がっていただけだった。
「お、おい……なんだよ……あの速さ」
「理解が追いつかないんだが……」
エミリを追って外に出た冒険者の声がギルド内にも聞こえていた。
(今がチャンス!)
私は他の冒険者をかき分けて、
マルクに近づいていく。
ギルドを飛び出したエミリは、
すでに谷間に着いていた。
「えっと……草原地帯の方に向かったんだよね」
エミリは谷間から草原地帯に続く方へと向かおうとした時、
谷間の方から気配を感じた。
「人の気配?」
「あの男の人が言ってた取り残された冒険者かな?」
「確認してみよう」
エミリは谷間を駆け下りて、気配のする方へと走り出した。
木が多い茂る場所に人の気配を感じた。
「そこに誰かいますか?」
エミリは茂みに向かって話しかけた。
「人?」
「女の子が何でここに?」
「……助けが来たの?」
そこには疲れ切った冒険者3人が居た。
「だ、大丈夫……ですか?」
エミリは冒険者を見たら、途端に人見知りの弊害が出た。
「お嬢ちゃん、ここは危険だ……早く逃げろ」
「なんでここに、こんな子が?」
冒険者たちはエミリを見て不思議に思った。
「あ、あの……私、ギルドからきたんで……す」
その言葉を聞いた三人は、
「ほんとか?」
「あいつはギルドにたどり着いたんだな?」
「なら、助けがもう来ているのね?」
冒険者たちはエミリの言葉に安堵した。
「えっと、私はここに……確認に来たんです」
「草原地帯の方に向かっている何……かを」
「こ、これ!渡しておきます!」
エミリはアイテム袋から、食料とポーションを出して三人に渡した。
「い、急ぐから……い、いきますね!」
エミリは草原地帯の方へ向かって走り出した。
「ちょ!……へ?」
「は、速い……」
「なんだったんだ彼女は」
あっけにとられた冒険者三人。
「だけど、助かった」
「そうね、食料もポーションも……ありがたいわ」
「村に戻れたら、礼を言おうな」
三人は頷き、エミリから貰った食料を頂くのだった。
もうすぐ草原地帯だね。
エミリは気配を感じ取る為、一旦止まった。
……向こうの方に、大きな気配を感じる。
エミリは走り出した。
気配がする、離れた高台の場所から遠目の筒を覗き込んだ。
「……あれかな?」
そこに居たのは黒い大きな巨人だった。
巨人は、手に持った武器で周りの木をなぎ払っていた。
「間違いなさそうね」
エミリは目標を確認したことで、ギルドへと戻っていくのだった。
巨人はエミリが居た場所に顔を向け、
走り去っていた方を巨大な目で眺め、
ゆっくりと移動し始めた——。
一方ギルドでは——。
「ミズナ嬢よ、エミリの奴は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、彼女は見た目よりしっかりしていますから」
(狙うなら今だ! この毒針を直接刺せば……)
「……そうか」
「今頃どの辺りにいるのやら……」
ギルドマスターがエミリを心配しながら天井を見上げた。
(もう少し……あとちょっとだ……)
冒険者をかき分けながら、マルクの後ろ姿を捉えた。
(あと5歩……)
ドガンッ!
ギルドの扉が勢いよく開かれた。
「戻ったよ!」
いつもの調子のエミリがそこに立っていた。
がたんっ!
ギルドマスターや冒険者たちがずっこけた。
(んな! なんで戻ってくる!)
毒針を持った手を、ゆっくりと引っ込めた。
(くそ……)
「いやいや! 早すぎだろ! まさか途中で引き返してきたのか!?」
「そんな事しないよ!」
少し肩で息をしていたエミリが脹れた。
「冒険者三人も居たよ」
「ほんとか!? 無事だったか?」
「うん、食料とポーション渡しておいたよ」
「そ、そうか……良かった」
男は安堵の為か、目に涙を浮かべていた。
「あとね、平野の方に黒い巨人が暴れていたよ」
「黒い巨人だと!まさか……」
「ギルドマスター、何かご存じなんですか?」
地図を持ってきた受付嬢がギルドマスターに聞いていた。
「ああ、間違いなければ……こいつは人を食うサイクロプスだ」
「人を……食べる……」
「少し前に、隣国のギルドから使者が来たんだ」
「討伐に失敗した、近隣の村や街に危険を触れ回っていたんだ」
「まさか……ここに来るとは」
「ちょっと待ってくれ!」
「今の話が本当かどうかまだわからないだろ!」
「そこの嬢ちゃんが嘘言ってるかもしれないぞ」
「しかも、戻ってくるのが速すぎるだろ!」
「そうだ! どうなってるんだ!?」
「今さっき出ていったばかりじゃないか!」
「も、もちろんちょっと頑張って走って行ったんだよ?」
「いやいや! ちょっと頑張って走って行ける距離じゃないだろ!」
ギルド内が混乱し始めていた。
「よろしいでしょうか?」
ミズナさんが手を上げて語りだした。
「彼女は走るのが速いです。 私が保証します」
「なんたって、馬車で二日かかる距離を数十分で走破できる足があります」
「そんな馬鹿な!」
「そうだぞ! オクタムの馬じゃあるまいし」
「そのオクタムさんの馬に勝ったのが彼女ですよ」
「……本当か?」
「本当です。私たちはオクタムさんの護衛を兼ねてこの村に来たのですから」
「何故か馬と競争することになったのですが……」
ミズナさんは当時を思い出すかのように、首を振っていた。
「意味が分からん」
「どういう状況だよ、それ」
ミズナさんと冒険者たちの話が進んでいく。
やっぱりエミリはおかしいよね?
僕は確信したよ。
ただ聞いているだけだった僕はそう思った。
ただ、そのおかしさが今は頼もしく感じる。
この村は僕たちの生まれ故郷だ。
弱い僕でもそんな気持ちになれる。
なんとしても守りたいな。
(なんだよあの女! 速すぎるだろ! 本当に谷間まで行ってきたのか?)
(本当だったらやばいぞ……計画が狂う恐れがある……)
(おそらくその巨人を討伐することになるだろう)
(チャンスはそこしかないな)
私は失敗した時の為のいくつかのプランを、再構築しだした。
……次こそ、成功させる。
早く来い、巨人。
そこで私の任務も終わるのだから……。




