The Double Agent:Prologue
新章スタート
絶えること無く降り注ぐ白い雪。12月4日、午前1時05分。男は急ぎ足で雪道を歩いていた。年齢は30代後半程。シワだらけのYシャツに古くさい鼠色のコートを纏っていた。右手には、銀色のアタッシュケースを担いでいた。
男はショッピングセンターの駐車場の中に入り、入口から一番手前に止めてあった黒のアウディ・A6に乗り込んだ。
ドアを閉めると同時に男は深くため息をついた。
ここ数日間の疲れ、不安、緊張感が、男の脳裏でフラッシュバックしては燃焼し消えた。
車のキーはイグニッションに挿したままだ。
男は眉間を摘み、ゆっくりと数回揉みほぐした。ここ数日間ろくに睡眠を取っていなかった。血走った目がその疲労度を物語っている。
キーを捻りエンジンをかけた。
キュキュキュッ、ガロォン!
ディーゼル特有のガラガラとしたエンジン音が辺りに響いた。
男はヒーターのダイアルを全開にした。暖かい風が車内を包む。数日間置きっぱなしだったのか、少々埃の臭いが鼻をついた。ギアをDに入れた。アウディはゆっくりと発進した。
男の行く先は空港。
フライトのチケットはサンバイザーの中に入っている。
速度を徐々に上げ、アウディA6は夜の雪道を走り去って行った。
*
*
3月4日、20時40分。香港、カオルーンのマンションの20階の部屋で、男はパスポート2冊を燃やしていた。ブロンドだった男の髪色は黒に染められ、輪郭も少し変わっていた。ピリリリリ、ピリリリリ
携帯電話の着信音が鳴り響いた。
男はほとんど黒炭と化したパスポートを灰皿に置き、電話を取った。
「Привет 」
『Привет Алексей, его Иосиф』
「В чем дело? Я думал, что мы были приятно иметь дело」
『График был изменен. Это не произойдет сегодня 』
「Что!?」
『Старых Ваших друзей сейчас на Аэрофлота 2370 в Гонконге. Я уже договорился 』
「авиабилетом Где?」
『Токио, Япония. Скорой 』
プッ・・・ツーッツーッツーッツーッ・・・・・・
「・・・・・・」
男はしばらく何も言わなかった。ただ呆然と立ち尽くしていた。
「Токио・・・・・・」
そう小さく呟いた。
男は腕時計を見た。
もうすぐ21時。男はゆっくりと立ち上がった。
「Токио・・・」(Tokyo・・・)
男は呟いた。




