14話 夢じゃない!
受付嬢のありがたいお説教を受けた僕たちは解放され、それぞれの仕事に戻っていった。
僕はもちろん、エミリは元々調査メンバーには含まれていなかったため、受付嬢の護衛という形でこの場に留まった。
「エミリ、なんでこんな所まで来たの?」
「マルクがこんな面白い手紙残すのが悪いんだよ!」
エミリはアイテム袋から紙を取り出し、僕に見せた。
“ 子供が怖いです
探さないでください
マルク ”
「なにこれ?」
思ったことがそのまま口から出た。
「マルクが書いたものでしょ? なに言ってるの?」
……僕は必死に記憶を探る。
あれ?でももう少し内容はハッキリしていたような……
〔 “ 子供たちが僕の罰ゲームとして、ダンジョンに行くことになりました。怖いですけど、早く帰るから探さないでください。 ”
これを簡単に書いておけば大丈夫だよね? 〕
「思い出しました……僕の考えた文章を“ 簡単 ”に書いたんでした……」
話を聞いていた受付のお姉さんが深いため息をついた。なんで?
僕たち以外の冒険者たちが倒れているゴーレムを調べている。
魔法使いの人が魔法を使ってゴーレムの額の辺りの地面を掘り起こし、宝石を取り外すようだ。
その作業を見ていたら受付のお姉さんが僕に質問してきた。
「マルクさんはどうやってこのフロアに入ってきたのですか?」
「そうですね、上の階の壁が崩れていた所に横が開いていた宝箱がありまして、その蓋を開けたら床が傾いてここまで滑り落ちて来たんですよ」
そう言って僕が出てきたであろう穴の方を指さした。
穴はゴーレムが暴れていてすでに崩れ去っていた。
「そうですか、ひょっとして未だに解明されていない罠が、上にあるかもしれませんね」
「そうなんですか……」
受付のお姉さんは何やら考え込んでしまった。
「あ、そうだ。エミリ、これなんだけど鞘に入ってるから剣みたいなんだけど見る?」
「え? 剣? 見る見る」
僕はエミリにさっき拾った細身の鞘に入った剣を渡した。
エミリが剣を手にして眺めている。
そしてゆっくりと鞘から抜いてみた。
受付のお姉さんがそれを見て
「随分と珍しいですね。カタナなんて」
「カタナって言うんですか?これ」
僕は聞き返した。
「はい、今ではかなり珍しいんですよ。作れる人が少なくなってしまって」
「そうなんですか」
僕は刀を見ているエミリに視線を戻した。
「特に変な感じとかしないね。なんかね、手に馴染むっていうか、落ち着くっていうか……そんな感じがするの」
そういってカタナを軽く振りだした。
上から下へ、下から右へ、
再び前に構える。
「マルクさん、エミリさんはカタナを振ったことがあるんですか?」
「いえ、見たことはありませんね。僕もエミリもカタナを見るの初めてですよ」
「そうなんですか。それにしては随分と様になっていますね」
エミリがカタナを鞘にしまい、壁の方に向かって抜刀の構えをして——抜く。
キーン——
カタナの甲高い、心地よい音色が辺りに響いた
ゴトン——
ゆっくりと壁が崩れた。
受付のお姉さんが目を見開いているよ。どうしたのかな?
「エミリ、どう?」
「……気に入った……気に入ったよこれ!」
「そう?ならそれエミリが使いなよ。僕じゃ使いこなせないから」
「いいの!? ありがとう!」
エミリとそんなやり取りをしていたらいつの間に周りに冒険者の方々が集まっていた。
あれ?みなさんもなんか固まっていませんか?
「やべー……あの子もやべー」
「な、なぁこの二人めちゃくちゃやばくないか?」
「お前もそう思うか?」
「私も剣とかの事はわかりませんけど、今までこういうの見たことありません……」
「一人は岩をも切り裂く女の子、もう一人は山のようなゴーレムを一撃で倒す男の子……」
「俺たちは何を見せられているんだ?」
ほかの人も何か言い出したよ。
「あ、そ、みなさん、作業の方は……よ、よろしいのでしょうか?」
受付のお姉さんがみなさんにたずねると、
「あぁ、あのゴーレムから宝石は取り外したぜ」
「それと、ここの調査には人手が足りなさすぎるぜ」
「そうですね、こんな大空洞があるだなんて想定外も想定外です。一旦ギルドに戻りましょう」
受付のお姉さんが判断してみんなそれに従った。
「ねえエミリ」
「ん? なに?」
「なにか食べるもの持ってない? 朝からなにも食べてないからそろそろ限界なんだ」
「ちょっと待ってね」
アイテム袋の中を確認してなにか出してくれた。
「パンだけどいいかな?」
「うん、それでいいよ。ありがとう」
エミリからパンを受け取りかじりつく。
うん、うまい! うまいよ!
そして僕たちは上の階へと戻っていった。
—— 地下三階 ——
台座の所から出てきた僕たち。
「こんな所に階段があったんですか。」
僕は素直な感想を述べた。
「そうなんだよ、鍵を差し込んだら、ゴゴゴって現れたんだよ」
エミリが思い出しながら興奮していた。
「さ、ぐずぐずしていないでさっさと行きましょう」
受付のお姉さんが先を急がせた。
「ん? おい扉が閉まってるぞ?」
「なんだって?」
「来たときは開いていたぞ」
「またですか! このダンジョンに何が起こっているんですか!?」
受付のお姉さんが叫んだ瞬間——
ドゴッドガッゴンッ!! 後ろから壁が破壊されるような音が響いた。
全員が後ろを振り向き、全員が見たものは三体のゴーレムだった。
「気をつけろ! なんか色が違うぞ!」
「どうしちまったんだ! このダンジョンは!」
「戦闘準備急げ!」
みんなが戦闘準備をしだしたら、
「私にやらせてー」
妙に明るい声でエミリが前に出た。
「お、おい! 危ないぞ!」
「下がれ嬢ちゃん! 遊びじゃねー!」
そんなみんなの心配を他所に走り出した。
エミリが素早く動き、ゴーレム三体に接敵した瞬間——視界の中で、彼女の姿が一瞬ブレた。
エミリの攻撃は終わった——
しかし周りはそうは見えなかった。
何もせずにただ通り過ぎて行っただけだ。
エミリが戻ってきた。
ゴーレムはこちらに動いてくる。
「あぶねーじゃねーか!」
「死んだらどうする!」
「来るぞ!」
ゴーレムが次の歩みを進めたら——
音を立てて崩れていった。
一同が目を見開き、なにが起きたのか理解できず、エミリに首だけを向けるのだった。
「マルク! 凄い切れ味だよ! これ! バターでも切ってるみたいだったよ!」
満面の笑顔で語るエミリ。よかったね。
ガコンッ
音と共に扉が開いた。
しかし、みなさんが動きません。
一同「なんだそりゃああああ!!」
びっくりした……いきなり大声出さないでよ。
受付のお姉さんも、フラフラしながら扉を潜り抜けて先に行ってしまった。
「エミリ、受付のお姉さんがフラフラしてるぞ、大丈夫かな?」
「ミズナさんが? ほんとだふらふらだね」
「ミズナさん? 誰それ?」
「ミズナさんはミズナさんだよ。受付のお姉さん」
「へー、ミズナさんって言うんだ。初めて知ったよ」
後ろを振り向いてみると他のみなさんもぎこちない動きでこの部屋を出ていき始めた。
「みなさんお疲れなのかな? 僕もへとへとだよ」
「じゃあ、早く戻ろう」
ニコニコ笑顔のエミリだった。
地上に出るまでは特に何もなかった。
辺りはすっかり暗闇に包まれている。
近くに駐屯している兵士舎があるのでみんなそこで休ませてもらうこととなった。
疲れているのか誰も何も言わないで休んでいる。
僕も眠くなったので椅子に腰かけながら眠りについた。
翌朝、みなさんすっきりした顔で起き始めた。
でも、なんだろう……みなさん、なんか変な感じになってますよ?
気のせいかな?
「あああ! やっと街に帰れるよ!」
「昨日は大変だったよ」
声を出しながら背伸びをしている僕。
「マルクさん、おはようございます」
「おはようございま……ん?」
受付のミズナさんだっけ? なんか目の焦点があっていませんよ? 大丈夫かな?
ほかの人を見てみると——
「嬢ちゃんがゴーレムをバターみたいに斬っちまう夢を見たぜ」
「俺も見たぜ」
「俺もだ」
「私も、疲れてたのかな?」
「俺もだ、なんか嬢ちゃんがブレるんだよ」
「なんだかみんな疲れてたのかな」
「気のせいだろ」
「マルクー! そろそろ馬車くるって! みんな呼んで来てって兵士の人が言ってたよ!」
「わかったー」
「みなさん! 馬車来るそうですよ、帰りましょう」
一同「かえろかえろ」
表に出たみんなが見たのは木材を斬撃で切ったり、何本かの木材を一瞬で粉々にしているエミリだった。
一同「夢じゃねええええええ!!!!」




