19話 そんなのでいいの!?
朝、僕は目を覚ましてから、ベッドを降りて部屋の窓を開け、空気を入れ替える。
「今日から護衛依頼だ、頑張ろう」
ベッドの上のカレンを見るとまだ寝ているようだ。起こすのはかわいそうだけど、起こさないとね。
顔を洗って、装備を身につけながら「カレンそろそろ起きて。仕事に行くよ」と声をかけた。
バンッ!
扉が勢いよく開いた。
「マルクおはよう! 今日から護衛依頼だね! 久しぶりの村だよ!」
「そうだね。みんな元気にしてるかな?」
そう。依頼先の村は僕たちの生まれ故郷であるドラボテ村。
「あれ? カレンまだ寝てるの?」
エミリがカレンに近づいて起こそうとした。
「!?」
エミリから変な声が聞こえた。
「どうしたの?」
「カ、カレンがどこかに行っちゃった?」
「え?そこにいるでしょ?」
「私、こんな人形知らない!!」
なにを言ってるんだと思い、カレンの近くに寄ってみると——
「なに? このかわいい人形? え? カレンはどこいったの?」
「この人形、マルクの趣味?」
「違うよ!」
僕とエミリが騒いでいると、人形がゆっくりと起き上がった。
僕とエミリはその人形をじっと眺めた。
……。
もう一度眺めた。
「ね、ねえ、聞くけどあなたカレン?」
エミリがびくびくしながら聞いてみると——
元気いっぱいに頷き返した。
僕はカレンの顔を指でつついてみた。
「え?やわらかい。人のほっぺみたいな感触……」
「うそ!」
エミリもカレンをつついてみた。
「ほんとだ、やわらかいね」
僕とエミリは何がなんだか分からないから、考えるのやめたよ。
「カレン、着替えてね、仕事行くから」
カレンは頷いて着替え始める。
僕はいつもみたいにその着替えを眺めていて、気づいた。
「エミリ、カレンのさ、関節が見えないんだけど」
「うん、ないね。昨日お風呂入ったときは人形そのものだったのに」
「進化したんだね」
「進化かー」
僕たちは黙り込んだ。
——カレンだし、まぁいっか。
朝食を取りに食堂へいくと、おばちゃんに会った。
「今日から仕事で出ていくんだろ? 朝飯ちゃんと食っていきな。あとお昼も用意してあげるよ」
「ありがとうございます。あとこれ、部屋の鍵を返しておきます」
僕とエミリは部屋の鍵をおばちゃんに返してから食堂へ向かった。
朝からガッツリした料理が出された。
僕たちはそれらを頂いた。
カレンをみると、昨日までの食べ方と違い、小さいスプーンにちょこんと乗せた料理を口に運んでいる。
小さいといっても、僕たちから見れば大皿に一口分の料理をのせて食べるようなものだけどね。
「食べ方が上品になってる」
「昨日まで手づかみだもんね」
「びっくりだよ」
「本当に……でも食べづらそうだな……」
僕は後でカレン用に食事用の物を揃えてあげようと思った。
宿を後に僕らは待ち合わせの場所へと向かった。
「待ち合わせは街の西口だね」
エミリが走り出していく。僕も後を追って走る。
西口には多くの馬車が並んでいて護衛の冒険者たちや商人、一般の乗客などで賑わっていた。
「あ、いた! マルクさん」
後ろから僕を呼び止めたのは受付のミズナさんだった。
「あれ?ミズナさんはギルドの受付はいいんですか?」
「大丈夫ですよ。暇そうなマスター置いてきましたから」
え?ミズナさんてマスターより権力あるとか?不思議な人だ。
「で、僕たちになにか?」
「あ、えと、マルクさんではなくてですね、カレンちゃんにお別れの挨拶を!」
ミズナさん、カレンのことがすっかり気に入ったみたいだね。
「カレン、ミズナさんが挨拶したいって」
僕の肩に乗っているカレンに声をかけると、
カレンがゆっくりミズナの方に向く。
「あれ?カレンちゃんは?」
「いるじゃないですか、ここに」
そう言って僕は肩に座っているカレンを指さす。
「カレンちゃん?」
カレンはこくりと頷いた。
ミズナがしばらく黙り込んでもう一度カレンを見て言った。
「マルクさんは酷いです。カレンちゃんに合わせたくないからってこんな人形を操ってごまかすんですか?」
「いえ、この子がカレンなんですよ」
「私の知っているカレンちゃんじゃありません」
エミリがミズナさんとカレンを交互に見てから
「ミズナさん、本当にこの子カレンだよ? 今朝、進化したんだよ?」
エミリの言葉に目頭を押さえるミズナさん。
「エミリさん……何を言っているのか分かりませんが、今までゴーレムが進化したという実例はありませんよ」
「でも、カレンは本物の人形みたいになってるじゃん?これはもう進化だよ!」
「……ちょっとギルドに戻って調べますよ」
僕も一言言っておこう。
「ミズナさん、僕たちこれから護衛でドラボテ村に行くんで、戻るのいつになるか分かりませんよ?」
「!!」
「マルク、護衛する馬車、あれみたいだよ。行こう」
若干放心状態のミズナさんを置いて馬車の所まで行った。
僕たちは馬車の所まで行くとエミリが、
「あれ、御者のおじさんだ!」
「お! 新人研修時のお嬢ちゃんか。」
「エミリ、知り合い?」
「うん。マルクが休んだ時、新人研修を受けたときにダンジョンまで送ってくれたんだよ」
「そうなんだ。あ、ドラボテ村までの依頼で来ました、マルクとエミリです。あと、従魔のカレンです」
「おお、ご丁寧にどうもありがとな。まさか、最強剣士と噂のマルクさんが護衛なんて、嬉しいじゃないか!」
がははと笑う御者さん。
「おっと、自己紹介がまだだったな。 儂が依頼主のオクタムだ、よろしくな」
オクタムさんはカレンを見ながら、
「ほぇーちっこいの、従魔だったのかよ! こりゃ驚いた」
「ドラボテ村までよろしくな。こっちはいつでも出発できるが、二人とももういいかな?」
僕が返事をしようとしたら——
「ちょっと待ってください!!」
息を切らせながら、ミズナさんが待ったをかけた。
「依頼なのはわかります! 出発時間厳守なのも分かります! ですが、少し待っていただけないでしょうか?」
「ミズナさんどうしたの? 怖い顔して……」
エミリが怯えながら訊ねた。
「今からギルドに戻って私も一緒に行くことを伝えてきます!」
え? そんなことでいいのか受付嬢って? ますます訳が分からない!
「しょ、少々お待ちください!!」
そう言って、もの凄い速度でギルドまで走って行くミズナさん——。
「オクタムのおじさん、どうする?」
エミリがオクタムさんに確認する。
「わしはかまわんが……大丈夫かあの嬢ちゃん……」
御者のおじさんに心配される受付嬢って一体……
「——来ないねー」
エミリが馬車に腰かけて足をぷらぷらさせている。
オクタムはカレンが気になるようでじろじろ見ている。
「気になりますか?」
僕が言うと
「そりゃ気になるだろ! こんなちっこいの!」
カレンは御者さんに手を振ったりしていた。
ズドドドドドドド・・・・・
凄い音が近づいてきた。
なんか大勢の人がこっちに走ってきた!
「まてええええええ! ミズナあああああ! どういうことだあああああ!!!!」
「説明はしましたあああああ!!!」
「納得いかんぞおおおおお!!!」
「納得してくださいいいいい!!!」
「オクタムのおじさん、馬車動かした方がよくないですか?」
エミリが怯えながら御者のおじさんに話しかけた。
「そうだな、馬車壊されたらかなわんからな」
オクタムさんは馬車を動かし始めた。
「ちょ! ちょっと待ちなさい!!!」
ミズナさんが更に速度を上げた。
「こらああああ!! こんなことしてえええ!!! 首にするぞおおお!!!」
「なら、また冒険者にもどりますうううううう!!!!」
訳がわからないよ……
ミズナが馬車の屋根に飛び乗り、激しく肩で呼吸をしている。
その顔はとても凝視できないほど恐ろしいものだった……。
「いいのか? お嬢ちゃん。」
「かまいません! 行ってください!」
もはや僕とエミリは蚊帳の外だった。
「ギルマス、行っちゃいましたね・・・・・」
「ああ・・・・・」
「もうすぐ王都から調査団来ますよね・・・・・」
「ああ・・・・・」
「どうすんですか?」
「・・・・・ああ」
ギルマスは涙を流した……。
(ミズナ、ギルドの受付は首だ!!)
ゴーレムに惹かれ過ぎた受付嬢の末路であった——。




