表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
plus/minus=0  作者: ISOyA
The Double Agent
25/31

The Double Agent 1

3月7日、午前8時10分。


東京都荒川区、町屋。


男は目覚まし時計の音と共に目を覚ました。


-ピピピピ ピピピピ

男はベッドからゆっくりと身を起こした。

30秒ほどマットレスに座り、意識を覚醒させた後、目覚まし時計のスヌーズボタンを押した。


男は大きな欠伸をし、灰色のカーテンを目一杯開けた。まばゆい光が男の視界に飛び込んできた。


若干曇り気味の空。狭苦く並べられている建物の数々。その間からそびえ立つ夥しい数の電柱。その間を複雑に交際する電線。その下を淡々と歩いて行く人々。その全てを男は隈なく、静かに目を通して行った。



40秒程外を観察し、男は再びカーテンを閉めた。再び部屋が薄暗くなった。


20分が経過した。


男はベッドに腰掛けていた。青い目はある物をじっと、一切目をそらさず睨みつけるように見つめていた。


テーブルの上に置かれているそれは縦50cm横80cm程の、大型のアタッシュケースだった。

カバー全体はアルミ製で、鍍金メッキ処理を施されておらず濁った銀色をしている。

ロック部分はチタニウム製で、これは鍍金メッキ処理が施されていた。


男はただじっと、ケースを睨みつけていた。皺を寄せた眉間の左右で青く光るその目は、嫌悪感に満ちていた。



男の携帯が鳴った。







午前10時08分。男のBMW 325iは代々木上原駅の前で停まった。ハザードランプをつけ、男は車を降りた。

北口改札方面A3出口側にあるコインロッカーの前で歩を止めた。ポケットから鍵を取り出した。男は鍵穴に差し込みロッカーを開け、中に入っていた黒いバックパックを引っ張り出した。少なくとも12kgはあるのだろうか、バックパックを引き出すや否や男は下につんのめりそうになった。


男はバックパックを肩に掛けると、速足で駅を出た。


BMWに乗り込み、ギアをDに入れ、車を発進させた。

男はiDriveのコントローラを押し、ナビゲーションの電源を入れた。BMWのロゴと注意事項が数秒間表示され、マップに切り替わった。

男はiDriveを回し、目的地を入力した。


【Park_】


男は決定ボタンを押した。


マップが更新され、ナビゲーションは現時点から一番近い公園、代々木公園までのルートを表示した。男はウィンカーをきり交差点を左折した。






午前11時、代々木公園の駐車場の左奥にBMWを止めた。サイドブレーキを引き、エンジンを切った。

ピローンという警告音が鳴り、ステアリングがせり上がった。


車内が静寂に包まれた。男は助手席のフットレストに置いていたバックパックを引っ張り上げた。チャックを半分程開け、広げた。中には黒い、プラスチック製のケースが3つ入っていた。男はそのうちの一つを取り出した。ケースは20×30cm程の大きさで、ずっしりと重かった。左右のロックを外し、ケースを開いた。

中には一丁の拳銃とマガジン2本が入っていた。

男はその些か不格好な拳銃を、よく知っていた。

「Serdyukov SPS・・・・・・」

まるで旧友に出会ったかの様な眼差しでケースの中の拳銃を見つめた。ケースから銃を取り出そうとしたが寸前で手を止め、ケースをパタンと閉じた。


拳銃のケースをしまった後、男はもう一つのケースを取り出した。こちらはさっきの物より一回り大きく重さもかなりあった。

こちらには短機関銃が入っていた。銃身はやや細く、小型のスコープが付いており、後ろには折り畳み式のストックが付いていた。

銃身にはロシア語で【TSNIITOCHMASH】(Central Scientific-Research Institute of Precise Mechanical Engineering )と印されていた。



突然、男の携帯電話が鳴った。

男は、携帯電話を取り出し、通話ボタンを押した。


「Hello?」


『Good Morning Alexei、How's the gun I've sent to you?』(やぁアレクセイ、送った銃は気に入ったかい?)

アレクセイと呼ばれ、男の表情が若干緩んだ。電話の相手は友人の武器商人だった。男はロシア訛りの英語で話した

「It's great。It's always good to have a gun that I know、 but explain me about the submachinegun、because I've never seen this one before」(満足だよ、使い慣れた銃を使うのは良い事だからね。ただサブマシンガンの方は説明が必要だ、見たことも使ったことも無いからね)


『All right,the submachinegun is called SR-2 Veresk.It shares same rounds as the SPS Serdyukov。It's widely usedby FSB』(そいつはSR-2 VereskつってSPSと弾丸を共用出来るようになってる。今じゃ諜報機関が良く使ってる)


ロシアも便利になったもんだなとアレクセイは笑った


『By the way』(ところでだが)電話の声が重くなった。『Did you considered about it?』(考え直してくれたか?)


「・・・・・・」アレクセイは一瞬険しい顔になり、言葉を飲み込んだ。


『Look・・・Alexei.It's been 20 years・・・You and I have stayed in this world for too long.Its that・・・・・・you know? you were being dependant、both to the FSB、and to this job.』(アレクセイ・・・もう20年になるんだ。お前も俺もこの世界に長く居すぎた・・・お前は少し依存し過ぎだ・・・KGB、FSBにも、この仕事にもだ)


アレクセイは何も言わなかった。

『After this job、 I'm planning to leave、and I hope that goes the same for you』(この仕事を最後に俺はこの世界から身を引くつもりだ、お前もそうだといいがな・・・)


電話の男は呟くように言い、電話は切られた。



アレクセイは呆然とした表情で携帯を降ろした。


『この世界から身を引く・・・』


電話の男の言葉が何度も再生された。


そして再び険しい表情に戻った。


「・・・・・・I know」(分かってるよ)


エンジンボタンを押した。車内がエンジン音に包まれる。


「Ofcourse I know」(分かってるに決まってるだろ)


ギアをDに入れ、アクセルを踏み込んだ。


BMW325iはゆっくりと発進し、駐車場を出て行った。









薄暗い部屋の中に3人の人影がいた。一人は椅子に座り、ぐったりと首を垂らしている。暗がりながらも手足が縛られ、頭に麻袋を被せられている事が確認出来た。体中傷だらけで、顔に被さっている袋には赤い吐血の後があった。

それを見つめる様に、もう二人の人影が囲む様に立っていた。

一人は黒いスーツを身に纏い、フレームレスの眼鏡をかけていた。レンズの奥から見える目は、まるで嘲笑うように男を見つめていた。


もう一人はやや小柄で細い身体をしていた。部屋の暗さで表情は確認出来ない。そのかわり、二つの瞳が僅かな光を反射し淡く光っていた。瞳は凍てつく様に冷たい色をしていて、殺意に充ち溢れていた。



「意識が飛ばない内にもう一度聞きますね、貴方がロシア人に売ったのはロシア製SPS自動拳銃一丁、SR-2短機関銃一丁、弾薬600発分、そこまで分かりました。後は雇い主の名前を言うだけで良いんです」にっこりとした笑顔で、眼鏡の人影は口を開いた。


男からは何の反応も無かった。


「乙鬼」


小柄な人影はナイフを取り出し、男の腿に深々と突き刺した。


絶叫が響いた。金切声を上げながら、男は激痛に暴れた。椅子がガタガタと激しく揺れ、たわんだカーペットに引っ掛かり倒れた。

二人は椅子と男を持ち上げ、座らせた。


「あんまり深く刺さないで下さい乙鬼、動脈切れて死なれたら洒落にならないですから」


「分かってるよ」


小柄な人影はナイフを抜き取り、更に振り下ろした。








円城は部屋のスイッチを点けた。


蛍光灯が数回点滅し、部屋が明るくなった。


「・・・・・・少し派手にやり過ぎましたね」


二人の足元には血まみれの死体がフローリングの上にはいつくばっていた。全員喉や額を深く切られており、数人は胸に銃弾が数発減り込んでいた。


「しょうがないよ、暗闇で暴れない方が無理がある」


何食わぬ顔で乙鬼は胸のホルスターから拳銃、ベレッタ90-Twoを引き抜いた。先端にはGEMTEC製の消音機サプレッサーが付いていた。

乙鬼は安全装置セイフティーを解除し、スライドを引いた。

重厚な金属音と共に.40SW弾がチェンバーに装填される。

そして乙鬼は銃を椅子に縛られている男の側頭部に向け、引き金を引いた。


バスッ


男の頭を被さっていた麻袋が一瞬風船の様に膨張し、真っ赤に染まった。

男は激しく右にのけ反った後、だらんと力無く首を垂らした。









「なぁ円城」


「何でしょう乙鬼?」


「あいつらの雇い主はどうするんだ?僕が殺すのか?」


円城はいいえ、と言うとクラウンのスターターボタンを押した。


「あの男の証言通り彼等の密輸グループの社長は2日後にジュネーブに潜伏するそうです。心配しなくても後の仕事はCIAに任せるつもりです」


「・・・・・・そうか」乙鬼の表情が少し緩んだ。



円城は少し微笑むと、ギアをDに入れクラウンを発進させた。






解説コーナー:

SPS Serdyukov:主にFSBなどロシア特殊機関に使用されている自動式拳銃(オートマチックピストル)。90年代半ばに9×19mm弾の殺傷能力に疑問を持ったロシアは、カートリッジを長くし、火薬量を増やした9×21mm弾をオリジナルで開発した。弾頭に特殊な加工がされており、100m先でも防弾チョッキを突き抜けるという極めて高い貫通性を持っている。使用弾は9×21mm弾で、装弾数は18発。


SR-2:SPSと同時期に開発された短機関銃(サブマシンガン)。使用弾はSPSと同じ9×21mm弾で、弾丸を共有出来る。


BMW 325i(E90):ドイツの車会社、BMWが2004年から発売しているDセグメント(全長4.8m以内)のスポーツセダン。BMW伝統の直列6気筒DOHCを搭載している。そしてBMWの新型ダイヤル式エンターテイメント機能、i-Driveが搭載されている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ