21話 やばいやつら!
「お! オクタムじゃねーか! 久しぶりだな」
「なんだ、お前まだ生きてたかよ! わははは」
「そうそう。アルナートとトリナノの間に居た盗賊は儂の護衛さんがとっ捕まえてくれたぞ」
「ほんとか? それは助かる」
「俺たちもそこを通るから助かるぜ」
「おうよ! 今、俺の護衛に就いてくれてるのが、噂の最強剣士さまだぜ!」
「お、お前、凄いやつ雇ったな! うらやましいぜ!」
「なに、行先が同じなだけだぜ」
「いや、それでも羨ましいぞ」
「しかも、かわいい嬢ちゃんと美人さんが一緒だと! けしからん!」
「まったくだ」
「うちの護衛によこせ!」
行商人たちは面白いくらいに話が盛り上がっている。
僕たちも、依頼主から離れないように少し後ろで休憩をしていた。
「おじさんたち楽しそうだねー」
「エミリさん、楽しそうに話していますが、こういう時に情報交換もしているんですよ」
「そうなんだ」
「ミズナさんは結構詳しいですよね、そういうの」
「それはそうです、元Aランク冒険者でしたからね」
僕とエミリは、その言葉に仰天した。
「え……Aランク様でしたか……」
「す、すごいね……私なんかより強いんだよ、きっと」
エミリの言葉に、ミズナさんが考え込んでしまった。
「あれ? そういえばカレンはどこ行ったんだ?」
「そういえば居ないね」
「それはいけません!! 探さねば!! きっと迷子で私が来るのを待っているはず!!」
ミズナさんが走ってどこかへ行ってしまった。
「エミリ、ミズナさんってさ、カレンの事になるとすごく変になるね」
「うんうんわかる、わかるよ! ミズナさんの気持ちが!」
おや? おかしいの僕なのかな?
休憩所から少し離れた高台。
そこに一人の影があった。
それは、ずっと休憩所を眺めている。
カサカサカサ
休憩所から小さな影が、草むらをかき分け走って行く。
高台の影は小さな異変に気が付きすぐさまこの場を離れた。
少し遅れて小さい影が高台にたどり着いた。
それはカレンだった。
カレンは辺りを見渡し、影が逃げた方角に顔を向けて、
うっすらと開けた目から赤黒い光を放つのだった……。
「カレンちゃあああああん!!!」
悲鳴にも似た声が休憩所の方から一直線に高台めがけて走ってくる。
その声にカレンはびくつき、声から逃げるように走り去っていくのだった。
人影は、走りながら感じた事を思い返していた。
(あれはいったい何だったんだ……敵意……いや、違う……もっとおぞましいものだった……)
(……今日は任務の遂行は無理だな)
影は闇夜に消えていく——。
長らく続いていたオクタムさんたちの話も終わり、みんなそれぞれの馬車付近のテントに戻っていった。
「おお、すまんな話に花が咲いちまってな」
「かまわないですよ」
「そうそう、私たち仕事だもん」
「そうか? あれ? あのお嬢ちゃんは?」
「ミズナさんは……」
「きっとお花摘みだよ」
「そ、そうか。 ならいいが」
「では、引き続き頼むよ」
「はい」
「オクタムのおじさん、おやすみー」
「さてー、みなんも寝るみたいだし、僕のお楽しみタイムだな」
「またやるの? すきだねー」
「なにを言うか! これは僕の生活の一部なんだよ!」
僕は吹き矢を取り出し人の居ないほうの木に向かって吹き矢を吹いた。
バンッ!
木に穴が空く音が、周りに響き渡った。
「なんだなんだ!」
「夜襲か! 敵はどこだ!?」
「みんな起きろ!」
「ご主人を守れ!」
「お前たち大丈夫か!?」
みんなが慌てて起きだし、いつでも戦闘が出来るように身構えている。
どどどど、どうしたんだみんな?
僕? 僕なのか? 吹き矢で木に穴開けただけじゃん……。
慌てて吹き矢を隠す僕。
僕が穴を空けた木の方から人影が現れた。
みんなが一斉に身構えると。
ミズナさんが泣きながらエミリに抱き着いた。
「エミリちゃああん! カレンちゃんが見当たらないおおお!」
えぐえぐ泣くミズナを見て、みんなが勘違いをしたようだ。
「なんだ、びっくりさせるなよ」
「人騒がせな」
「気を付けてくれよ」
「すみません、すみません」
とりあえず謝っておこう。
……でも、僕じゃないよね。ミズナさんのせいだよね?
内心びくびくしている僕だった。
ミズナさんとエミリがあの状態なので、見張りは僕が先にやる事にした。
「エミリ、ミズナさんのこと頼むね」
「うん、わかったよ」
僕は焚火を前に夜空を見上げる。
星がきれいだな……
カサカサカサ
草むらから何かが出て来た。
僕は驚いて座りながら転んだ。
出て来たものはカレンだった。
カレンは僕の顔の所まで来ると、僕の頭をポンポンと叩くのだった。
「びっくりした、カレンだったのか」
カレンはこくりと頷いた。
僕は体を起こして座り直し、
カレンを手に持ち焚火の前に座った。
「なにか面白いのあったの?」
僕は気になったので聞いてみた。
カレンは一度首をひねってから、横に振った。
「そっか」
この時僕は気が付かなかった——。
僕の後ろ姿を見ている人たちが居たことを——。
結局この夜は、僕が徹夜をして見張りを行った。
エミリもミズナさんも起きてこないんだもん……。
朝になり、僕たち以外の人が、遠巻きに僕の事を見ていた。
どうしたのかな?
「な、なぁ最強の」
「それ、僕の事?」
「あ、あぁ」
なんだろうこの歯切れの悪い護衛の冒険者たちは?
「昨日の夜な、俺たち見ちまったんだよ」
「なにをですか?」
「お前が人形を抱いて一人でブツブツ言ってるのをさ……」
「なにか悩みがあるなら今のうちに聞いておくぞ?」
「はぁ? な、なんですかそれ?」
僕は驚いた、何でそんなことになっているのか。
そもそも人形なんて持っていないし、ブツブツいってませんよ?
「え、えと、なにかの間違いでは?」
「間違ってないぞ?」
「俺たち後ろから見ていたからな」
「うしろから?」
本当に訳が分からない。
「まぁ、なんだ何もないんだったいいけどな」
「あぁ、そうだな」
「そっとしておこう……」
「悪い! 時間取らしちまったな」
「お前たちも気を付けて行けよ。俺たちももう行くからな」
なんか分からないけど。
「気遣いありがとう? そちらも気を付けて……」
なんかしっくりこない。
なんでだ。
馬車はドラボテ村へ移動を開始した。
ミズナさんは朝になり正気を取り戻したらしく、
昨晩の失態を謝ってきた。
まぁ、いいけどね。
カレンは今エミリの頭の上につかまり馬車の屋根の上に座っている。
「この辺りは昔から何もないよねー」
エミリは懐かしそうに話してくる。
「エミリはここまで来たことあるの?僕知らないけど」
「うん、たまにお家からここまで走ってきてたよ?」
「ちょっと待ってください!」
僕とエミリの会話にミズナさんが割り込んできた。
「オクタムさん、ここからドラボテ村まで、あとどのくらいですか?」
ミズナさんがオクタムさんに聞いてみた。
「そうだのー、馬車で四日ってところだな」
ミズナさんは何かを思い出したかのようにエミリに訊ねた。
「エミリさん、ちなみにここまではどうやって来たのですか?」
「ん?もちろん自分で走って来たんだよ! 結構遠いから休み休みだけどね」
「なるほど、なら一週間以上はかかったのですね?」
「何言ってるの? 朝から走ってきて夕方には家に帰ったよ?」
ミズナさんが固まった。
エミリならやりそうだ。てか、もうやっていたのか。
「ほうほう、嬢ちゃんは走るのが得意なのかな?」
「思いっきり走るの気持ちいいもん! 好きだよ!」
にこにこ笑うエミリ。
「ほほう……ならこの馬車と競争してみる気はないかな? まぁ、勝てんじゃろうがな」
がははと笑うオクタムさん。
やめて……エミリが本気にする。
「その挑戦! 受けて立つよ! おじさん!」
遅かった。
オクタムさんの隣に降りてくるエミリ。
そして、頭の上にいるカレンもオクタムさんに指を向けて勝負を受ける仕草をしていた。
どうしてこうなるの?
誰か教えて——。




