25話 師匠です!
マルクと別れたエミリたちは——。
「ようこそお嬢さん。何にもないけどゆっくりして下さい」
エミリの母親は料理をしながらミズナさんに話しかけている。
「そうだぞ、エミリも喜ぶし、ゆっくりしていってくれ」
エミリの顔を見て、嬉しそうに目を細めている。
「それでは遠慮なく。お世話になります」
私はお辞儀をした。
「ミズナさん堅苦しいよー。もっと楽にしようよ」
「やはり最初だから、そこはきちんとしないといけませんよね」
「ま、いいか。 おかあさんご飯なに?」
「今日はエミリも帰ってきたことだし、採れたてのウサギ肉よ」
「やったー!」
こうしてみるとエミリも普通の女の子なんだなと思う——が、
あの剣さばきとあの脚力、どうやって物にしたのだろうか。
「エミリは普段どんな訓練を行っているのですか?」
私は聞いてみた。
「ん?とくには……しいて言うなら、師匠の教えだよ」
なるほど。
師匠が居るのですね。
「その師匠に、私も合わせてもらうことは出来ますか?」
私もエミリの様な剣の使い方を一から学びなおしたい。
ゴーレムを一瞬で切り刻むあの姿が未だに頭から離れないのです。
「うん、いいよ。ごはん食べ終わったら見せるよ」
聞き間違い? 会わせるではなく、見せる?
「え? そんな簡単に会えるものなんですか?」
「だって部屋にあるもん」
「部屋にある?」
この子は何を言ってるんですか?
「さぁさぁ、そんな事よりご飯が出来ましたよ。おとうさん、エミリを見ながらいつまでもニヤニヤしてないの」
「お、おう。そうだな頂こうか」
話なんか聞いてはいない。ただただエミリだけを見ていた父親だ。
「ごはんだー」
「い、いただきます」
食事を取りながら、エミリの冒険話に家族が嬉しそうに耳を傾けている。
「ミズナさんでしたよね?」
「はい。そうです」
「どうしてギルドの受付を辞めてまで冒険者に戻ったんですか?」
母親が疑問に思ったのでしょう。
だから私は素直に話しました。
「かけがえのない、仲間の為です」
あぁ、カレンちゃん! 今頃どうしているのですか?
エミリがジト目で見ている……
なんでそんな目で見るのですか?
嘘は言っていませんからね!
「……ミズナさん、カレンの事となると人格変わるよね」
「そんなことはありませんよ? 普通です」
そうです! この想いは普通なのです! 誰もが抱く感情で間違いありません!
エミリも家族との会話に一区切りをつけて、私を部屋に案内してくれた。
さて、師匠とは一体——。
「師匠お久しぶり! 帰って来たよ」
エミリは本棚に向かって挨拶をしていた。
もしや、師匠はすでに……。
「ミズナさん師匠だよ!」
何とも言えない気持ちになりながらも、エミリが師匠と呼ばれたところへ行くと……。
「……エミリさん。これは?」
そこには師匠の形見とかそんなものは無かった。代わりにあったのは——。
「師匠だよ!」
私はギョッとした。
……これが師匠?
絵本じゃないですか!
——三才からのたのしいえほん
——剣神伝説
——全八巻
「…………」
「ミズナさん?」
「な、なんですかこれは!?」
大声をあげてしまいましたよ!
「うわ! びっくりした!」
さっきの私の感情、返してください!
「エ、エミリさん? この絵本は……」
「師匠です!」
「え、絵本ですよね?」
「師匠です!」
考えても無駄な気がします!
「……わかりました。師匠なんですね? で、ここからどのように、なにを得ることが出来るのでしょうか?」
「最初はですねこの一巻です。身体強化です」
「身体強化、普通は魔法でやる奴ですよね……この絵本だと気とかなんとかだったような」
「そう、闘気……私これ、6才のときにできたよ?」
「え?……6才……ですか?」
「うん」
「あの、見せてもらうことは出来ますか?」
エミリさんから絵本を受け取ると、エミリがとあるページを開いた。
「師匠の、このページにも書いてあるんですけど……闘気を身にまとい、心と体を一つにするのじゃ!って」
意味が分かりません。
闘気ってなんですか?
魔力と違うんですか?
これ、ただの創作ですよね? 違うんですか?
「た、確かに子供が、ごっこ遊びとかしますが、出来たというのは聞いたことが……」
いけない、私の中の常識が壊れそうです……。
「ゆっくりやってみせるね」
エミリは目を閉じて呼吸を一定にリズムを刻みだした。
エミリの周りに何か威圧に近い何かを感じ始めた。
「なんですか、この圧は……魔力とは違う……エミリさん?」
今の状態で、エミリはアイテム袋から石のかけらを取り出した。
「これ、握りつぶせますか?」
「は、はい」
私はエミリさんから石を受け取り、
魔力を高め思いっきり力を込め、
石を握りつぶした。
バキッ……ジャリ……
「こうですか?」
「じゃ、私の番ね」
グシャリ!
エミリは指二本で石を潰した。
え?何で?
あれ、潰れる形じゃありませんよね……?
——私の目、おかしくなりましたか?
「はい、出来ました!」
エミリはムフンと胸を張った。
「でも、マルクちっとも出来ないんだよね……なんでだろう?」
普通は出来ないと思います……いや、出来るものなんですか?
「な、ならエミリさんがゴーレムや扉を切ったのは……」
「うん、えーと師匠の二巻と三巻の教えだよ」
「教え……ですか……」
「ミズナさんも剣使うからできるよ! きっと!」
できるのでしょうか……自信がありません。
「ちなみにエミリさんは身体強化はどのくらいの期間で、出来るようになったのですか?」
「どのくらいだったかなー……たしか一ヶ月かかったかな?」
「……一ヶ月」
「もう一ついいでしょうか?」
「うん」
「闘気は魔力と違うのですか?」
「うん。えとね、このページに書いてあるの」
開いたままの絵本の二ページ前に書かれていました。
“魔力と闘気は似て非なる物じゃ、魔力でもできるが闘気は別格じゃて”
本当でしょうか……しかし、目の前に使っている人物が居るので嘘とは思えなくなりました。
「エミリさん、もしよろしければ私にも指導していただけないでしょうか」
「いいよ! マルクも一緒にやってるんだよ!」
「マルクさんですか……実のところマルクさんってどのくらい強いんですか?」
「マルク? 剣だと私より弱いよ?」
エミリの口から衝撃の事実が語られた。
マルクさんが弱い?
嘘でしょ? Sランクにも勝ってますし。
あの山の様なゴーレムにも勝ってますよ?
それが弱いって、この子どれだけ強いのですか?
「でも、私もまだまだ弱いからなー」
「どうしてですか?」
「だって、まだDランクだよ? 早くSランクになって強くなりたーい」
そんなことを言いながらベッドに倒れこむエミリさんでした。
ズレてます……なんか色々ズレてますよ!? エミリさん!
「そ、そういえば剣ではマルクさん弱いって言ってましたけど、なら彼は何が強いんですか?」
「ん? マルクは吹き矢が得意なんだよ」
「吹き矢ですか?」
「メインの戦闘では役に立たないのでは?」と私は首をかしげた。
「……異常」
エミリさんがぼそりと言いました。
「はい?」
「マルクの吹き矢は異常なの! 私も勝てない! くやしいー!」
エミリさんは、ベッドの上で手足をバタバタさせて悔しがってます。
「そうなんですか……」
「あしたマルクの所行ってから、ゲンさんの所行くからミズナさんも行こうよ」
本当にエミリさんは唐突ですね。
「ゲン、さんですか? どなたなんですか?」
「鍛冶屋のゲンさん」
「鍛冶屋ですか。いいですね、行きましょう」
「明日早いから寝ようよ」
「あ、エミリさん。この身体強化ですが、この本を読んでいれば何かつかめますか?」
「うんー……私はどうやったら師匠のように使えるのか考えてたらいつの間にか使えるようになってたかな」
「そ、そうですか」
「……うん」
「私も考えてみましょう」
スー……スー……
いつの間にかエミリさんは寝息を立てながら眠りについていた。
私はエミリさんに布団をかけて、私も横になるまえに、
絵本の最後のページを開いてみたら、
“この物語に登場する人物や技は、一部を除き創作されたものです。”
私は本をそっと閉じ……、
灯りを消した。
ダダダ・・・
「診療所へ急げ! 気を確かに!」
外が何やら騒がしいですね……。
私もいつの間にか眠りについていた。




