13話 お説教!
もうどうにでもなれ!
僕は飛び降りた——が、すぐに岩をつかみ這い上がった。
やっぱ怖いよ! もうね、これね自殺行為よ!
相手の弱点を思い出しても、この位置からでは届かないことを理解している。
……なんでこんなことになるんだよ! 泣きたいよ!
泣いてるけど!
もう一度だ……ゴーレムが下に来た! やるなら今だ! 覚悟を決めろ!……勘弁してよ。
あ、俺のあほ……チャンス逃した……。
下を覗いていると、ゴーレムが下をぐるぐると回りながら暴れだした。
なんかこっちをちらちら見ている感じが嫌すぎる。
ゴーレムがさらに暴れだす。僕は身を乗り出していたせいで——落っこちた。
「うわああああああああああ!!!!」
悲鳴を上げながら下を見ると、ゴーレムがね、
両腕を広げてウェルカム状態なんですよ!
やけくそです!
僕は剣を下に向けて剣に仕込まれている吹き矢を、いつでも撃てる状態に姿勢を正した。
「マルク!!」
……幻聴?いや、そんなことより今は——
ゴーレムは僕を潰そうと両腕を振り上げた。
――――――――
ミズナたちは見た!
小さな英雄が雄叫びを上げ、
巨大なゴーレムへ剣を構えて飛び降りる——
その後ろ姿を!
―――――――――
息を大きく吸い込む。
——外すな。
剣に仕込まれた石玉を——、額の宝石へと狙いを定めた。
この距離なら、僕の方が速い!
集中だ、集中しろ!いつもみたいに!
いつもの的みたいに!!
——ここだ!
ありったけの力で、
——吹いた!
バキン!!
ゴーレムの額の宝石にひびが入り——、
砕け散った。
ゴーレムの両腕は僕のすぐ近くで動きを止めた——。
僕は落ちていく。
「あわわわわわ」
ガッ!
剣をゴーレムの体に突き刺すが、落下速度が速いのか止まらない。
しかし、落下の速度は落とせたみたいだ。
ドサッ……
僕は地面に背中を打ちつけた。
「いててて……」
身を起こし前を見るとそこには破壊された扉の前に、エミリと多くの冒険者がそこにいた。
僕は立ち上がり、よろよろと歩き出した。
みんなが何か叫んでる。
よく聞こえないけど、僕は手を振って歩く。
パラパラ……
なにかが上から降ってきた。
気にしないで歩いていると、みんなの声がようやく聞こえてきた。
しかもなんか後ろを指して慌てている。
僕は首を傾げて後ろを振り返ると——、
ゴーレムがこちらに向かって倒れてきているじゃありませんか。
などと呑気に言ってる場合かああああ!!!
「あわわわわわわ!」
僕は走った。全力で!
猛ダッシュ!
迫るゴーレムの巨体!
「うおおおおおおおおお!!!」
倒れてくるゴーレムを見上げ、雄叫とも悲鳴ともつかない叫びを上げながら走った。
少しでも遠くに離れるため——
ゴーレムが、地面に接触し、
ドオオオオオン!!!
地面が大きく揺れ——
僕は倒れた。
土埃が舞う。
辺りは静寂に包まれた——。
誰もしゃべらない。
土煙が消えていく。
僕は足元の方をゆっくりと見ると、
ゴーレムの頭がすぐそこにあった。
もう少しで僕、潰されていたのね……
「おおおおおおおおおお!!!」
突然の歓声!
僕は驚いて声の方を向くとそこには先ほどの人たちとエミリがいた。
立ち上がろうとした時に、横に見慣れない剣が落ちていたので僕はそれを拾い上げた。
エミリが僕に近づき、僕の近くにしゃがむと、
「ずるい! マルクずるい! 一人で遊んでるなんてずるい!!」
エミリ?君はなにをいっているのかな?
ほら、みなさん黙り込んだよ?どうすんのこれ?
「ちょ、ちょっと待ってエミリさん? どうして、どうしてエミリがここに? それに他の方々は?」
「それについては私から説明をさせていただきます」
あ、受付のお姉さんだ。
「あ、はい。お願いします」
それは昨日の試験からダンジョンに異常があったらしい。それで今はダンジョンが閉鎖状態になっているとか。
そんな時に僕がダンジョンに入ったとエミリから聞いたらしい。
そして今に至ると、そういうことだった。
「しかし、マルクさんがなぜ、ここであんな化け物と戦っていたのかはわかりませんが。しかも、エミリさんが言うには遊びで相手をしているなんて、さすがとしか言いようがありませんね!」
なんだって? なんか言葉おかしくない?
ほら、周りの皆さんもなぜか僕をキラキラした目で見始めてるんですが……
「さすが水虫剣士だ!」
「ああ! 俺たちももっと頑張らねーとな!」
「ああ! いい目標ができたぜ!」
「今度今までの話を聞かせてくれよ! 水虫さんよ!」
「おごるぜ!」
「俺たちの英雄様だぜ」
僕は開いた口が塞がらなかった……
「いやいやいや、待ってくださいよ! ここ何なのか教えてもらえます? 僕もわからないんですけど」
「そうですね、ここは初心者ダンジョンの隠しフロアとしか今は言えませんね。こちらも色々調査しないといけませんから」
「はぁ、そうなんですか……あ、そうだ! 僕頼まれたもの見つけられなかったんだ……」
「頼まれたものですか? それは一体……」
「なんかこのダンジョンに置いてある木の札というものが欲しいといった子供たちがいたので」
「……それはいけませんね。ぜひその子供たちに会わせていただけませんか?」
「あ、私も知ってるよその子たち」
エミリが話に加わる。
「冒険者になりたいんだって言ってたよ。わたしギルドに話しておくよとは言ったけどね」
「その子供たちは、後でギルドに呼びましょうね——」
受付のお姉さんの目つきが鋭くなって、エミリが怯えはじめた。
受付のお姉さん怒ってる?
「まあまあ、今は水虫剣士を称えようじゃないか! こりゃ一気にSランクになるんじゃないか?」
「ちがいねぇ!」
「ははははは」
ダンッ!
受付のお姉さんが足で思いっきり踏みつけたよ——地面が少しへこんでますよ。
「あなた達は何を言っているんですか!!」
あれ? ものすごく起こり始めましたよ?
怖いんですけど! エミリなんて僕の後ろに隠れましたよ?
「みなさん! そこに座りなさい!」
「なんでだよ? 別に悪いこと言ってるわけzy……」
「だまりなさい!!」
受付のお姉さんの怒りがピークに……。
冒険者の方々が一斉に受付のお姉さんの前に正座した。もちろん僕とエミリも。
「いいですか? 軽々しく低ランクからSランクにあげるなどと言わないでください! これは初心者講習で習っているはずです!」
誰も何も言えない。
「はぁ……まさか、みなさん忘れているんですか? いいでしょう、思い出させて差し上げます」
なんかスイッチ入っているんですけど。
「飛び級制度があったのは、もう過去の話です! なぜだかわかりますか? はい! そこの魔法使い君、答えてください!」
「す……すみません、覚えていないです……」
「はぁ……いいですか?」
ミズナさんは額を押さえてため息をついた。
「過去に、強さだけでSランクになった人たちがいました。でも、その多くがどうなったと思います?」
「女性を囲って好き放題。Sランクを盾にして、やりたい放題です」
「……その結果、ギルドも国も大混乱。後始末にどれだけ苦労したか」
「そもそも、ランクを上げるのには理由があるはずなんです。それを忘れて、力だけ振り回すなんて――」
「本当に、ばかげています」
みなうつむいて聞いているしかない……
まだ話が続く……の?
「ランクを上げるというのは、ただ強くなるだけじゃありません」
ミズナさんは指を一本立てた。
「人としての成長でもあるんです。……つまり、周りからの信頼ですね」
「ランクに応じて、任される仕事も変わります」
「例えばBランク。ここからは平民相手だけじゃなく、大きな商会とも関わるようになります」
「さらに上——Aランクが見えてくる頃には、貴族の護衛を任されることもあるんです」
一歩、こちらに詰め寄る。
「だから、この段階が大事なんですよ」
(まだ続くの?……長いよ)
「何も知らないまま、低ランクからいきなりSランクに——そんなの、強いだけで中身がありません!」
ミズナさんの声が一段上がる。
「事故の元です!」
座らせている冒険者をに対し、指を突きつけた。
「しかも、そのような行為をしたギルドも、焚きつけた冒険者も——ちゃんとペナルティがありますからね!」
「依頼報酬は半分没収。ギルドも売り上げの半分を国に徴収されます」
「……それが一年間です」
一息いれて、じっとこちらを見る。
「——わかりましたか?」
一同「は、はい」
「よろしい。あのゴーレムだけでも調べて帰りますよ。今後の対策をしなければいけませんから」
一同「……」
「はい! 立った立った。お説教はおしまいですよ」
僕にも少しはあった勝利の余韻が、お説教タイムにすべて持っていかれた……。




