22話 まってください!
「ゴールを決めようと思います」
僕が地図を確認すると先の方に岩場がある。そこをゴールとしよう。
「この先に岩場があります。そこをゴールとします。選手のみなさん、なにかありますか?」
「儂は問題ないぞ」
「私もないよ!」
カレンは頷く。
「あの……なぜこのようなことに?」
事態が呑み込めていないミズナさんが尋ねてきた。
ミズナさんはカレンを見て大丈夫なのかと心配そうに見ている。
「カレンちゃん、もし置いていかれても私がすぐに迎えに行きますからね」
「マルクさん、本当にカレンちゃんも走るんですか? 大丈夫ですか?」
「僕にも分かりません!」
言い切った。
でも、カレンもあれで早いんだよね……。
「まぁ、いいじゃん!」
エミリが笑いながら体をほぐしている。
カレンも屈伸などを行って、準備万端みたいだ。
オクタムさんと二頭の馬は鼻息荒く、早くしろと言わんばかりに馬はしっぽを振りまくっている。
僕とミズナさんは、馬車の荷台に入り込み準備をする。
「では、行きますよ!」
「よーい……」
「どん!」
僕の合図で一斉に走り出す。
一番に飛び出したのは、意外や意外!
馬車であった!
なにこの加速! ありえないんだけど!
僕とミズナさんは馬車にしがみついて外を見ると、
エミリが左側で走ってくる。
カレンは……あの体の大きさで、
今、
馬を抜いた。
カレンの手足がもうね、見えないのよ。
「えええ! カレンちゃんあんなに早く走れるんですか!?」
ミズナさんがびっくりしているよ。
「カレン、速いですよ。 エミリもだけど」
馬車は負けじと加速する。
この二頭の馬たち、荷物引いてるのに何なの?
ここにきてエミリが加速しだした。
そして、馬車を追い抜く——。
「マルクさん、あなたもあんなに速く走れるんですか?」
「無理です!」
僕はミズナさんの質問に即答した。
それにしても、この馬車あまり振動が来ないな。
しばらくすると岩場が見えてきた。
どうやら二人はとっくに着いていたようだ。
「いやー負けたわい。嬢ちゃんとちっこいの、速いな」
「どっちが先だったの?」
「私だよ!」
肩で息をしながら、胸を張って勝ち誇るエミリ。
隣では悔しそうに地面をたたいているカレンが居た。
ちなみに、ここまでの距離は、普通の馬車で二日かかる距離であった。
それを数十分で走破したのである。
競争する少し前、遠くから馬に乗って馬車を眺める人影があった。
馬車の移動速度に合わせていたが……。
突然馬車がありえない速度で走り出した。
慌てる人影は、馬を走らせるが遠のいていくだけであった——。
「なんなの? あの馬車……」
つぶやきは誰にも聞かれることなく寂しく消えていった。
―――――――――
「少し休憩しましょうか?」
ミズナさんの提案によりいったん休憩することになった。
オクタムさんは馬たちに水をやりに行った。
僕とエミリは焚火の準備だ。
ミズナさんは……カレンを眺めてる。
「エミリ、食材と鍋出して」
「はい」
エミリはアイテム袋から食材と鍋を出して渡してくれた。
僕は食材を受け取り、少しばかりの調理を行う。
「簡単だけど昼食にしようか」
出来たスープを仲間とオクタムさんに配る。
「おお、すまんの。では、頂くかの」
みんなが、食事をしだしたら、僕の隣で欲しそうに見ているカレンがいた。
「食べる?」
聞くと、頷くカレン。
「そうだ、昨日の夜にカレン用に食事セット作ったんだ」
僕は皮袋から小さなケースを取り出し、カレンに渡す。
カレンは、受け取ったケースを開けて、中の物を見て嬉しそうに手をたたき、みんなに見せて歩き出した。
オクタムさんやエミリは微笑ましそうにみていたが、
一人だけ危ない目をして見ていたミズナさんが居た。
カレンから皿を受けとり、スープをよそってあげる。
カレンは皿を受け取り、小さなスプーンで食事を始めた。
「しかし、信じられんの。 このちっこいの」
オクタムさんはカレンを見ながら言った。
「このちっこい体であの速さ、しかも食事もスプーンで食べる。本当に従魔なのか?」
「はい、従魔ですよ。髪にリボン付けてるし。ミズナさんが付けてくれたんですよ」
そう言って僕はミズナさんを見ると、
いつの間にか手帳を持ってニヤニヤしながらカレンを観察して、
手に持った手帳には“ラブリーカレンちゃんの観察日記 10冊目”と書かれていた。
「カレンはこれでもゴーレム何ですよ」
「なんと! 驚いたの、ゴーレムなのか!」
「儂の知っているゴーレムとずいぶん違うの」
オクタムさんはカレンをましまじと眺めた。
「そうなんだよ! カレンはきっと特殊個体なんだよ!」
エミリも話に加わった。
「ゴーレムって普通走らないよね!」
「走らんのぉ、以前護衛に来てくれた冒険者がゴーレムを連れとったが、歩みが遅くてな」
僕は再びカレンを見た。
お皿とスプーンを綺麗に拭いて、ケースに仕舞い込んでいた。
その横には目が血走り、鼻息の荒いミズナさんが怖い。
「もうひとっ走りすれば村に着くぞ。また勝負するか?」
オオクタムさんからの挑戦状だ。
「もちろん! 受けて立つよ!」
やはりそうなるのね。
カレンも、準備運動始めたよ。
「ミズナさんは?」
「私は馬車の護衛です」
急に仕事顔になったよ——。
「マルクも参戦ね! 決定!」
「え? 決定なの!?」
僕たち馬車の護衛だよね?なんで競争するのさ。
オクタムさん、エミリ、カレン。
やる気満々だ……。
僕は諦めて参戦する事にした。
「ミズナさーん! 合図お願いね!」
エミリがミズナさんに頼んだ。
「しかたたりませんね。では、合図をします」
「位置について!」
僕らは横一列に並んだ。
馬車、エミリ、カレン、僕。
「よーい……」
馬二頭は次は負けねーぜとエミリを睨む。
エミリもまた、負けないよ! と馬を見る。
カレンもまた前だけを見つめて集中している。
僕? 体力お化けに勝てるわけ無いじゃん!
「どん!」
競争が始まった。
土煙が舞い、馬車と二人の姿がはるか先に見えた。
スタート直後から僕だけ取り残された。
僕は僕のペースがあるさ——。
遠くにヨロヨロ走る馬の影があった。
「ずいぶんと離されたわね……ん?」
馬から降りた人影は、懐から遠見の筒を取り出し覗き込んだ。
「どういうわけであの男が一人でいるか知らないけど、チャンスね」
もはやヨレヨレの馬にまたがり、近づこうとする——が、
近づかない。
「この男、走る速度が速いのか?」
遠見の筒を覗き込みながら走る。
「ん、何を見ているんだ?」
男の向いている方を見ると、木に果実がなっていた。
「あそこで休むつもりか! 好都合だ!」
筒を覗き込みながら近づいていく。
男が腰から何かを取り出し、果実の方に向かって何かをしたら——
果実がポトポト落ちてきた。
走りながらそれを拾い上げて、休むことなく走り去って行った。
「ちよっ! 休まないの!?」
慌てるが、馬が限界を迎えたようだ。
「仕方ない、ここから自分で走るしかない。
何とかなるだろう」
男の後ろを走って追いかける。
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「ゼェ……ゼェ……ゼェ……まっ……まって……」
自分も体力には自信があった……あったのだが
追いつけない——。
「おかしいだろ! ずっと同じ速度で走り続けるなんて! しかもあいつ! 息すら乱していなさそうだし!」
思わず叫んでしまった。
遠見の筒を覗きながら、何とかついて行く。
そろそろ、予備の水まで無くなる……。
あいつはさっき採っていた果実を美味そうに食べながら走っている。
「あ、ああ……それ一口ください……」
筒を覗きながら果実を凝視して、思わず声に出していた。
予備の水袋も、中はすでに空となっており、いつまで続くか分からない追跡を強いられた、諦めればどれだけ楽か——だが、プロとしての意地か矜持か、それらが邪魔をしていた。
「ま……、まってください……」
追っていた男はいつの間にか、視界から消えていたのだった。
日も随分と傾いた頃、僕は村の入り口手前で休憩しているみんなを見つけた。
「やっと追いついたよ、みんな速すぎ」
「マルク、おそーい」
「あんちゃん、ホントに遅いのぉ」
オクタムさんまでほっほっほっと笑っていた。
「マルクさん、お疲れさまで……す?」
「ミズナさん、どうしました?」
ミズナさんが不思議そうな顔をして僕を眺めるて言う。
「いえ、息が乱れたりしていないんだなと……」
「マルクはね、昔から息上がったりしないんだよ」
「……え?」
「特訓してても先に体力が無くなって倒れるんだもん」
「待ってください。何ですか? そのおかしな体質は」
まるで変なものを物を見る目で僕を見る。
「え? 普通でしょう? 普通だよね?」
しかし、長距離を休みなしで走ったせいか、
体力的に限界が来ていたみたいで、
ガクン——。
「あれ?」
そのまま膝から崩れ落ちた——。




