12話 希望と絶望です!
ミズナたちが地下2階にたどり着くと、地面が揺れた。
ゴゴゴ……
「今の揺れは……下からだな」
レンジャーの一人が地面に耳を当てながらこちらに向いて言う。
「このダンジョンで何が起きているの……」
先行していた女性のレンジャーが報告する。
「この先、左側の通路の罠が作動していたわ。引き返した跡が見られるわ」
「あと、さっきから揺れる間隔が短くなってきている感じがします」
その報告に、ミズナが不安げに呟く。
他のレンジャーの方々が床や天井、壁を注意深く調べながら進んでいく。
壁を調べていた人が気になる物を見つけた。
「この裂痕はなんだ?……ただの傷とは思えない……」
「お!お前も似たようなもの見つけたのか?俺も向こうで似たような裂痕を見つけたぞ」
「斬撃の跡?いやいや、それにしては綺麗すぎる」
「なら魔法か?魔法ならどんなのか……わからない」
レンジャー達の話し声を聞いたミズナが二人の所に行く。
「どうしましたか?」
「あ、ミズナさん。……いえね、一階の広間でも似たような裂痕が」
「……この通路に数か所見られたので疑問に思ってたんですよ」
「裂痕、ですか……」
ミズナがその痕を眺めて、昨日のことを思い出した。
(あれ?昨日の試験の時にエミリさんが同じような場所に向かって剣を振っていたような……)
そう思いながらミズナは後ろに付いてきている小柄な少女を見た。
(私の目で見ても、確かに綺麗な切り口に見えますね……普通ならあり得ないとは思いますが、昨日の石像の件もありますし……)
「エミリさん、確認があります。よろしいですか?」
「は、はい。何ですかミズナさん」
「昨日のことですが、エミリさんは広間とこの通路で確か、剣を振っていましたね?」
「あの時は気にしていなかったのですが、理由を聞いてもよろしいですか?」
「あー……、えとですね、新人さんの護衛してた時に何かモンスターの感じがしたから」
「えと、離れたら護衛できなくなると思ったから……」
(え?エミリさん、護衛対象から離れないように見えないところのモンスターを斬撃を飛ばしたってこと!?)
エミリを見ながら驚愕するミズナ。
(エミリさん、本当は凄い実力があるのでは?もしかしたら、私達はとんでもない勘違いをしているのでは……)
「そうですか……、ここは四人程残って調べてもらいましょう。残りは下の階層へ向かいましょう」
—— 地下3階・扉前 ——
「扉が開いてますね……昨日の試験の時、私たちが中に入ったら扉が勝手に閉まり、閉じ込められました。なので注意しながら進みましょう」
時折揺れるダンジョン。
ミズナは腰に下げたレイピアを握りながら、この場にいる十三人を見渡して慎重に大広間へと入っていく。
「扉が閉まる気配は……しないわね」
「凄いな、話には聞いてたけど、石像の残骸で大きさがわかるぜ……」
「この石像……まだ、消えていない――特殊なモンスターみたいですね」
ミズナの言葉に、石像の残骸を見た冒険者たちが、頬を伝う汗を拭う。
「こっちに来てみろ!」
壁に空いた穴の中から、先に調べに入ったレンジャーからみんなを呼ぶ声がしたので見に行ってみる。
そこには昨日まで無かった穴が空いていて、近くには蓋の開いた宝箱が転がっていた……。
「凄いね!昨日こんな穴なかったよ!」
エミリさんも驚いているようだった。
「穴には入れそうですか?」
私が穴を調べているレンジャーの方に訊ねてみた。
「駄目ですね。さっきからの揺れのせいかは分かりませんが、崩れ落ちてますね。」
下の方から響く振動が少し大きくなった気がした。
ズンッズンッズンッ……
「他に下へ行く道はないのかしら……」
「ミズナさん!来てくれ!」
私は呼ばれたので穴の外へ出ると、台座を調べていた別のレンジャーの人がこちらを見ていた。
「何かありましたか?」
「ここを見てくれ、ここに鍵穴が」
マスターから預かった、正確にはエミリさんから貰った鍵を懐から取り出す。
「自分がやりますよ。少し離れていてください」
私はレンジャーの方に鍵を手渡した。
周りにはいつの間にか全員集まっていた。
レンジャーの方は注意深く、慎重に鍵を穴に差し込み、——回す。
カチッ……ゴン……
軽い音が鳴る。
全員が沈黙し、見守るなか、やがて小さな振動が伝わってきた。
ゴゴゴ……ガッコン
台座の床が動き出し、下から階段が現れた。
(……こんな仕掛けが初心者ダンジョンに?)
斥候役のレンジャーが先に降りて、後から剣士や魔法使いが続いた。
私たちも後に続き、階段を降りていった。
一度後ろを振り向いたら、レンジャーの女の子が辺りを見渡してから階段を降り始めてきた。
前を行くレンジャーの人がみんなを止める。
「気をつけろ……近くに何かいる……」
この言葉を聞いて剣士と魔法使いが臨戦態勢を取る。
カラッ……コツン……
私もレイピアを抜いて、いつでも動けるように構えた。
前にいるレンジャーの少し前の壁が崩れてゴーレムが二体現れた。
「ゴーレムだ!」
レンジャーが一旦下がり、剣士が五人前に出た。
魔法使い二人が炎と氷の魔法を詠唱してゴーレムに放つ。
ゴーレムが怯んだ瞬間、剣士五人は一斉に切りかかる。
「くっ!固いな……!」
「弱音か……!」
「言ってろ!」
「次の魔法準備できたぞ!」
魔法使いの合図で剣士たちは飛びのいた。
再び魔法がゴーレムに直撃。
ゴーレムは腕を振り回し、剣士を近づけさせないように動き始める。
レンジャーがすきを見て矢を放つが、相手が固すぎる。
後ろにいたレンジャーの女の子が両手にナイフを持ち、
ゴーレムの足の間に滑り込みながら足を切った。
それを見ていた剣士たちは彼女の後に続いた。
ゴーレムは一体、そしてまた一体と倒れていく。
剣士の一人が女の子に話しかける。
「やるな嬢ちゃん!いい動きだった!」
「……それほどでも」
一言だけ言ってまた後ろに戻っていく。
(彼女……やりますね、でもうちのギルドでは見かけない子ですね)
「怪我した人はいませんか」
僧侶の女の子が戦闘をした剣士やレンジャーの人に確認を取っている。
けが人はいないようですね。
少し休んでから、私たちは下を目指して移動を開始した。
ドンッドンッドンッ……ドンッドンッドンッ……
激しい揺れと音が近くまで来ている。
天井から落ちてくる砂利や砂、みんなは腰を屈めて様子を見る。
「かなり近くまで来ましたね」
私が言うと、エミリさんが何かを感じたのか
「います……マルク近くにいます」
そういって走り出すエミリさん。
私たちも後を追って走り出す。
エミリさんが止まった。
止まった先には巨大な扉が閉まっていた。
レンジャーの人が扉に罠がないか調べ、、
扉は押して開くことを確認し、全員で扉を押してみた。
「ダメだびくともしない」
ガンッ ガンッ ガンッ
中から激しくたたく音が聞こえる。その音のように振動も激しい。
みんなが手をこまねいているとエミリさんが
「どいて」
一言言ってみんなを扉から離して構える。
みんなはエミリさんの行動を不思議に思い見守った。
その時——
≪ 弐閃 ≫
一瞬で二つの斬撃が、鋭利な刃物のように扉を切った。
ズン……パラパラパラ……
見ていたみんなは口を開けたまま黙っていた。
(やはりそういう反応になりますよね……私もなりました。でもこれで確信が持てました。彼女、強いです……)
扉を切り開けたエミリが真っ先に扉をくぐり、呆けていたみんなも中に駆け込んだ。
中に入ると、エミリさんが固まって動かない。そして私たちもその光景で動くことができなくなった。
それはあまりにも現実離れをした光景だった——。
山かと思えるほどの巨大なゴーレムが、同じ場所で暴れまわっていたのだ。
「な……なんですか……この、巨大なゴーレムは……」
私は昨日の恐怖などなかったくらいの絶望が襲いかかってきた。
ほかのみんなも口々に、
「ありえない」
「なんだこれは、人が抗えるものなのか」
と漏らしていた。
その時エミリさんが、
「マルク!!」
一言叫んで上を見ていた。
「上にマルクさんが!?」
私が声を上げると全員ゴーレムの上を見上げた。
そこには雄叫びを上げながらゴーレムに向かって飛び降りた剣士——
マルクさんの後ろ姿があった。




