Leathal Fragrance 8.5
トラックとガードレールの間は1.88m弱ほどで、車幅1.82mのマセラティ3200GTはギリギリ入れる幅だ。乙鬼はクラッチを切り4速に叩き込んだ。慎重にアクセルをコントロールし、乙鬼はマセラティの車体をトラックと中央分離帯の隙間に持って行った。
マセラティが半分辺り程入り込んだ時、トラックの周りのアスファルトが連続的に爆ぜた。次の瞬間、トラックの左前輪のタイヤが破裂した。左側のトラクションを失ったトラックはそのままガードレールに勢いよく衝突した。コンクリートと鉄片が四方に飛び散った。反射的に乙鬼はニュートラルに入れ、ブレーキとクラッチを踏み込んだ。スキール音が響き、勢いよく減速する。マセラティがトラックから離れた。直ぐさまハンドルを右に切り、アクセルを踏み込む。後輪から白煙が巻き上がり、エンジンが6250rpmまで吹け上がる。
3速に叩き込む。タイヤが急速にグリップし、マセラティはトラックの右側、中央分離帯沿いに躍り出た。
その時、トラックの右側のタイヤのトラクションが回復する。ハンドルを目一杯右に切っていたトラックはそのままマセラティに突っ込んだ。
衝撃にマセラティは2回ほど宙に浮いた。剥き出しになったトラックのバンパー部分がマセラティの左側に突き刺さり、ドアを貫通した。
トラックから引き離そうと乙鬼はハンドルを切り込み、目一杯アクセルを踏み込んだ。
だが、4㌧もある日野製のトラックは370bhpの抵抗を物ともせず、加速を続けた。
香織は車をマセラティと同じ車線に持っていった。オートクルーズボタンを押し、アクセルペダルを放した。オートクルーズにより、速度が140kphに保たれる。XM110の取り出した。左手は離せないため、バレルをステアリングの上に乗せた。
スコープを調整し、香織は標準を合わせた。スコープの十字に少年の頭部が映る。香織はトリガーに指を添えた。
その一部始終を乙鬼は見ていた。そしてハンドブレーキを思い切り引いた。リアタイヤがロックし、回転を止める。そしてハンドルを限界まで切りこんだ。リアが滑り出し、マセラティは半ドリフト状態になった。そして一揆に運転席のドアノブを引いた。金具と金具が外れ、マセラティのドアが大きく開いた。ドアが開ききると同時に乙鬼はハンドブレーキを戻し、アクセルを全開にした。駆動力が手助けとなり、マセラティは一揆にスピンした。
バギィン!!
運転席側のドアの止め金が圧し折れ、勢いよくドアが千切れた。
ドアが千切れると同時にカウンターステアを当て、ブレーキを踏み込んだ。ABSを切っている為、タイヤが再びロックする。
マセラティは一回転し、ガードレールに衝突した。
そのまま乙鬼はアクセルを踏み込んだ。サイドウォールの限界を感じつつもタイヤはしっかりとアスファルトに噛み付いた。再び強烈なGが身体をシートに押し付ける。そしてマセラティはゆっくりと速度を上げ、トラックの群の中に消えた。
「チッ・・・・・・」舌打ちをしながら、香織はクルーズコントロールを解除した。パドルを引き、マニュアルモードに入れた。
エンジンが低くブリッピングし4速に入る。
現在XM110の残り弾数は15発。予備マガジンはあと4つもある。武力では圧倒的にこちらの方が有利だ。
香織はハンドルを握り締めた。
これで終わりにさせる。この八台のトラックの中で、あの少年を仕留めよう。何時もの様に、今まで自分が幾度無くやってきた様に。
「これで終わりにしよう・・・・・・」
そう呟くと香織はアクセルを強く踏みこんだ。タコメーターがビクンと5000rpmまで跳ね上がる。そしてメルセデスC55は弾丸のように加速した。トラックの手前に差し掛かる。アクセルを一瞬離し、香織は思い切りハンドルを切った。ブリジストン・ポテンザが力強く路面にグリップし、メルセデスは戦闘機のごとく旋回した。カウンターを当て、アクセルを踏み込む。V8が吼え、更に加速する。
二台目のトラックに差し掛かる。香織に気づいたのか、トラックはすんなりと道を空けた。香織はそのままアクセルを緩めずに加速した。
風切り音と共に後方から低いエンジン音が聞こえてきた。い、バリトンの唸るようなV8、それは紛れも無くメルセデスC55AMGのものだった。
乙鬼はバックミラーを睨んだ。ひび割れた視界から女の車を探った。
エンジン音が近付いて来る。
心臓が高鳴る。
体中の筋肉が一斉に引き締まった。
突如、黒い影がトラックの後ろから飛び出した。
「・・・・・・来た!」
マセラティの左後方から、ブラックメタリックのメルセデスベンツ・C55AMGが戦闘機の如く勢いで飛び出して来た。反射的に乙鬼は視線をミラーから離した。助手席からARX160を抜き取り、左手で構えた。
一秒
XM110のグリップを強く握り締め、香織は銃口をマセラティの方へ突き出した。スコープは使わず、フロントサイトで標準を合わせた。
二秒
マセラティとメルセデスの車体同士が、激しく接触する。ボディパネルが割れ、辺りに飛び散る。
三秒
破片の霰の中、見開かれた瞳がお互いを見詰め合う。腕を思い切り撓らせながら、勢いよく銃をお互いの方へ構えた。
ARX160とXM110、二つの銃口が交差した。
先に引き金を引いたのは香織だった。眩いマズルフラッシュと共に、7.62mmライフル弾が発射される。弾丸は乙鬼の肩をかすめ、助手席に着弾する。更にもう二発撃った。ヘッドレストが破裂し、革片が四散した。
直後、乙鬼のARXが火を噴く。XM110と違い、消音器を装着していないのでより瞬く光った。
「ギッ・・・・・・!!」香織の二の腕の皮膚を弾丸が派手に切り裂いた。
二発目を発砲した。弾丸は香織の顔面ギリギリを通過し、車外へ飛んでいった。
「ぐっ・・・・・・」
すかさず香織も撃とうとする、だが接近するトラックにそれを阻まれる。
反射的に香織はハンドルを左に切り、トラックを避けた。そして再び銃を少年に向ける。だが、
「あっ・・・・・・」
香織の目に映ったのは、少年のARX160の銃口がまっすぐ自分に向けられている光景だった。トリガーが引かれ、銃口が眩く光った。次の瞬間、大きな衝撃が走った。金属の折れる音がし、大量のFRPの破片が飛び散った。その刹那、左手がハンドルから離れた。
ブラックメタリックのメルセデスは、左に急旋回し、フロントノーズからガードレールに突っ込んだ。車体が勢いよく跳ね揚がり、そのまま空中で回転しながら、アスファルトに叩きつけられた。そのまま、7回程横転し、ようやく止まった。
カーチェイス編、やっと終わりです。
此処からはガンファイトに戻ります。
因みにドアの外れるシーン、まんま007のパクりです




